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feel.4
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「…今朝、榊と一緒に来たわね」
気づいたら、有住教授がニヤニヤ笑いを浮かべながら私を見ていた。
アパート前に着いたという連絡をくれた榊さんからの電話に、2秒で出て、「早いね」って驚かれたことを思い出した。
「アタシの人選に感謝して、いい仕事してちょうだい」
「…失礼します」
研究室を出るまで、ずっと教授のニヤニヤ笑いがついてきた。
榊さんは直属の上司で、既婚者ですから。
少なくともあっちは何とも思ってないですから。
「…深森、さん」
研究室前の通路で頭を振りながら自分に言い聞かせていたら、通りがかりの人に固い視線を向けられた。
「あ。…どうも」
自分の体温が1℃下がる。
ひまわり畑は未だ燻っている。
香ばしいような。焦げ臭いような。
想うことが罪なら、私は大罪を犯している。
「来週からの予定でしたけど、今日から事前研修に入りました」
白衣を着た美南さんが無表情のまま、事務的な口調で近づいてくる。
黎くんに見せていた甘えるような可愛らしい笑顔とは程遠く、
私の存在が彼女のプライドを傷つけたことを感じた。
「…榊先生と不倫してること、奥さんにばらされたくなかったら、黎に近づかないで」
汚いものを見るような視線を向けて、切り捨てるように言葉を投げつけると、
どんな言い訳も受け付けない背中を見せて、足早に遠ざかっていった。
今までの人生で最も多い他者からの反応。
慣れている。けれど。
慣れているからといって何も感じないわけじゃない。
研究室に設えられた棚で器材の確認をしていたら、
ポケットに入れていたスマートフォンが震え、動揺のあまり、手に持っていたガラス器具を落としてしまった。
「大丈夫ですか?」
「深森ちゃん、珍しいね」
派手な音を立ててガラスが割れ、床に散らばる。
静かにそれぞれの業務をしていた研究室の注目を集めてしまった。
「あ、ちょ、…え、…」
こんな失態は初めてで、動揺に動揺を重ねて、バカみたいに狼狽えてしまった私の隣に、
「傷、痛むか? 無理しなくていいよ」
榊さんがそっと寄り添って、
「あ、榊さん。やりますよ」
「深森ちゃんでも、やらかすことあるんだね」
研究室メンバーの野田くんと芽衣子さんが、箒とちりとりを持って素早く駆けつけてくれた。
「そりゃそうですよ。昨日暴漢に刺されたんですよ。動揺しますって」
私より少し後輩の研究助手、野田くん。
誠意。熱意。スポーツドリングの匂い。
大抵濃いブルーをまとっているけれど、時折赤に振り切れる。
感情と言動が直結しているところは有住教授に似ている。
「いやだって、深森ちゃん、鉄仮面だから」
先輩研究員で秘書業務もこなす芽衣子さん。
眼鏡と白衣が良く似合い、艶やかな髪を緩く巻いている。
南国パッションフルーツの匂い。
大抵ピンクをまとって恋に溢れている。
気づいたら、有住教授がニヤニヤ笑いを浮かべながら私を見ていた。
アパート前に着いたという連絡をくれた榊さんからの電話に、2秒で出て、「早いね」って驚かれたことを思い出した。
「アタシの人選に感謝して、いい仕事してちょうだい」
「…失礼します」
研究室を出るまで、ずっと教授のニヤニヤ笑いがついてきた。
榊さんは直属の上司で、既婚者ですから。
少なくともあっちは何とも思ってないですから。
「…深森、さん」
研究室前の通路で頭を振りながら自分に言い聞かせていたら、通りがかりの人に固い視線を向けられた。
「あ。…どうも」
自分の体温が1℃下がる。
ひまわり畑は未だ燻っている。
香ばしいような。焦げ臭いような。
想うことが罪なら、私は大罪を犯している。
「来週からの予定でしたけど、今日から事前研修に入りました」
白衣を着た美南さんが無表情のまま、事務的な口調で近づいてくる。
黎くんに見せていた甘えるような可愛らしい笑顔とは程遠く、
私の存在が彼女のプライドを傷つけたことを感じた。
「…榊先生と不倫してること、奥さんにばらされたくなかったら、黎に近づかないで」
汚いものを見るような視線を向けて、切り捨てるように言葉を投げつけると、
どんな言い訳も受け付けない背中を見せて、足早に遠ざかっていった。
今までの人生で最も多い他者からの反応。
慣れている。けれど。
慣れているからといって何も感じないわけじゃない。
研究室に設えられた棚で器材の確認をしていたら、
ポケットに入れていたスマートフォンが震え、動揺のあまり、手に持っていたガラス器具を落としてしまった。
「大丈夫ですか?」
「深森ちゃん、珍しいね」
派手な音を立ててガラスが割れ、床に散らばる。
静かにそれぞれの業務をしていた研究室の注目を集めてしまった。
「あ、ちょ、…え、…」
こんな失態は初めてで、動揺に動揺を重ねて、バカみたいに狼狽えてしまった私の隣に、
「傷、痛むか? 無理しなくていいよ」
榊さんがそっと寄り添って、
「あ、榊さん。やりますよ」
「深森ちゃんでも、やらかすことあるんだね」
研究室メンバーの野田くんと芽衣子さんが、箒とちりとりを持って素早く駆けつけてくれた。
「そりゃそうですよ。昨日暴漢に刺されたんですよ。動揺しますって」
私より少し後輩の研究助手、野田くん。
誠意。熱意。スポーツドリングの匂い。
大抵濃いブルーをまとっているけれど、時折赤に振り切れる。
感情と言動が直結しているところは有住教授に似ている。
「いやだって、深森ちゃん、鉄仮面だから」
先輩研究員で秘書業務もこなす芽衣子さん。
眼鏡と白衣が良く似合い、艶やかな髪を緩く巻いている。
南国パッションフルーツの匂い。
大抵ピンクをまとって恋に溢れている。
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