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本編
23:叩けば出るもので
その日はずっとその噂で持ちきりだった。
当事者のケヴィン先生は体調不良でお休みだそうで、食堂でチラリと見かけた逆ハー軍団の中にも当然居ない。一瞬だけ目が合ったマエリスもプイと不満げに視線を反らして、こちらに突っかかってくることは無かったわ。
さらにアントナン殿下が接触してくることも無く、私は拍子抜けするほどあっさりと放課後を迎えたのよ。
屋敷に帰るため馬車の停留所に向かって歩いていく。
いつのまにか空には、雪が降りそうな重そうな雲が広がりどんよりとしていた。
いまにも雪が降りそうね~と双子と軽口をたたいていた所で、またまた家の馬車が故障したと言われたわ。
それを聞いて私の口から大きなため息が漏れたのは仕方が無いわよね?
それにしても最近の故障の頻度と言ったら……
無いわー
「じゃあメレーヌ、イレーヌ。
不埒者が来たら遠慮なくやって頂戴ね」
前回同様そう言ってはみたものの、彼女らが手を出す事はないだろう。
だって二人とも困ったように苦笑してるもん。
そんな訳で数分後。メレーヌの手によって丁重に捕獲されたフェルが、私の前へ不満げにやって来たわ。
「ふぅ……、どうして殿下は普通に誘って下さらないのですか?」
「きょ、今日は違うんだ! 母上の命令で僕はジルダを連れに来ただけだ」
なるほどこれは王妃様の手口なんですね……
「よいですか殿下。これは良くないことです。
私を誘いたいのなら、ちゃんと自分の口で言ってください」
頭の良いフェルは、私が『殿下』と『フェル』を使い分けている事に気づいている。
だから彼は、
「すまない、次回からはちゃんとする」
と、『殿下』と呼んだ時には素直な謝罪を忘れないのだ。
素直なフェルはとても可愛いのよ。
「分かりました。次回はちゃんと誘ってくださいねフェル」
そう言ってニッコリと微笑むと、フェルは途端に赤面してしどろもどろになるの。
ちょろいなフェル……とか思ってないわよ?
※
連れて行かれたのは王宮の一室、その部屋は暖炉に薪がくべられていて室内は程よく暖かかった。
流石にこの季節は薄ら寒いガラス張りの庭園の見える場所じゃなくてホッとしたわ。
部屋の中には、王妃様とオディロン様が待っていらっしゃった。
しかし王妃様は、「わたくしは部屋を提供しただけよ」と、笑って静観するご様子だ。そしてフェルは婚約者たる私を心配して同席しているだけ。
従って……
挨拶もそこそこに、オディロン様は、
「噂を聞いてくれたかな?」
と、にやりと笑って私に問い掛けてきたわ。
相変わらず私の周りには、素直に笑える人は居ないみたい。
「今朝聞きました。しかし仮にも侯爵閣下に対して噂を捏造するのは、些か問題があるのではないでしょうか?」
そう私が問い掛けると、オディロン様は首を横に振った。
「実は捏造するまでも無く、事実だけであの噂が作り出せたんだよ。
まぁ調査にかなりの数の者を使ったのだけどね。
その結果、情けない事にどうやらケヴィンは、以前から複数の生徒に手を出す常習者だったようだ」
あら、それってリアル昼ドラって意味かしら?
「もっぱら自分に色目を使ってくる、騎士の娘や爵位の低い令嬢なんかを中心に手を出していたそうだよ」
へぇ驚くべき昼ドラっぷりじゃない?
でもそんな行為がまったく噂にもならないなんて、どういうカラクリなのかしらね……
私の抱いた疑問は当然オディロン様も気づいていたようで、
「その見返りにと、卒業と共に仕事や婚姻などを斡旋していたそうだ。もちろん生徒の人となりは相当注意して、関係を持っていたようだがね」
彼女たちは見栄えの良いイケメン教師と卒業までの遊びと割り切って過ごす。そしてそれを口外しなければ卒業後の進路は安泰か。
相手が騎士の家だったり、下級貴族の三女四女なんかはきっと引っ掛かると、私も思ってしまった。
良くできているわね。
ならば疑問が沸いてくる。
「今までそれは明るみに出ていないのでしょう?
ならばマエリスも同様に扱えば、フロリーア様と離縁する必要は無かったのではないでしょうか?」
「いや彼女は今までの娘と違って目立ちすぎていたんだ。それにライバルも多く、どうしても手に入れたいと思わせる何かがあったのだろうと私は考えているよ」
そしてオディロン様はぼやくようにこう続けた。
「まあ俺には、フロリーア以外にどうしても手に入れたいモノなんて、どこにも無いがね」
その独白に対して、フロリーア様とマエリスを置き換えれば分かりますよとか、余分な事はもちろん言わないわよ?
だから私は一言だけ、「そうですか」と言ったわ。
「これで条件は揃った。後は学園側に圧力を掛けてケヴィンの奴を首にするつもりだ」
彼が持つ侯爵としての地位はどうしようもないが、教師の職を追われれば逆ハーからは離脱する事になるだろう。
そしてこの宣言は、わざわざ私には言う必要の無い事だったと思う。
これを伝えてくれたと言う事は、一人減るから注意しろと言う彼なりの優しさだろう。
「あと私は、この件を利用して、フロリーアの不名誉を回復するつもりだ」
あぁこの後の流れは想像できるわ。
きっと彼女の浮気の手紙は捏造だと証言され、逆にケヴィン先生が自らの浮気を隠すために彼女の地位を貶めたとでも言うのだろう。
いま流れている噂でケヴィン先生の評価は下がりっぱなしだ。おまけに学園を首になれば、この新たな噂もきっとうまく浸透するだろう。
「明後日、新聞社に証拠の書類が届くようにしてある。
終わったら私はフロリーアを連れてしばらくの間、領地に引っ込むつもりだ」
なるほど、抜かりはないようね。
それにしても、明後日の学園にはとても行きたく無くなったわね……
当事者のケヴィン先生は体調不良でお休みだそうで、食堂でチラリと見かけた逆ハー軍団の中にも当然居ない。一瞬だけ目が合ったマエリスもプイと不満げに視線を反らして、こちらに突っかかってくることは無かったわ。
さらにアントナン殿下が接触してくることも無く、私は拍子抜けするほどあっさりと放課後を迎えたのよ。
屋敷に帰るため馬車の停留所に向かって歩いていく。
いつのまにか空には、雪が降りそうな重そうな雲が広がりどんよりとしていた。
いまにも雪が降りそうね~と双子と軽口をたたいていた所で、またまた家の馬車が故障したと言われたわ。
それを聞いて私の口から大きなため息が漏れたのは仕方が無いわよね?
それにしても最近の故障の頻度と言ったら……
無いわー
「じゃあメレーヌ、イレーヌ。
不埒者が来たら遠慮なくやって頂戴ね」
前回同様そう言ってはみたものの、彼女らが手を出す事はないだろう。
だって二人とも困ったように苦笑してるもん。
そんな訳で数分後。メレーヌの手によって丁重に捕獲されたフェルが、私の前へ不満げにやって来たわ。
「ふぅ……、どうして殿下は普通に誘って下さらないのですか?」
「きょ、今日は違うんだ! 母上の命令で僕はジルダを連れに来ただけだ」
なるほどこれは王妃様の手口なんですね……
「よいですか殿下。これは良くないことです。
私を誘いたいのなら、ちゃんと自分の口で言ってください」
頭の良いフェルは、私が『殿下』と『フェル』を使い分けている事に気づいている。
だから彼は、
「すまない、次回からはちゃんとする」
と、『殿下』と呼んだ時には素直な謝罪を忘れないのだ。
素直なフェルはとても可愛いのよ。
「分かりました。次回はちゃんと誘ってくださいねフェル」
そう言ってニッコリと微笑むと、フェルは途端に赤面してしどろもどろになるの。
ちょろいなフェル……とか思ってないわよ?
※
連れて行かれたのは王宮の一室、その部屋は暖炉に薪がくべられていて室内は程よく暖かかった。
流石にこの季節は薄ら寒いガラス張りの庭園の見える場所じゃなくてホッとしたわ。
部屋の中には、王妃様とオディロン様が待っていらっしゃった。
しかし王妃様は、「わたくしは部屋を提供しただけよ」と、笑って静観するご様子だ。そしてフェルは婚約者たる私を心配して同席しているだけ。
従って……
挨拶もそこそこに、オディロン様は、
「噂を聞いてくれたかな?」
と、にやりと笑って私に問い掛けてきたわ。
相変わらず私の周りには、素直に笑える人は居ないみたい。
「今朝聞きました。しかし仮にも侯爵閣下に対して噂を捏造するのは、些か問題があるのではないでしょうか?」
そう私が問い掛けると、オディロン様は首を横に振った。
「実は捏造するまでも無く、事実だけであの噂が作り出せたんだよ。
まぁ調査にかなりの数の者を使ったのだけどね。
その結果、情けない事にどうやらケヴィンは、以前から複数の生徒に手を出す常習者だったようだ」
あら、それってリアル昼ドラって意味かしら?
「もっぱら自分に色目を使ってくる、騎士の娘や爵位の低い令嬢なんかを中心に手を出していたそうだよ」
へぇ驚くべき昼ドラっぷりじゃない?
でもそんな行為がまったく噂にもならないなんて、どういうカラクリなのかしらね……
私の抱いた疑問は当然オディロン様も気づいていたようで、
「その見返りにと、卒業と共に仕事や婚姻などを斡旋していたそうだ。もちろん生徒の人となりは相当注意して、関係を持っていたようだがね」
彼女たちは見栄えの良いイケメン教師と卒業までの遊びと割り切って過ごす。そしてそれを口外しなければ卒業後の進路は安泰か。
相手が騎士の家だったり、下級貴族の三女四女なんかはきっと引っ掛かると、私も思ってしまった。
良くできているわね。
ならば疑問が沸いてくる。
「今までそれは明るみに出ていないのでしょう?
ならばマエリスも同様に扱えば、フロリーア様と離縁する必要は無かったのではないでしょうか?」
「いや彼女は今までの娘と違って目立ちすぎていたんだ。それにライバルも多く、どうしても手に入れたいと思わせる何かがあったのだろうと私は考えているよ」
そしてオディロン様はぼやくようにこう続けた。
「まあ俺には、フロリーア以外にどうしても手に入れたいモノなんて、どこにも無いがね」
その独白に対して、フロリーア様とマエリスを置き換えれば分かりますよとか、余分な事はもちろん言わないわよ?
だから私は一言だけ、「そうですか」と言ったわ。
「これで条件は揃った。後は学園側に圧力を掛けてケヴィンの奴を首にするつもりだ」
彼が持つ侯爵としての地位はどうしようもないが、教師の職を追われれば逆ハーからは離脱する事になるだろう。
そしてこの宣言は、わざわざ私には言う必要の無い事だったと思う。
これを伝えてくれたと言う事は、一人減るから注意しろと言う彼なりの優しさだろう。
「あと私は、この件を利用して、フロリーアの不名誉を回復するつもりだ」
あぁこの後の流れは想像できるわ。
きっと彼女の浮気の手紙は捏造だと証言され、逆にケヴィン先生が自らの浮気を隠すために彼女の地位を貶めたとでも言うのだろう。
いま流れている噂でケヴィン先生の評価は下がりっぱなしだ。おまけに学園を首になれば、この新たな噂もきっとうまく浸透するだろう。
「明後日、新聞社に証拠の書類が届くようにしてある。
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