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番外編.もう少しだけあと少しだけ
02.
つぼみに出会ったのは、10年前。
両親を事故で亡くし、途方に暮れていた俺は適当に屈折していて、引き取ってくれた母さんにもつぼみにも心を閉ざしていた。父親を奪った俺を恨んでいるくせに、偽善者ぶるんじゃねえって。
つぼみの父親はつぼみの母親と離婚して、俺の母親と再婚した。普通に考えたら再婚家庭の幸せなんて祈りたくないだろうし、事故に遭ってざまあみろとまでは思わないにしても、関わり合いにはなりたくないだろう。
ひねくれた態度の俺は家でも学校でも浮いていて、誰ともつるまず居場所もなく、なんで両親は俺を置いて行ってしまったんだろうとそればかりを考えていた。
「…雨宮が、やったのか?」
ある日の放課後、担任に呼ばれて誰もいなくなった教室に残されて問い質された。クラスで微妙にいじめられている奴がいて、からかいのネタに持ち物を隠されたり濡らされたりしていたのが、最近、スマホを壊されたとか現金を盗まれたとか被害がエスカレートして親や教師にバレたらしい。で。そいつが涙ながらに俺にやられたと訴えた、とか。
アホらしくてため息も出なかった。
担任は俺を叱らず、両親に可愛がられているそいつが羨ましかったんだろうとクソみたいな慰めを吐いて、一緒に謝りに行こうと言うので死んでも嫌だと言ってやった。実際、つぼみの母親やつぼみに迷惑をかけるくらいなら死んだ方がマシだった。
「待ちなさい、雨宮。先生が相談に乗るから」
俺を扱いかねている担任を置いて学校を出ると、最近煩く絡んでくる中学生グループに囲まれた。
「カネ盗ったり、オンナ取ったり、ななせちゃんは忙しいね」
意味のない嘲笑が沸き起こる。
逃げないように周りを固められた状態で河原まで連れ出された。
『カッコいいよね』『付き合おうよ』『気持ちいいことしたくない?』
やたらと付きまとってくる中学生女子の中にグループリーダーの彼女がいたらしく、先日来、喧嘩を吹っ掛けられている。
「コウキ、ちゃんと見張ってろよ」
「う、…うん」
河原にクラスいじめの主犯がいて、中学生グループのリーダーと兄弟なのだと知った。いじめの冤罪はそういうことか、と納得した。
「人の女に手出しやがって」「小学生のくせに」「調子に乗るな」「もらわれっ子が」「お前も一緒に死ねば良かったのに」
無抵抗の相手を集団でいたぶって何が楽しいんだと次第に麻痺していく感覚の中で思う。痛みも苦しみも屈辱も。だんだん何も感じなくなって、いっそこのまま死ねたらいいのに、と思った。こいつらも、一つだけまともなことを言った。俺だって、両親と一緒に死ねば良かったって、もう何百回となく思ってる。
なんで俺だけ置いて行ったんだ。
もう幸せなんてどこにもないのに。
「に、兄ちゃん、ヤバいっ‼ なんか、頭オカシイ奴、来たっ‼︎」
土手の上からコウキが慌てふためいて駆け下りてくる。ぼんやりと顔を巡らせると、その後ろに大声で泣きわめいているつぼみが見えた。
「警察に通報したからっ‼ SNSにも投稿したからっ‼ ななせに手出したら殺してやるから―――っっ」
実際にパトカーのサイレンが聞こえてきて、騒ぎを聞きつけたらしい人も集まりかけていて、中学生グループは口々に捨てセリフを吐いてその場を逃げ出した。
「ななせ、ななせ、ななせ、…っっ」
その後は。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたつぼみが、俺の名前を呼びながらしがみ付いて離れず、重いしうるさいし、俺が死んだら、こいつはまたこんな必死な形相で泣くのかと思ったらちょっと可笑しくて、
死に損なったことしか覚えていない。
両親を事故で亡くし、途方に暮れていた俺は適当に屈折していて、引き取ってくれた母さんにもつぼみにも心を閉ざしていた。父親を奪った俺を恨んでいるくせに、偽善者ぶるんじゃねえって。
つぼみの父親はつぼみの母親と離婚して、俺の母親と再婚した。普通に考えたら再婚家庭の幸せなんて祈りたくないだろうし、事故に遭ってざまあみろとまでは思わないにしても、関わり合いにはなりたくないだろう。
ひねくれた態度の俺は家でも学校でも浮いていて、誰ともつるまず居場所もなく、なんで両親は俺を置いて行ってしまったんだろうとそればかりを考えていた。
「…雨宮が、やったのか?」
ある日の放課後、担任に呼ばれて誰もいなくなった教室に残されて問い質された。クラスで微妙にいじめられている奴がいて、からかいのネタに持ち物を隠されたり濡らされたりしていたのが、最近、スマホを壊されたとか現金を盗まれたとか被害がエスカレートして親や教師にバレたらしい。で。そいつが涙ながらに俺にやられたと訴えた、とか。
アホらしくてため息も出なかった。
担任は俺を叱らず、両親に可愛がられているそいつが羨ましかったんだろうとクソみたいな慰めを吐いて、一緒に謝りに行こうと言うので死んでも嫌だと言ってやった。実際、つぼみの母親やつぼみに迷惑をかけるくらいなら死んだ方がマシだった。
「待ちなさい、雨宮。先生が相談に乗るから」
俺を扱いかねている担任を置いて学校を出ると、最近煩く絡んでくる中学生グループに囲まれた。
「カネ盗ったり、オンナ取ったり、ななせちゃんは忙しいね」
意味のない嘲笑が沸き起こる。
逃げないように周りを固められた状態で河原まで連れ出された。
『カッコいいよね』『付き合おうよ』『気持ちいいことしたくない?』
やたらと付きまとってくる中学生女子の中にグループリーダーの彼女がいたらしく、先日来、喧嘩を吹っ掛けられている。
「コウキ、ちゃんと見張ってろよ」
「う、…うん」
河原にクラスいじめの主犯がいて、中学生グループのリーダーと兄弟なのだと知った。いじめの冤罪はそういうことか、と納得した。
「人の女に手出しやがって」「小学生のくせに」「調子に乗るな」「もらわれっ子が」「お前も一緒に死ねば良かったのに」
無抵抗の相手を集団でいたぶって何が楽しいんだと次第に麻痺していく感覚の中で思う。痛みも苦しみも屈辱も。だんだん何も感じなくなって、いっそこのまま死ねたらいいのに、と思った。こいつらも、一つだけまともなことを言った。俺だって、両親と一緒に死ねば良かったって、もう何百回となく思ってる。
なんで俺だけ置いて行ったんだ。
もう幸せなんてどこにもないのに。
「に、兄ちゃん、ヤバいっ‼ なんか、頭オカシイ奴、来たっ‼︎」
土手の上からコウキが慌てふためいて駆け下りてくる。ぼんやりと顔を巡らせると、その後ろに大声で泣きわめいているつぼみが見えた。
「警察に通報したからっ‼ SNSにも投稿したからっ‼ ななせに手出したら殺してやるから―――っっ」
実際にパトカーのサイレンが聞こえてきて、騒ぎを聞きつけたらしい人も集まりかけていて、中学生グループは口々に捨てセリフを吐いてその場を逃げ出した。
「ななせ、ななせ、ななせ、…っっ」
その後は。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたつぼみが、俺の名前を呼びながらしがみ付いて離れず、重いしうるさいし、俺が死んだら、こいつはまたこんな必死な形相で泣くのかと思ったらちょっと可笑しくて、
死に損なったことしか覚えていない。
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