88 / 92
iiyori.10
07.
しおりを挟む
結婚会見、て。
そんな大それたことじゃないし。授業中だし。ほんの余談だし、…
と、うろたえる私を置き去りに、幾分かしこまった様子の卯月を抱っこした穂月がサクッと教壇に上がって私の隣に並んだ。
「ありがとうございます」
「か、…かたじけないでござる」
いつの間にか他のクラスで授業を受けていた生徒たちも先生方も、なぜか校長先生や職員室の皆さんまで教室に集まっている。
「ねえねえ、見えない」「押すな押すな」
「学校で教師と生徒の結婚会見てすごくない?」
「なえちゃんセンセ―の隠し子、隠し子じゃないんだ?」
「歳の差恋愛な上、タブー恋愛??」
「やだやだ、ずるい」「イケメン独り占め。ダメ、絶対」
圧倒的な好奇心の隅で、可愛い女生徒たちが一部絶望感に揺さぶられて、悲壮な様子を見せている。
「まあまあ」「とりあえず話聞こうぜ」
教室には入りきれずに廊下にも人が鈴なりになっていて、いつの間にか押し合いへし合いの大混雑状況になっていた。
「俺は、なえと祝言を上げるためにここに来た」
穂月の凛とした声が響く。一瞬にしてその場が静まり返った。
穂月は一国一城の主だったから。
何千何万の兵士を指揮する武将で、戦場を先陣を切って駆け抜けてたから。人心をつかむのは得意というか、生まれながらの将軍というか、注目されるのにも慣れていて、一瞬にして全員の視線をさらっていく。
「でも今はまだ、俺と卯月はなえに保護されている。俺は、この世界で妻と子を守って生きていく力を身に着けたい。そのために、出来ることは何でもやる。だからどうか、皆さんには、…力を貸して欲しい、です」
好奇や興味や嘲りや、スキャンダラス的なものを探ろうとする視線が消えた。
恨みや嫉みや僻みのような、負の空気がなくなった。悲壮感を漂わせていた女生徒たちも、諦めと納得が混ざり合った寛容な表情を浮かべていた。温かな拍手が沸き起こり、それが教室中に広がって、校舎に集う人たちを包んだ。
「あんな風にお願いされちゃ、協力するしかないよね」
「どうせ付け入る隙はどこにもないし」
「あんなに流されやすそうななえちゃんセンセ―なのに、あんたにはまるで流されなかったもんね」
「悪かったな」
教室の後ろの方に陣取った鷹峰 明希と坂下 沙里が小声で囁く。
「あんな、…この世界にただ一人の運命の相手みたいな二人じゃ、悔しいけど敵わないな」
「…なに。お前穂月に結構本気だったんだ?」
「あーあ。私も30までにあんな人に出会いたい」
「まあ、あと十数年じゃ無理かもよ? アイツら100年単位じゃん」
「…確かに」
二人は、顔を見合わせて同志の笑みを浮かべた。
拍手の中、校長先生が進み出て、教壇に並んだ。
「18歳は成人ですからね。自分で物事を判断しなければならない。とはいえ、選択を間違えたと思うことも、失敗したと思うこともあるでしょう。でも、その時精いっぱい悩んで決めたことならば、それは失敗ではなく、必要な過程だったということです」
最後に、校長先生が私と穂月に向き直る。
「倉咲先生、志田くん、ご結婚おめでとうございます。必要な手続等についてお話ししたいので、この後校長室に来てもらえますか」
校長先生はとても寛大で、そして、とても現実的だった。
そんな大それたことじゃないし。授業中だし。ほんの余談だし、…
と、うろたえる私を置き去りに、幾分かしこまった様子の卯月を抱っこした穂月がサクッと教壇に上がって私の隣に並んだ。
「ありがとうございます」
「か、…かたじけないでござる」
いつの間にか他のクラスで授業を受けていた生徒たちも先生方も、なぜか校長先生や職員室の皆さんまで教室に集まっている。
「ねえねえ、見えない」「押すな押すな」
「学校で教師と生徒の結婚会見てすごくない?」
「なえちゃんセンセ―の隠し子、隠し子じゃないんだ?」
「歳の差恋愛な上、タブー恋愛??」
「やだやだ、ずるい」「イケメン独り占め。ダメ、絶対」
圧倒的な好奇心の隅で、可愛い女生徒たちが一部絶望感に揺さぶられて、悲壮な様子を見せている。
「まあまあ」「とりあえず話聞こうぜ」
教室には入りきれずに廊下にも人が鈴なりになっていて、いつの間にか押し合いへし合いの大混雑状況になっていた。
「俺は、なえと祝言を上げるためにここに来た」
穂月の凛とした声が響く。一瞬にしてその場が静まり返った。
穂月は一国一城の主だったから。
何千何万の兵士を指揮する武将で、戦場を先陣を切って駆け抜けてたから。人心をつかむのは得意というか、生まれながらの将軍というか、注目されるのにも慣れていて、一瞬にして全員の視線をさらっていく。
「でも今はまだ、俺と卯月はなえに保護されている。俺は、この世界で妻と子を守って生きていく力を身に着けたい。そのために、出来ることは何でもやる。だからどうか、皆さんには、…力を貸して欲しい、です」
好奇や興味や嘲りや、スキャンダラス的なものを探ろうとする視線が消えた。
恨みや嫉みや僻みのような、負の空気がなくなった。悲壮感を漂わせていた女生徒たちも、諦めと納得が混ざり合った寛容な表情を浮かべていた。温かな拍手が沸き起こり、それが教室中に広がって、校舎に集う人たちを包んだ。
「あんな風にお願いされちゃ、協力するしかないよね」
「どうせ付け入る隙はどこにもないし」
「あんなに流されやすそうななえちゃんセンセ―なのに、あんたにはまるで流されなかったもんね」
「悪かったな」
教室の後ろの方に陣取った鷹峰 明希と坂下 沙里が小声で囁く。
「あんな、…この世界にただ一人の運命の相手みたいな二人じゃ、悔しいけど敵わないな」
「…なに。お前穂月に結構本気だったんだ?」
「あーあ。私も30までにあんな人に出会いたい」
「まあ、あと十数年じゃ無理かもよ? アイツら100年単位じゃん」
「…確かに」
二人は、顔を見合わせて同志の笑みを浮かべた。
拍手の中、校長先生が進み出て、教壇に並んだ。
「18歳は成人ですからね。自分で物事を判断しなければならない。とはいえ、選択を間違えたと思うことも、失敗したと思うこともあるでしょう。でも、その時精いっぱい悩んで決めたことならば、それは失敗ではなく、必要な過程だったということです」
最後に、校長先生が私と穂月に向き直る。
「倉咲先生、志田くん、ご結婚おめでとうございます。必要な手続等についてお話ししたいので、この後校長室に来てもらえますか」
校長先生はとても寛大で、そして、とても現実的だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる