さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

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エピローグ

そして『さんかく両想い』へ

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「えええ―――っ、ななせくんに告った―――っ⁉」

セレナの絶叫が午後一のカフェテリアに響く。慌ただしい昼食時を過ぎ、多少人が減ってはいるものの、それなりに混雑した中、皆さんが何事かと振り返る。同じキャンパスの皆さんは、私の恋愛進捗状況を逐一知っているに違いない。

「ちょちょ、セレナ。声、…っ」
「でっ⁉ 何だって⁉ 付き合うって⁉」

セレナの口元を押さえようとしたら、逆に胸倉をつかまれた。興奮したセレナさんの勢いが凄まじい。頭をがくがく揺さぶられ、窒息の危険を感じて急いでななせとのやり取りを反芻する。

「…ホントむかつく‼」
「は?」
「…って言われたような」
「……。」

何とも言えない顔をして、セレナがつかんでいた私の胸元から手を離す。

「…まあ、あれか。幸せの青い鳥は実は自分の家にいたっていうか、悔しいけどコウくんが正しかったっていうかね」

うんうん、と何やら納得して「まあ、頑張りたまえよ」と肩を叩かれた。

考えてみれば。

ななせには「好き」とも「付き合う」とも言われていない。だから「彼氏」とか「恋人」とかって言っていいのか分からない。そもそも、もう10年も一緒に暮らしているわけで、既に家族なわけで、この関係性をどう変えたいのか、変えていいのかもちょっとよく分からない。

でも。

「ななせ、起きてっ! 朝ごはん、ななせの好きなオムレ、…っっ」

朝。ななせを起こしに行くと、

「…キス」

大抵ベッドに引きずり込まれて、

「で、起こして?」

長い手足に拘束される。どうやらななせは既に起きていたようで、ななせに密着されていちいち心臓が爆発している私を楽しそうに見ている。なんかずるいし、起きてるならさっさと起きてきて欲しいしっ

「ななせ、起きてるんなら、…」
「…遅え」

文句を言おうと口を開くとあっという間にななせに甘く塞がれて、そこから戻ってこられなくなる。結局のところ、

「…つぼみ。お前、遅刻するんじゃねえの?」
「…ななせのせいじゃんっ‼」

瞬く間にななせに落とされて二度寝した挙句、遅刻寸前でななせに起こしてもらう羽目になる。

もしかしてななせって本当は意外と朝に強いんじゃないかと疑っている。

おまけに、ななせは風邪をひきやすいから私の風邪をうつしちゃったんじゃないかって心配したけど、ななせはけろっと元気で、

「俺、滅多に風邪ひかないから」

不敵に微笑んだ。

「すぐひくよね? しょっちゅう、ひいてるよね⁉」

どういう意味よ、と問い質すものの、可愛い顔したケダモノに翻弄されて未だ真実はつかみきれない。

10年も一緒に暮らしてきたのに、私はななせのこと、全然わかっていなかったのかもしれない。

だから、今は。
ななせをもっと知って、ななせにもっと近づけたらいいな、と思う。

「あーあ、一番いい時じゃん。両想いが始まる時ってさ」

セレナの言葉に甘い期待が胸に迫る。

両想い。何という素敵な響き。
両想い。なのかな。私。

そんな奇跡、自分には起こり得ないと思ってた。

街で見かけるカップルも、好きで結婚した夫婦も、羨ましくて羨ましくて仕方なかった。だって誰でもいいわけじゃない。彼氏が欲しいわけじゃなくて、好きな人に好きになって欲しかった。人類が77億人いるとしたら、両想いは1/7,700,000,000の奇跡。そんなの簡単には手に入らない。

だから本当に大切にしたい。

ななせのそばにいられるように。
ななせを理解できるように。ななせの役に立てるように。

片想いの切なさも失恋の苦しさも全部尊い経験だって思わせてくれたななせに、心の底から感謝して。

「ななせ、おかえり。大好きっ」

今日も。

私のところに帰ってきてくれたななせを最大限の笑顔で迎えたい。
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