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雨瀬 季生あませ きおくんは、かつて私の弟だった。

私の母は恋愛体質で、未婚のまま17歳で私を出産し、その後も常に男の人が絶えず、結婚と離婚を繰り返し、今は田舎で四人目の旦那さんと異父妹と猫二匹と仲良く暮らしている。

その母の、二度目の結婚相手の連れ子が季生くんで、その頃私たちは一緒に暮らしていた。

高校生だった私に出来た13歳下の弟は、天使の見た目も相まって可愛くて可愛くて仕方のない存在だった。ご飯も一緒、お風呂も一緒、もちろん寝るのもいつも一緒。保育園の送り迎えも休日の公園も、季生くんのお世話は喜んで全て引き受けた。

『小牧さんて絡みづらいよね』
『いい子ぶってるけど男好き』
『あそこ、母親もビッチなんだって』
『ああ、分かる。育ちが滲み出てる』

周りに合わせるスキルのない私は、会話でもジェスチャーでも巧い返しが出来ずに浮きまくり、和気あいあいとした青春に憧れながらも現実は虚しいボッチ生活を送っていた。学校生活、進路、人間関係に行き詰って、自己嫌悪に塞ぐ日々の中、

季生くんは、私のオアシスだった。

『ゆりの、なくな。おれのひみつおしえてやるから』

生まれつき背中に羽があるという特異体質な季生くんは、その重大な秘密を私だけに教えてくれた。励ますために。素直で可愛くて優しくて、季生くんは、私の唯一の癒しで拠り所で存在意義だった。

けれど、母と季生くんのお父さんは半年も経たずに破局し、ある日気が付いたら季生くんはいなくなっていた。

背中に天使の羽を持つ夢のように綺麗な男の子は、本当はやっぱり空から降りて来た天使で、役目を終えてまた空に戻っていったんだ、…

と、苦しくとも無理やり自分を納得させ、美しい思い出として大切に胸の奥にしまっておいた、のに。
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