僕はエロゲの主人公になりたい

宮武とせこ

文字の大きさ
1 / 1

僕はエロゲの主人公になりたい

しおりを挟む
 僕はエロゲの主人公になりたい。
 そのためにできる努力は常日頃しているつもりだ。
 文武両道を目指して学び、トレーニングを積んでいる。
 テストの点数でライバル視してくる女の子だって、運動部にスカウトしに来る女の子だって、僕はいつでもウェルカムだ。
 それなのに、それなのに、
「なあ、どうして僕にはフラグが立たないんだ?」
「そういうこと口に出して言っちゃうからじゃない?」
「こんなことお前にしか言わないよ!」
「アハハ、そりゃそうか」
「真剣に聞いてくれよお!」
「聞いてる聞いてる。かわいそうになあ」
 隣で僕の話を聞いている、この背が高くて顔の良いイケメンには、僕の悲しみがまるで理解できないのだろう。
 幼馴染であるコイツ、大輝は僕の唯一無二の親友で、こんな僕の話をなんでも聞いてくれる貴重な存在だ。
 スポーツ万能で運動部の助っ人に引っ張りだこ。ひとたび試合に出れば女子から黄色い声を浴びせられる根っからのスターである。
 僕とはまるきり違う、明るい太陽の下を歩き続けている男だ。
 けれども、なぜだか部活には所属せず、暇な日はこうして僕と一緒に帰っている。僕がエロゲの主人公になった暁には、こいつが親友ポジションのアドバイスキャラになるのは間違いないだろう。
 つまり、僕には親友キャラがいるのだから、エロゲ主人公の条件は満たしていると思うのだ。
 人並み以上の容姿で、成績も良くスポーツもできる。エロゲ主人公の平均値に則ってるはずだ。
 しかし現状僕には攻略対象の女の子はいない。世話焼きな幼馴染の女の子も、優しく手ほどきしてくれるお姉さんも、僕のことを好き好きとアピールしてくる後輩女子もいない。
 まったく世の中は世知辛い。
「はあ。どうせお前には僕の気持ちがわかるわけないのさ」
「うん、悪いけど一生わかんねえや」
「なんだとこの!」
「いてて」
 僕が脇腹を小突くとクスクス笑いながらわざとらしくそこを押さえて痛がるふりをする。
 それでも僕より高い位置にある大輝の頭を見て、僕はこの世の無常を痛感する。
「やっぱり身長が足りないのかな……」
「俺はちっちゃくても好きだけど」
「お前に好かれたって仕方ないんだよ」
「そんなこと言うなよ」
 大輝がわしゃわしゃと僕の頭を撫で付けてくるので、僕はそれを慌てて両手で遮る。
「わあ、よせよせ! こんなところお前のファンに見られたら殺される!」
「俺にファンなんていないよ」
「どうかな。いつもキャアキャア言われてるんだ。ファンの一人や二人いるはずだよ。統計がそう物語ってるんだ」
「統計って?」
 大輝は首をひねる。
 大輝は僕の親友だが、好きなものがまるきり違うから、エロゲなんて手をつけたこともない。だからエロゲにおける共通認識を知らないのだ。やれやれ。
「エロゲではお前みたいなイケメンにはファンがいるのが相場なんだよ」
「そんなこといったら佑哉にもファンがいるはずじゃん。顔は良いし頭良いし。でもいないじゃん」
「そうなんだよ! だから! なんでフラグが立ってないのか悩んでるんだよ!」
 愛されイケメンである大輝ですら僕のことをそう思っているのだから、なんで僕にフラグが立たないのかいよいよわからない。
 厳しい現実に打ちひしがれる僕を見下ろし、大輝は苦笑いを浮かべている。
「そんなにモテたいなら、もう学校では黙ってたほうがいいんじゃない?」
「無口キャラでいけってこと?」
「んー、でも、それはつまんないか」
 顎に手を当てて大輝は悩んでいるようだ。
 さすが僕の親友。僕のキャラ付けについて考えてくれているんだな。
 たしかに、コイツの言う通りこれまで無口キャラという方向性は試してなかった。
「いや、やってみよっかな」
「マジで?」
「うん。僕、いまからちょっと黙るから、見てて」
「うん」
 無口系主人公にはミステリアスな魅力がある。僕に足りないのはミステリアスな男の魅力だったのだなあ。
 それならばヘラヘラ笑ったりするのはダメだよな。だから僕はとびきりの良い顔をして黙り込む。
 すると、そんな僕の顔を覗き込み大輝がブフッと吹き出した。
「ふ、あはは、無理無理、なんか変だよ。それに黙ってちゃ俺がつまんないよ」
 くそ、人の顔を見て笑うなんて失礼な奴だ。
「もう! 笑うなよ! だから、お前がつまんないとかはいいんだって!」
「ははは、仕方ないじゃん。俺は佑哉と喋ってるのが楽しいんだもん。いいじゃん、そのままで好きになってくれる人いるって」
「ええ……?」
 ニコニコ笑う大輝に、僕は疑いの目を向ける。
「案外そばにいるよ。お前が気付いてないだけだよ」
 大輝は僕の目を真っ直ぐに見つめて言う。
 そんなふうに言われたら、なんだかその気になってくるぞ。僕は調子に乗りやすいほうなんだ。
「……そう?」
「うん」
 自信満々に頷く大輝。コイツがそこまで言うのならきっとそうなのだろう。
 僕が気がついていないだけで、どこかに僕のことを見つめているヒロインがいるんだな。言われてみれば、エロゲの主人公たちはみんな女の子たちからの明け透けな好意に気がつかないのだ。それならば、僕が女の子たちからの好意に気がつかないのも道理である。
「そうかあ……まあ、鈍感力も主人公の条件だもんな」
「うん?」
「ありがとな、大輝! やっぱり持つべきものは親友だ! これからも主人公として精進するよ」
 僕が大輝の肩を叩くと、なぜだか大輝は肩を丸めて項垂れた。
「うん……頑張って。応援は出来ないけど」
「なんでだよ、してくれよ!」
「いやだよ、絶対やだ」
「なんだよケチ!」
「うるせえチビ」
 大輝が頭をぐりぐりと押さえつけてくるので、僕は大輝のふくらはぎを蹴飛ばした。
 親友が僕の恋路を応援しないなんてケチにもほどがあるじゃないか。
 まあ、どうせそのときになったら手伝ってくれるに決まってる。
 昔から大輝は僕に甘いからな。
 ほら、いまももう、いつものように笑っている。
 これから色んな攻略対象の女の子と良い雰囲気になる僕が羨ましいから拗ねているだけに違いない。
 でもどうせ大輝なら、普通の女の子と普通に付き合って、普通に幸せになるのだろう。僕と違って。リアルのスーパーヒーローと僕は違うのだ。
 あーあ。僕も早くエロゲの主人公になりたい。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【完結】  同棲

蔵屋
BL
 どのくらい時間が経ったんだろう 明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は 翔の部屋でかなり眠っていたようだ。 翔は大輝に言った。  「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」  「なんだい?」  「一緒に生活しない!」 二人は一緒に生活することが出来る のか?  『同棲』、そんな二人の物語を  お楽しみ下さい。

処理中です...