セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

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翌朝早く、一度家に帰った。

「そばにいるから」

レクサスRXの運転席から身体を回して、助手席に座る私の頭を引き寄せると、桐生さんは唇でそっと腫れた瞼に触れた。

桐生さんはどこまでも優しい。

朝日がまぶしすぎて目を開けることが出来ず、ぼんやりと出社した会社のエントランスで、人とぶつかりそうになった。

「あ、あおちゃん。おはよう」

あろうことか、結子さんだった。

「…結子さん、おはようございます」
「どうしたの? なんか目がブスだよ?」

心配そうにのぞき込んでくる結子さんは今日も美人でそつがないが、心身ともにボロボロの私は戦闘能力ゼロだった。

「総務で氷もらったら? 少しはマシになるかもよ?」
「…へい」

結子さんは張り合いなさそうに先にエレベータホールへと消えていった。

仕事しよう。
仕事しかない。

「清水さん、待てば海路の、ですからね」
「分かってるよ、谷」
「清水さん、大人になりましたね」
「黙れよ、谷」

物言いたげな視線を気力で遮断して、
ともかく仕事に没頭していたら、やがて、青ざめた細田課長に呼ばれた。

「BBAファイナンスって知ってる?」

BBA…

ババアしか思いつかなかったので、とりあえず黙って首を振った。

「そこにうちが300万振り込んでるんだけど、どうやら架空請求らしいんだよね」

架空請求。
…何か得体の知れないねっとりとしたものが足元から立ち昇ってくるのを感じる。

課長が弱り切った顔で私を見た。

「相手は即日現金を引き出して口座は既に解約済み。で、上層部、特に常務が、やらせじゃないかって疑ってる」

常務? やらせ?
甘えるように結子さんに寄りかかっていた常務の姿がぼんやり浮かぶ。

「つまり、経理担当者が実体のない相手先にわざと振り込んで自分で引き出した。…横領じゃないか、って」

急に現実が鋭く私を切り裂いた。

「そのね、全面的に君を疑っているわけじゃないんだが、…」

上階にある役員室は防音で、妙に重厚感のある革張りのソファが設えられていた。

細田課長と共に役員室に呼び出された。
緊張しなくていいから、と座らされたソファは現実味がなくて、居心地が悪い。
課長と並んで座った脇を、社長、副社長、専務、常務といった上役たちがずらりと固める。

「特別に銀行の監視カメラの映像を見せてもらったんだ。この写真なんだがね」

専務が一枚の白黒映像をプリントしたものを私たちの前に置いた。

ATMを操作する人影は、小柄な体型でスーツを着ている。スカートから女性だとわかるが、帽子と眼鏡、そしてマスクで詳しい表情はわからない。

「この眼鏡とスーツが、君のものと似ている、という声があってね」

隣で課長が観念したような息を吐いた。

待って。…ちょっと、待って。

意に反して、自分の動悸が激しくなる。

フレームが太めの眼鏡は、確かに私の眼鏡と似ていると言えなくもない。でも詳細は見えないし、こんなフレームの眼鏡はありふれている。

スーツは。

…心臓が苦しい。

見覚えのあるスーツに似ていた。

『オッケー、あおちゃん。私の着替えとメイク道具貸してあげるから、更衣室行こっ』

自分が狭い四角い檻の中に捕らえられて、唯一のドアが音もなく閉ざされるのを感じた。
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