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feel.11
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しかしながら。
そんなに期待して見られても、恐らくバカみたいな顔しか出来なかったと思う。
理解が追いつかない。
榊さんの結婚指輪からANが出てきた。
ってことは、つまり。
心臓の鼓動が脳の血管と共鳴して響く。
頭の中で蝉が鳴いて煩くて考えられない。
答えは一つしかないような気もするけど。
そこに辿り着くのを身体が拒否して、
でも、どこかで確信もしている。
榊さんは、感情の匂いが視えない。
凪いだ海のような、穏やかな彼自身の匂いしかしない。
ANからは、何の匂いもしなかった。
極秘に持ち出すような緊張感の強いられる行動は、平常心ではいられない。
何らかの昂ぶった感情が香るはず。
普通の人であれば。
つまり。
研究センターの薬品庫からANを持ち出したのは、
独自に一般の人に服用させたのは、…
「…―――」
声が出せなくて良かった。
『ただ、好きなだけだから』
『俺がやりたくてやってるんだよ?』
『初デート、やり直そうな』
今、その名前を口にしたら、なんだか立ち直れなくなりそうな気がした。
「先ほど、この指輪は預かったと仰いましたが、指輪を預かる、とは、なかなか珍しい。深森さん、誰からこの指輪を預かったんですか? 本当に、あなたのものではないんですか?」
そんな私の心情とは裏腹に、警察官が強い調子で『答えろ』と、私に手帳を押し付けてくる。
押し付けられた手帳を受けとったけれど、ペンを持つ手に力が入らない。
なんて書いたらいいのか分からない。
榊さん。
榊さんなの? 本当に?
ペンを持つ手が逡巡して、視線を手帳に落とすけれど、正解は何も書かれていない。
「深森ゆのが自宅にANを隠し持っている」
私が黙ったまま動かずにいると、話を主導している年配の警察官が低い声でつぶやいた。
驚いて顔を上げると、
「という情報提供が、匿名でありました」
警察官の鋭い目線につかまった。
「あなたのものなのか、違うのか。違うなら誰のものなのか、正直にお話しいただいたほうがいいと思いますよ」
目を逸らすことが出来ない。
暗に「お前が犯人か疑ってる」って言ってる。
研究室の空気が異常によそよそしかったことを思い出した。
「自作自演」「やらせ」「被害者ぶって」
「あの子の言う通り」「薬漬け」「恐ろしい」
悪意ある単語に溢れていた。
犯人に仕立て上げようとする集団の力は、自分が思っていたよりももっとずっと強力だったことを思い知らされた。
力なく首を横に振ると、
「断じてあなたのものではない、と」
「では、誰のものですか?」
年配の警察官と若い方の警察官が息を合わせて追い詰めてくる。
そんなに期待して見られても、恐らくバカみたいな顔しか出来なかったと思う。
理解が追いつかない。
榊さんの結婚指輪からANが出てきた。
ってことは、つまり。
心臓の鼓動が脳の血管と共鳴して響く。
頭の中で蝉が鳴いて煩くて考えられない。
答えは一つしかないような気もするけど。
そこに辿り着くのを身体が拒否して、
でも、どこかで確信もしている。
榊さんは、感情の匂いが視えない。
凪いだ海のような、穏やかな彼自身の匂いしかしない。
ANからは、何の匂いもしなかった。
極秘に持ち出すような緊張感の強いられる行動は、平常心ではいられない。
何らかの昂ぶった感情が香るはず。
普通の人であれば。
つまり。
研究センターの薬品庫からANを持ち出したのは、
独自に一般の人に服用させたのは、…
「…―――」
声が出せなくて良かった。
『ただ、好きなだけだから』
『俺がやりたくてやってるんだよ?』
『初デート、やり直そうな』
今、その名前を口にしたら、なんだか立ち直れなくなりそうな気がした。
「先ほど、この指輪は預かったと仰いましたが、指輪を預かる、とは、なかなか珍しい。深森さん、誰からこの指輪を預かったんですか? 本当に、あなたのものではないんですか?」
そんな私の心情とは裏腹に、警察官が強い調子で『答えろ』と、私に手帳を押し付けてくる。
押し付けられた手帳を受けとったけれど、ペンを持つ手に力が入らない。
なんて書いたらいいのか分からない。
榊さん。
榊さんなの? 本当に?
ペンを持つ手が逡巡して、視線を手帳に落とすけれど、正解は何も書かれていない。
「深森ゆのが自宅にANを隠し持っている」
私が黙ったまま動かずにいると、話を主導している年配の警察官が低い声でつぶやいた。
驚いて顔を上げると、
「という情報提供が、匿名でありました」
警察官の鋭い目線につかまった。
「あなたのものなのか、違うのか。違うなら誰のものなのか、正直にお話しいただいたほうがいいと思いますよ」
目を逸らすことが出来ない。
暗に「お前が犯人か疑ってる」って言ってる。
研究室の空気が異常によそよそしかったことを思い出した。
「自作自演」「やらせ」「被害者ぶって」
「あの子の言う通り」「薬漬け」「恐ろしい」
悪意ある単語に溢れていた。
犯人に仕立て上げようとする集団の力は、自分が思っていたよりももっとずっと強力だったことを思い知らされた。
力なく首を横に振ると、
「断じてあなたのものではない、と」
「では、誰のものですか?」
年配の警察官と若い方の警察官が息を合わせて追い詰めてくる。
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