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feel.16
01.
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黎くんと手を繋いだままタクシーに乗った。
黎くんがドライバーにさらっと行き先を告げる。都心から少し離れて、豊かな自然に囲まれた富士山と湖が一望できる避暑地。
「知り合いの建築家がデザイン監修した宿があるんだけど、静かで落ち着いた感じだからゆっくり出来たらいいなと思って」
黎くんが邪気のない笑みを浮かべるけれど、「宿」ワードに密かに心臓が跳ね上がる。繋いでいる手が心臓になったみたいにドキドキせわしなく脈打って、この緊張が黎くんに伝わってしまうんじゃないかと焦る。
これから静かで落ち着いた宿に行く。当然、泊まる。
泊まるってことは、つまり。…つまり、つまるわけですよ。
顔が沸騰しそうに熱くなる。
厄介な性質のおかげで、一生そういうことには縁がないと思っていた。
だから哀しいかな、三十路目前だというのに一切何の経験もない。近づくだけで相手の感情を感じ取ってしまうのに、触れたら後悔するに決まっている。
でも。黎くんは。黎くんだけは。特別。
近づきたいし近づいて欲しいし、触れたいし触れて欲しいし。
失くすことが怖くて一度は離れたけれど、もう二度と離れたくない。
だからもちろん黎くんなら何でもOKだし、望むところというか、嬉しいというか、幸せ以外の何ものでもないはずなんだけど、…一抹の不安が残る。
黎くんが完璧すぎて。
絶対に役不足だという自信がある。
なにしろ黎くんはこの見た目であの中身という、非の打ち所がどこにもない上にスキルも高い。経験も多分、言うまでもなく、…美南さんの顔がチラリと浮かんで胸が痛む。いや、痛んでいる場合じゃない。そういった過去あまたの経験の中でも最低ランクを記録するであろうことは間違いない。
黎くんと離れていた7年間、卑屈さを凝り固ませる以外に何もしなかった自分にツケが回ってきた。
私は黎くんをがっかりさせてしまう。
頭の中をいろいろなことがぐるぐる回って、不安と緊張を募らせていく私を、多分黎くんは一瞬で見抜いて、
「…まあ。何かする気満々だけど、…」
繋いだ手を持ち上げて、私の手の甲にキスした。
ちょ、黎くん。何それ、王子っ? リアル王子キタこれ?
何でも様になる黎くんに心臓が二段抜かしで跳ね上がる。
「無理にはしないから。大変なことが続いたから、ゆのにゆっくりして欲しい、…てか、ゆのとゆっくりしたい」
黎くんが手の甲に唇を付けたまま、やや上目気味に私を見た。
カッコいい上に可愛いとかずるい。
触れてくれた手の甲から、黎くんの優しさが沁み込んで、ゆっくりと全身に広がっていく。
「…うん」
『ゆのとゆっくりしたい』
やっぱり黎くんは完璧だ。黎くんは誰かと比べたりしないと信じられる。
緊張は勿論あるし、不安もそれなりにあるけれど、それよりも黎くんが隣にいてくれるという喜びに満たされる。私も自分を誰かと比べるのは止めようと思う。何にも上手く出来なくて、卑屈で可愛げもないけれど、ただ黎くんを好きな気持ちだけで一緒にいたいと思う。
「ありがとう、黎くん」
タクシーが高速道路に入り、暮れがかった山間の道を滑らかに走る。
黎くんとつないだ手に力を込めると、黎くんが小さく笑って甘い吐息が肌をくすぐった。
黎くんがドライバーにさらっと行き先を告げる。都心から少し離れて、豊かな自然に囲まれた富士山と湖が一望できる避暑地。
「知り合いの建築家がデザイン監修した宿があるんだけど、静かで落ち着いた感じだからゆっくり出来たらいいなと思って」
黎くんが邪気のない笑みを浮かべるけれど、「宿」ワードに密かに心臓が跳ね上がる。繋いでいる手が心臓になったみたいにドキドキせわしなく脈打って、この緊張が黎くんに伝わってしまうんじゃないかと焦る。
これから静かで落ち着いた宿に行く。当然、泊まる。
泊まるってことは、つまり。…つまり、つまるわけですよ。
顔が沸騰しそうに熱くなる。
厄介な性質のおかげで、一生そういうことには縁がないと思っていた。
だから哀しいかな、三十路目前だというのに一切何の経験もない。近づくだけで相手の感情を感じ取ってしまうのに、触れたら後悔するに決まっている。
でも。黎くんは。黎くんだけは。特別。
近づきたいし近づいて欲しいし、触れたいし触れて欲しいし。
失くすことが怖くて一度は離れたけれど、もう二度と離れたくない。
だからもちろん黎くんなら何でもOKだし、望むところというか、嬉しいというか、幸せ以外の何ものでもないはずなんだけど、…一抹の不安が残る。
黎くんが完璧すぎて。
絶対に役不足だという自信がある。
なにしろ黎くんはこの見た目であの中身という、非の打ち所がどこにもない上にスキルも高い。経験も多分、言うまでもなく、…美南さんの顔がチラリと浮かんで胸が痛む。いや、痛んでいる場合じゃない。そういった過去あまたの経験の中でも最低ランクを記録するであろうことは間違いない。
黎くんと離れていた7年間、卑屈さを凝り固ませる以外に何もしなかった自分にツケが回ってきた。
私は黎くんをがっかりさせてしまう。
頭の中をいろいろなことがぐるぐる回って、不安と緊張を募らせていく私を、多分黎くんは一瞬で見抜いて、
「…まあ。何かする気満々だけど、…」
繋いだ手を持ち上げて、私の手の甲にキスした。
ちょ、黎くん。何それ、王子っ? リアル王子キタこれ?
何でも様になる黎くんに心臓が二段抜かしで跳ね上がる。
「無理にはしないから。大変なことが続いたから、ゆのにゆっくりして欲しい、…てか、ゆのとゆっくりしたい」
黎くんが手の甲に唇を付けたまま、やや上目気味に私を見た。
カッコいい上に可愛いとかずるい。
触れてくれた手の甲から、黎くんの優しさが沁み込んで、ゆっくりと全身に広がっていく。
「…うん」
『ゆのとゆっくりしたい』
やっぱり黎くんは完璧だ。黎くんは誰かと比べたりしないと信じられる。
緊張は勿論あるし、不安もそれなりにあるけれど、それよりも黎くんが隣にいてくれるという喜びに満たされる。私も自分を誰かと比べるのは止めようと思う。何にも上手く出来なくて、卑屈で可愛げもないけれど、ただ黎くんを好きな気持ちだけで一緒にいたいと思う。
「ありがとう、黎くん」
タクシーが高速道路に入り、暮れがかった山間の道を滑らかに走る。
黎くんとつないだ手に力を込めると、黎くんが小さく笑って甘い吐息が肌をくすぐった。
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