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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.31 祖父母が遺した? 不穏な手紙

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※ここまでの道筋(~ep.30)




 「俺たちが、ワールドの生成? まさか。ここに就任してから世界を作った覚えはないが」


 僕の中でも、「まさか」という語句が頭をよぎった。
 ここは上界。イングリッドとミネルヴァが、上下界両方の俯瞰ふかんのため常駐している狭間。
 僕を含む仲間たちが、眠っている間の「夢」として訪れる、神の聖域。

 「あのアガーレールがある世界は、自分達がワールドを生成した際に、ランダムで生まれたんじゃないんだ?」
 と、僕は質問した。もとい、キャミの考察を借りているだけだけどね。

 「んなワケないだろ。一体何をいってるんだセリナ? 仮にそれが本当なら、そっちの世界に散らばってるクリスタルチャームまで、俺たちがわざと・・・ばら撒いた事になるだろう。
 変な話、お前をよく分からん危険に晒してまで、態々仲間達を封印するメリットがない」

 「やっぱり、良く分からないのに俺を異世界に行かせたのかよ…! あんまりじゃないか!」
 「まぁまぁ」
 と、ミネルヴァがこの場を落ち着かせる。表情が少しばかり固い。

 「セリナは覚えているかしら? 私達、ひまわり組が就任する“前”の神様2人を」
 「っ… もちろん覚えているよ。ベックスと、フウラ。
 今は亡き先代の―― 俺の、お爺ちゃんとお婆ちゃんとして生まれてきた、その“素”となった人たちだ」
 「えぇその通り。今、私達がこうして把握できている下界たちは、その全てが先代ののこしてきたものよ。私達は就任以来、一切の下界生成、つまり『子づくり』はしていないわ」



 いったい何のこっちゃ? と思った方のために説明。

 この世界のトップに君臨する神様たち、ひまわり組が就任する前は、別の若い男女が統治していた。男ベックスと、女フウラの2人。
 その2人が自分達の力をひまわり組に継がせ、一般人に戻ったあと、現在はもう既に亡くなっているが、実はとある世界線では2人は夫婦であり、多くの子孫に恵まれていたのだ。
 その孫の1人がこの僕、芹名アキラというわけ。

 あ。ちなみにさっきミネルヴァがいった「子づくり」とは、本来の意味ではない。
 う~ん、神の次元を言葉で説明するのは難しいけど… とにかく、そういう「彼らだけができる複雑な工程」を経て、下界は生成されるってこと。というわけで説明は以上!



 「じゃあ、今俺たちがいるアガーレールの世界も、その先代2人が遺したもの――?」
 僕はそう解釈した。ミネルヴァは「たぶん」と答えた。イングリッドが腕を組む。

 「まぁ、俺もそう解釈してはいるのだが… どうも引っかかるんだよな」
 「引っかかる?」
 「神の代を引き継ぎ、跡取りゲームが終わったあのタイミングで、なぜアゲハ達がみな都合よくアガーレールへと飛ばされたのか。今日までの流れをみて、たまたま・・・・とは思えないし、更に面倒な事になっちまうとは」
 「えぇ。でも、事情を知っているでしょう先代は、もうここにはいないのよ… 残念ね」

 くっ… 「死人に口なし」とは、まさにこの事か。
 我が祖父母ながら、僕は舌打ちしたくなったものだ。ひまわり組の言う事が本当だとして、せめてお別れの前に説明してほしかったな。

 こうなった理由・・・・・・・を。



 ――――――――――



 鳥のさえずりと、窓から差し込む光が、僕を現実へといざなう。


 真新しいログハウス。
 身支度をし、外を飛び出したその横には、サリイシュの一軒家。
 僕は昨日から、王宮ではなく、サリイシュ宅のご近所であるこの家で暮らしている。
 まだ住み始めたばかりだから、中はスッカラカンだけどね。


 そこから、更に海岸へと続く大きな道の途中。
 ここへ転生(?)した当初は真っさらで、作りかけの建築物がまばらに点在していただけの平地は、いつしか数軒の木造住宅が出来上がっていた。
 キャミ、マイキの持ち家もある。

 そのうちの1軒は、水切土台に大きなアンカーボルトがついた、本格的な集合住宅。
 こっちはまだ建設途中だけど、いずれリリルカが住む予定。

 そして海岸の前には、海の家が1軒。
 マリア、ビーチが見えるおうちが好き。ちち、揺らしてもバレない。

 そう。国の先住民達が、僕たちのために、わざわざ新居を建ててくれたのである。



 「ん?」


 そんな中、僕より先に目を覚ましていたのか、それとも徹夜したのか、キャミが海岸の向こう側を見て眉をしかめていた。
 遠くから、何か見えるらしい。僕も「おはよう」と挨拶がてら目を凝らすと… 確かに、何かがこっちへ向かってきている。

 「…アグリア? どうして1人でここに」

 キャミの呟き通り、それは彼の召喚獣の1体であるユニコーン。
 その者は空中に虹の橋を作り、それに乗って渡ってきたのであった。
 リリーとルカがまたがっていないのは、まだ現地での大会が終わっていないのかな?

 こうして、ビーチへと到着したユニコーンのアグリア。
 みると、口に手紙をくわえている。僕たちに伝言を伝えにきたという事が分かったところで、キャミは「どれどれ」といって手紙を手に取ったのであった。

 ちなみに、手紙の封閉じには黒百合のスタンプ―― 届主はあのリリーである。


 「ん… なんだと」
 「何て書いてあるの?」
 僕が気になってキャミの元へいくと、キャミは無言で、僕にその手紙を見せてくれた。
 そこには――。



 今、キャミ達の元に、この手紙が届いていますでしょうか?
 私とルカは元気です。フェブシティで警戒されている様子もありません。
 大会も無事に終わりまして、ツートップの座を得る事ができました。ルカが優勝です。



 という事が、リリーの直筆で記されていたのだ。僕は歓喜した。
 「おー! すごいなルカ、おめでとう!!」



 ですが、1つだけ問題が。
 ルカは今、ものすごく機嫌を損ねていまして…



 「え… いったい、何があったんだ? 優勝したのに?」



 この生け花大会は、優勝したら、富沢伊右衛郎いえろうとの面会権が与えられるとありましたね。
 ですが当の富沢が突然、面会を拒否したんです。それも理不尽な理由で。



 「は…? なんでだよ!? 最初と約束が違うだろう!」



 富沢の代理人が言うには… ペットの犬を連れて行きなさい。との事でした。
 どうやらあちらも自慢の犬がいるとのことで、大会に優勝できるほどの学も技術もあるなら、それだけ裕福な環境で育った証拠として、金持ちは犬を飼っていて当然である―― という理由らしいです。つまり、「犬も飼えない様な凡人は会う資格などない」と。



 …。

 これはルカ、ブチキレていいわ。
 彼の今の様子は、この目で見なくてもよく分かる。
 僕は怒りを露わにした。

 「富沢伊右衛郎… まだ見た事のない相手だけど、とんだクソ野郎だな。なにが『犬も飼えない様な凡人は~』だよ! 金持ちは飼っていて当然とか知るかぁそんなもん!!」
 「落ち着け。なにか向こうの意図があるのだろう。まだ手紙の続きが記されている」
 と、キャミはなおも冷静であった。いかんいかん、ここは気を静めないと。



 一体どうしたら… なんとか面会を果たそうと、その辺に犬がいないか探しているのですが、このサイバーパンクで野良犬なんて見かけませんし、ここは撤退すべきか否か。
 どうか、いいお返事をください。私達は現地で待っています。



 リリーの手紙は、そこで終わった。
 筆跡からして、当人達は特段、切羽詰まっている様子ではない。キャミはアグリアの頭とツノを撫で、手紙を届けに来てくれた事を褒めたのであった。

 さて、面倒な事になったぞ。一体、どうしたものか。

(つづく)
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