セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

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「藤倉美雨です。紘弥がお世話になります」

柚くんの傍らにいた彼女は、可愛らしく会釈した。

桐生さんの素晴らしい誘導でスーツショップに向かう道すがら、仕事の話を始めた桐生さんと柚くん。その後ろから、美雨さんと並んで歩く。

「橘あおいと言います」

おずおずと名乗ると、美雨さんは一瞬目を見開いて表情をなくしたが、すぐに何事もなかったかのように

「よろしくお願いします」

にっこりと人好きのする笑顔に戻った。

モデルさん、かなぁ。

抜群のスタイルはもとより、
こちらを見つめる栗色の瞳。
カールしたまつ毛。高い鼻。艶やかな唇。
全て。自分にはないものばかり。

「フジクラ」美雨、さん。

締め付けられる胸の内に気づかないふりをして声を絞り出した。

「あの、…奥様、ですか?」
「ええ、まあ」

恥ずかしそうにうなずく彼女は、
自分でも驚くほどの破壊力で私を打ちのめした。

藤倉紘弥。

想像していなかったわけじゃない。
でも。
想像するのと事実を知るのは、全然違う。

『お前じゃなきゃ嫌だ』

もう柚くんはどこにもいない。

スーツショップに着くまで、何を話していたのか覚えていない。
周りの景色も、聞こえていたはずの音も、何も思い出せない。
色を失った世界で、斜め前を歩く柚くんの靴の踵だけが、妙に鮮明に焼き付いている。

「橘、大丈夫か?」

スーツショップで、柚くんが採寸してもらっている間、何度も桐生さんに尋ねられた。
よほどひどい顔をしているようだ。

必死で取り繕う自分の姿は、他人事のようでまるで実感がなかった。

藤倉紘弥はとっくに新しい人生を歩んでいる。

当たり前のことなのに、どうしようもなく胸が苦しい。
私だけが、未だにずっと囚われている。

あの日、柚くんのもとから逃げ出したのは、
罪の重さからじゃなく、こんな現実を見る勇気がなかったからだと
痛いほど思い知らされた。

「アイツはいいわけ?」

お手洗いから戻ろうとすると、柚くんが立っていた。壁にもたれかかって腕を組んでいる。長い脚が通路をふさぐ。

「え?」

不意打ちで、心の準備が出来ていない。
聞き返すと、ふいっと顔を背けられた。

柔らかい髪の間から形のいい耳がのぞく。

柚くんの耳。指で辿った記憶が蘇る。
柔らかい感触もくすぐったい髪も、全部覚えてる。心と身体が、全部覚えてる。

目を伏せて言い聞かせる。

あおい、プライドを持て。

心を殺して、自分を奮い立たせた。

「元気そう、だね…」

何気ないふりで話し掛けると、

とん。

グーで頭のてっぺんをこづかれた。

「…ばか」

柚くんの綺麗な瞳が揺れている。

なんで。
柚くんの声は甘く響くのかな。
なんで。
柚くんの手は優しく感じるのかな。

なんで。
もうどうにもならないのに再会しちゃったんだろう。
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