さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

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番外編.もう少しだけあと少しだけ

03.

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「わたし、カレーライス作れるんだ」

つぼみが自信満々に危なっかしい手つきで野菜を切る。小5でそれは普通なんじゃないかとか、どう見ても俺の方が上手いとか、思ったけれど、言わなかった。

つぼみが作ったカレーは、水を入れ過ぎていてとろみがなくてスープみたいだし、肉は入ってないし、人参は固いのにじゃがいもは煮崩れているという、おおよそ最悪に近い出来映えだったけれど、…

食べたら、不覚にも泣きたくなった。

両親を亡くしてから初めて、まともに物を食べたような気がした。

河原での暴力沙汰以来、俺は、関わると面倒くさいことになる奴と認定されたらしく、鬱陶しく絡んでくる奴はいなくなった。

「ななせくんのおかげでいじめられなくなった」

いじめに遭っていたクラスメイトが嬉しそうに報告に来たり、

「雨宮、先生はちゃんと最初からお前じゃないって分かってたんだ」

担任が無意味な弁明をしてきたりしたけれど、

俺は相変わらず一人で、ほどほどに屈折していた。

ただ。

「ななせが無事で本当に良かった」

傷だらけの俺を、泣きながら一晩中抱きしめてくれた人を母さんと呼べるようになり、

「…クソまずい」

振り払っても、突き飛ばしても、俺の後を付いてきて、「元気が出るもの」を食べさせようと躍起になっているつぼみの料理を、残さず食べるようになった。

「…ななせ。お父さんとお母さん、いなくなって悲しいね。でも、わたし、ななせがいてくれて嬉しい」

つぼみは。

母さんが夜勤でいない日や、大雨や雷、微妙に具合が悪い時、俺と一緒に寝たがった。

小さくて柔らかい手で俺の手を必死に握りしめ、

「ずっとななせにそばに居て欲しい」

祈るように口にするつぼみが隣にいると、もう、なんで両親は俺を置いて行ったんだ、とは思わなくなった。

俺が残された意味は、多分、ここにしかない。

怖がりなつぼみは、強風や雷の音に怯えて眠れない。
でも、俺が歌うと嘘のようにあっさり眠りに落ちる。

健やかに。穏やかに。
どうか誰にも傷つけられることのないように。
どんな苦難も災いも代わりに全部俺が引き受けるから。

世界中の誰を敵に回しても。どんな理不尽なことがあったとしても。
こいつの味方でいる。

こいつが笑っていられるなら、俺は心も身体も何回だって死んでいい。

小さく寝息を立てるつぼみの柔らかな唇に誓いのキスをした。
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