Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】

feel.6

05．

中里大学病院には、付属機関の有住研究センターで開発・創薬された薬品が、製薬会社を通じて多数納品されている。

そのルートのどこかでANを紛れ込ませることは可能、…なのかな。

「どこかで接触した覚えは、…ないんだよな？」

ゆっくりグラスを傾ける黎くんの首筋がきれいで。
斜めに視線を傾ける黎くんの瞳がきれいで。

バカみたいにうなずいて、グラスをあおった。
アルコールが喉を焼く。力を貸してほしい。

素面じゃ黎くんが眩し過ぎる。

「年に何回か、医療従事者の方々と会議をしに病院に行くこともあるけど、…」
「相手が一方的に知ってる、ってことはあり得るわけか」

有住教授の研究室に属している研究員なら、みんな薬品庫に入ることが出来る。
有住教授、榊さん、私、芽衣子さん、野田くん、そして、美南さん。
他に4人の研究員。もちろんセンターには他にも人がいるけど。

でも。無断でANを持ち出して、病院の薬に紛れ込ませて一般人に服用させるなんて。

やろうと思えば可能かもしれないけど、そんなことする人いるのかな。
今更だけど、本当に内部関係者なのかな。

アスパラ海苔炒め、小あじとナスの梅肉和え、ヒジキとアボカドのサラダ、大根ステーキ、トマトメンチカツ、…

アルコールがいい感じに回ってきて、頑なな鎧が外れて、新鮮なお料理と美味しいお酒が沁みてきた。

「お前、それ、俺の、…」

黎くんがお酒飲んでる。
制服姿が眩しかった黎くんが。
私の隣で。



「なんで結婚してるの？ なんで結婚しちゃったの？」

考えてみれば。
酔っ払うほどお酒を飲んだことがない。

「バカ。人がせっかく今度こそ素直に、…」

お酒は別に嫌いとかじゃないけど、一緒に飲むような友だちも家族も職場の仲間もいないし、飲むとガードが甘くなって、無駄に悪臭を拾ってしまうし。

「素直になろうと思ったのに、…」

仕事でやむなく乾杯することもあるけど、気を緩められないからほどほどでやめておくし、ウチで1人で飲んでもたかが知れてるし。

「素直に、ありがとう、って言って、それから、どんなに特別か、どんなに救われてるか、どんなにもっと近くにいきたいかって、…」

だから。
酔うと、心の声が漏れてしまうなんて知らなかった。

思考回路がショートして、脈絡がなくなって、築き上げた外界との壁も薄れて、心の奥にしまってあったことが口を突いて出てきてしまう。

「ちゃんと素直に伝えたいって思ったのに」

普段なら絶対言わないことが、後先考えずに出てきてしまう。

美味しくて、楽しくて、嬉しくて。
黎くんがそばにいてくれて嬉しくて。

ガードが全部外れて、気づいたらずっとしゃべってた。

多分。
初めてありのままの自分で、そのままの自分の気持ちを口に出してた。

「…お前、飲むといつもこんななの？」

距離感が分からなくなって、普段ならありえないほど近くに黎くんがいる気がする。

「…くっそムカつく」