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02.

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私の家の浴室で、見知らぬ若いイケメンがシャワーを浴びている。
通報されるかもしれない。

っていうか。あの人誰!? 
知り合いらしいけど思い出せない。あんな麗しい子と知り合ってたら、今こんな枯れ切った生活してないって言うね。

古くて狭いワンルームの社宅内をうろうろと歩きながら、浴室から聞こえる水音に目が、否、耳が離せない。

だいたい。
なんでキスした? なんでキスした?

ぐるぐる歩き回る足と同様、思考もぐるぐる回って定まらない。

イケメンともなると怒りをキスで表すものなのか? いや、そんな馬鹿な。だったら痴女天国バンザイですよ。ていうか、「先」シャワーって何? シャワーの「後」があるってこと? 後って何!? 何があるの!?

キャパシティオーバー。脳内クラッシュ。何も考えられない。何も手につかない。バスタオルを握りしめて狭い部屋の中を行ったり来たり。

そもそも。
泊めてって言ってなかった? 泊めてって。若い男の子と一晩一緒にいてすることっていったら、…―――

「ゆりの~? なんか、着るもん貸して」
「うぎゃあああ―――――っ」

ふしだらな想像をしていたら、バスタオル一枚という夢のような姿で水も滴る完璧なイケメンが浴室から出てきて、慌てふためいて絶叫した。

「…るせ」

迷惑そうに顔をしかめたイケメンは、腕を伸ばして私の口を塞ぐ。

ぎゃあああ、触れた―――、全裸のイケメンと密着―――――っ

声が出せない分、脳内が大騒ぎ。
な、艶めかしいっていうか、滑らかっていうか、生温かいっていうか? お肌すべすべっ、つるつるっ、なのに引き締まってて弾力があって、なんていうか、最高潮に麗しいっ!!

「いちいちうるせえ。見慣れてんだろ。昔、散々一緒に風呂入ったんだし」

この極上イケメンとお風呂!?
そんなファンタジーあってたまるか――――っ

「お前、まだ俺のこと分かんないの?」

もう。鼻血出そう、…

叫びたいのに叫べずに、もはやのぼせる勢いで鼻息を荒くしている私を鼻で笑うと、

季生きおだよ」

極上イケメンは私から手を離して背中を向けた。

怖いくらい美しい背中に釘付けになる。

真っすぐに伸びた背筋。程よくついた逆三角形の筋肉。滑らかに引き締まって、思わず触りたくなってしまう艶めいた素肌。その美しい肩甲骨に透ける小さな二枚の薄い羽、…

『ゆりの、なくな。おれのひみつおしえてやるから』

おぼろげな記憶の欠片が脳裏に蘇る。

暑い夏の夜。畑を渡る風。障子に映る虫の影。
切れかけた照明。押し入れの匂い。畳に広がるタオルケット。
幼い男の子の高い体温。

『おれのはねは、ゆりのと、とぶためにあるんだ』

遠い昔。
そんなことを言ってくれた男の子がいなかったか。

「…季生くん?」
「そう。お前の弟

背中に天使の羽を持つ夢のように綺麗な男の子がいなかったか。

「えええええ――――っ、季生くん――――――!?」
「…お前、ホントうるせえな」
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