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歓迎会はお開きになり、若干飲み過ぎたきらいのある清水さんを谷くんと抱えながら、お店を出た。
駅に向かって歩き出そうとすると、暗がりの中からスタイルの良い女の子が近づいてくる。
「…紘弥。来ちゃった」
抜群のスタイル。可愛らしい声。ピンク色の頬。
無意識に足がすくんだ。
美雨さん、だった。
「えええーっ、もしかして、藤倉美雨ちゃんじゃないですかぁ!?」
清水さんが酔いも手伝って素っ頓狂な大声を上げる。
「え、誰ですか、清水さん」
「知らないの、谷。藤倉財閥のご令嬢。超絶美人な一人娘で、モデルもやってんじゃん。確か最近電撃結婚で話題になった」
美雨さんが愛想のいい笑顔をこちらに向けた。
「こんにちは。紘弥がいつもお世話になっています」
美雨さんが動くと、ふわり、と甘いバニラのような香りが漂う。
「ひろや…、って、ああーーーっ!」
再び絶叫する清水さん。
「藤倉くん、あんたがもしかして美雨ちゃんの結婚相手―――――っ!?」
「あ、いや、…あー、まあ、…」
「ね、紘弥急いで。おじいちゃんが、…」
何か話が行き交っていたけれど、耳を塞いだ。
美雨さんといる柚くんを見たくなくて、その場を離れた。
…わかってたのに。
ホント、バカだよね。
「…橘?」
先に帰らせてもらおうと背中を向けると、優しい声が私を拾った。
「心配で、様子見に来た」
突如として現れた桐生さんは、私の姿を認めると目尻に優しい笑みを刻み、慣れた手つきで私の頭をなでた。
「来て良かったよ。…帰ろう?」
桐生さんの温かい腕が私の肩を抱き、そっと促す。
「あああ―――っ! あの2人、やっぱり付き合ってるんじゃ、…っ」
「もう、黙れよ清水」
またもや清水さんの大絶叫が聞こえたけれど、取り繕う余裕はなかった。
「橘、泣きそうな顔してる」
桐生さんが守るように私の頭を引き寄せた。
大きな手。頼れる腕。支えてくれる身体。
低く響く声。端正な横顔。ほのかにくゆる匂い。
「俺は、絶対離さないよ」
桐生さんの低音ボイスが弱った心に甘く染みた。
眠らない街のざわめき。
夜空を照らすビルの明かり。
車道を過ぎゆくテールランプ。
まだ肌寒い初春の風。
そのまま本当に、一晩中、桐生さんは私を離さなかった。
「泣いていいよ」
桐生さんのたくましい腕が、優しい指と唇が私を甘やかす。
「忘れられない奴がいてもいいよ」
桐生さんの腕の中で、柚くんを想った。
桐生さんに甘く溶かされるたび、柚くんが募った。
痛いほど思い知らされた。
柚くんがいい。柚くんじゃなきゃ嫌だ。
溢れるのは涙ばかりで声にならない。
どんなに叫んでも、もう届かない。
駅に向かって歩き出そうとすると、暗がりの中からスタイルの良い女の子が近づいてくる。
「…紘弥。来ちゃった」
抜群のスタイル。可愛らしい声。ピンク色の頬。
無意識に足がすくんだ。
美雨さん、だった。
「えええーっ、もしかして、藤倉美雨ちゃんじゃないですかぁ!?」
清水さんが酔いも手伝って素っ頓狂な大声を上げる。
「え、誰ですか、清水さん」
「知らないの、谷。藤倉財閥のご令嬢。超絶美人な一人娘で、モデルもやってんじゃん。確か最近電撃結婚で話題になった」
美雨さんが愛想のいい笑顔をこちらに向けた。
「こんにちは。紘弥がいつもお世話になっています」
美雨さんが動くと、ふわり、と甘いバニラのような香りが漂う。
「ひろや…、って、ああーーーっ!」
再び絶叫する清水さん。
「藤倉くん、あんたがもしかして美雨ちゃんの結婚相手―――――っ!?」
「あ、いや、…あー、まあ、…」
「ね、紘弥急いで。おじいちゃんが、…」
何か話が行き交っていたけれど、耳を塞いだ。
美雨さんといる柚くんを見たくなくて、その場を離れた。
…わかってたのに。
ホント、バカだよね。
「…橘?」
先に帰らせてもらおうと背中を向けると、優しい声が私を拾った。
「心配で、様子見に来た」
突如として現れた桐生さんは、私の姿を認めると目尻に優しい笑みを刻み、慣れた手つきで私の頭をなでた。
「来て良かったよ。…帰ろう?」
桐生さんの温かい腕が私の肩を抱き、そっと促す。
「あああ―――っ! あの2人、やっぱり付き合ってるんじゃ、…っ」
「もう、黙れよ清水」
またもや清水さんの大絶叫が聞こえたけれど、取り繕う余裕はなかった。
「橘、泣きそうな顔してる」
桐生さんが守るように私の頭を引き寄せた。
大きな手。頼れる腕。支えてくれる身体。
低く響く声。端正な横顔。ほのかにくゆる匂い。
「俺は、絶対離さないよ」
桐生さんの低音ボイスが弱った心に甘く染みた。
眠らない街のざわめき。
夜空を照らすビルの明かり。
車道を過ぎゆくテールランプ。
まだ肌寒い初春の風。
そのまま本当に、一晩中、桐生さんは私を離さなかった。
「泣いていいよ」
桐生さんのたくましい腕が、優しい指と唇が私を甘やかす。
「忘れられない奴がいてもいいよ」
桐生さんの腕の中で、柚くんを想った。
桐生さんに甘く溶かされるたび、柚くんが募った。
痛いほど思い知らされた。
柚くんがいい。柚くんじゃなきゃ嫌だ。
溢れるのは涙ばかりで声にならない。
どんなに叫んでも、もう届かない。
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