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06:遅れてきた初夜
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何日も手伝っていると流石に仕事にも慣れてくる。
売買の判断は出来なくとも、書類を見ればその書類に書くべき内容などは解るようになり、彼に聞く回数も減った。
二人で黙々と仕事を片付けていき、いつもは日が変わる頃まで掛かっていた仕事が、夕食後の数時間ほどで終わった。
これで彼の睡眠時間も増えたわね~と、ほくそ笑んでいたのだが、どうやら彼は根っからの商売人のようで、時間が余ったのならば更なる取引が出来ると喜んだ。
流石にそれは無いわと呆れた。
言うべきことはしっかりと言わないと!
「少しよろしいでしょうか?
わたしがお仕事をお手伝いしたのは、フリードリヒ様にちゃんとお休みして頂くためです。決して新たなお仕事を入れるためではございません」
「ぐっ済まない、リューディアの言うとおりだ。
悪かった、この通り謝罪するよ」
自分に非があるときはすぐに謝罪できるのが彼の美点だろう。
ただし謝罪の回数が多いのは……、まぁ今後の課題かしらね。
「分かって頂けて何よりです」
フリードリヒは少々心残りの様だが、仕事の後片付けを始めた。それが終わればあとは寝るだけ。
いつも通り部屋に戻り、ドアの前で別れる……はずなのに、今日のフリードリヒはわたしの後ろに立っていた。
ん?
振り返るとどうしたとばかりに彼が首を傾げてきた。
えーっ遅れに遅れた初夜が今日とか聞いてないんだけど?
二人で部屋に入り、ベッドに座った。
初日こそ執事に言って、お酒や軽食などの準備を頼んでいたが、仕事を手伝うようになってからそんな雰囲気はまるで無くなり、それらを頼むのはとっくに止めていた。
そんな訳で、フリードリヒが部屋に来ても、何も持てなすものが無く、しどろもどろに謝罪するしかなかった。
しかしフリードリヒはきょとんと首を傾げた。
「それはもしや貴族の風習と言う奴だろうか?」
「さあどうでしょう? ですがわたしは伯母からそのように教えられました」
「商人の俺から言わせて貰えば、その様なことは金の無駄だと思うぞ」
それを聞いてとても彼らしいと苦笑したわ。
彼の手が肩に乗って身を寄せる。
先ほどの話のお陰で緊張が解けていたらしく、体が強張るようなことは無く、自然に彼に寄り添えた。
だが緊張しなかったのはそこまで。
半身に彼の体温を感じて、普段は気にもしていなかった夜着の薄さに改めて気づき、恥ずかしさで赤面した。
一度そう思ったらもう止まらない。
力強い腕と硬い胸、そして彼の匂い。先ほどまで静かだった鼓動は、ドクドクからバクバクへと変わって外に聞こえているのではないかと不安になった。
「緊張しているのか?」
「その、わたしは自分に自信が無いもので……」
「そうか? 字は綺麗だし計算も間違いがない。とても好感が持てるぞ」
睦言のときにそう言ったことを褒められても困るわと思ったのが不味かった。途端に可笑しくなってしまい声を出して笑ってしまった。
当然白けた空気が流れたがそれもほんの少しの事。
良い感じに緊張が解けたお陰で、まあいろいろと無事に終えることが出来たわ。
朝起きると隣にフリードリヒが眠っていてギョッとした。
しかしすぐに昨晩の事を思い出して気恥ずかしくなり、シーツを引き寄せゴソゴソと体を隠すように身じろぎしていたら、彼の目がパチリと開いた。
「お、おはよう、ございます」
「ああおはよう。ふわぁぁ~久しぶりに良く寝たなぁ」
「それは良かったです」
「これも貴女のお陰だ、ありがとう」
「勿体ないお言葉です。わたしはここに置いて頂いているのですから当然です」
「なぁ、いい加減それやめないか?」
「それとは?」
「置いているという奴だ。最初に言ったはずだが俺は君を妻にはしたが、雇っているつもりも置いているつもりも無いぞ」
「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、本当にそう思ってよろしいのでしょうか」
「こんな場所でおまけにこんな格好で、今さらそれを聞くか?」
言われてみれば確かに。
ここはベッドの上。シーツで体は隠しているけれどわたしも彼も裸だ。
すっかり恥ずかしくなって、
「えっと……、改めてよろしくお願いします」と言えば、
「くっくなんだそれは」
小馬鹿にしたように笑われた。
指摘されるまでも無い、わたしだって失敗したと思ったわよっ
売買の判断は出来なくとも、書類を見ればその書類に書くべき内容などは解るようになり、彼に聞く回数も減った。
二人で黙々と仕事を片付けていき、いつもは日が変わる頃まで掛かっていた仕事が、夕食後の数時間ほどで終わった。
これで彼の睡眠時間も増えたわね~と、ほくそ笑んでいたのだが、どうやら彼は根っからの商売人のようで、時間が余ったのならば更なる取引が出来ると喜んだ。
流石にそれは無いわと呆れた。
言うべきことはしっかりと言わないと!
「少しよろしいでしょうか?
わたしがお仕事をお手伝いしたのは、フリードリヒ様にちゃんとお休みして頂くためです。決して新たなお仕事を入れるためではございません」
「ぐっ済まない、リューディアの言うとおりだ。
悪かった、この通り謝罪するよ」
自分に非があるときはすぐに謝罪できるのが彼の美点だろう。
ただし謝罪の回数が多いのは……、まぁ今後の課題かしらね。
「分かって頂けて何よりです」
フリードリヒは少々心残りの様だが、仕事の後片付けを始めた。それが終わればあとは寝るだけ。
いつも通り部屋に戻り、ドアの前で別れる……はずなのに、今日のフリードリヒはわたしの後ろに立っていた。
ん?
振り返るとどうしたとばかりに彼が首を傾げてきた。
えーっ遅れに遅れた初夜が今日とか聞いてないんだけど?
二人で部屋に入り、ベッドに座った。
初日こそ執事に言って、お酒や軽食などの準備を頼んでいたが、仕事を手伝うようになってからそんな雰囲気はまるで無くなり、それらを頼むのはとっくに止めていた。
そんな訳で、フリードリヒが部屋に来ても、何も持てなすものが無く、しどろもどろに謝罪するしかなかった。
しかしフリードリヒはきょとんと首を傾げた。
「それはもしや貴族の風習と言う奴だろうか?」
「さあどうでしょう? ですがわたしは伯母からそのように教えられました」
「商人の俺から言わせて貰えば、その様なことは金の無駄だと思うぞ」
それを聞いてとても彼らしいと苦笑したわ。
彼の手が肩に乗って身を寄せる。
先ほどの話のお陰で緊張が解けていたらしく、体が強張るようなことは無く、自然に彼に寄り添えた。
だが緊張しなかったのはそこまで。
半身に彼の体温を感じて、普段は気にもしていなかった夜着の薄さに改めて気づき、恥ずかしさで赤面した。
一度そう思ったらもう止まらない。
力強い腕と硬い胸、そして彼の匂い。先ほどまで静かだった鼓動は、ドクドクからバクバクへと変わって外に聞こえているのではないかと不安になった。
「緊張しているのか?」
「その、わたしは自分に自信が無いもので……」
「そうか? 字は綺麗だし計算も間違いがない。とても好感が持てるぞ」
睦言のときにそう言ったことを褒められても困るわと思ったのが不味かった。途端に可笑しくなってしまい声を出して笑ってしまった。
当然白けた空気が流れたがそれもほんの少しの事。
良い感じに緊張が解けたお陰で、まあいろいろと無事に終えることが出来たわ。
朝起きると隣にフリードリヒが眠っていてギョッとした。
しかしすぐに昨晩の事を思い出して気恥ずかしくなり、シーツを引き寄せゴソゴソと体を隠すように身じろぎしていたら、彼の目がパチリと開いた。
「お、おはよう、ございます」
「ああおはよう。ふわぁぁ~久しぶりに良く寝たなぁ」
「それは良かったです」
「これも貴女のお陰だ、ありがとう」
「勿体ないお言葉です。わたしはここに置いて頂いているのですから当然です」
「なぁ、いい加減それやめないか?」
「それとは?」
「置いているという奴だ。最初に言ったはずだが俺は君を妻にはしたが、雇っているつもりも置いているつもりも無いぞ」
「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、本当にそう思ってよろしいのでしょうか」
「こんな場所でおまけにこんな格好で、今さらそれを聞くか?」
言われてみれば確かに。
ここはベッドの上。シーツで体は隠しているけれどわたしも彼も裸だ。
すっかり恥ずかしくなって、
「えっと……、改めてよろしくお願いします」と言えば、
「くっくなんだそれは」
小馬鹿にしたように笑われた。
指摘されるまでも無い、わたしだって失敗したと思ったわよっ
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