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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.30 自然の定義とは何か?

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 「ところで。どうしても気になる事があるんだ」

 そういって、挙手をしたのはマイキであった。
 マニーがそちらへ目を向ける。僕たちもマイキさんの言葉に耳を傾けた。

 「その富沢というヤツは、もしかして、フェデュートという組織を密かに敵視しているのか?」

 「そうだけど、なぜ分かった?」

 「前にアゲハから、この国は過去の襲撃で、森の一部をフェデュートに焼かれたときいた。そんな、自然を破壊するようなヤツらに、あえて対抗するかの様な姿勢に疑問を感じたんだ」

 「それなら理由はハッキリしている。富沢の目的は、自分がこの世界で一番の『富豪』になること。高い『地位』を得て、いつかフェデュートの首謀者を超えるがために、ヤツはなんでもやる腹づもりだ。
 だから、フェブシティでは貴重な植物をとことん操り、売りさばき、知名度を盾に金を払わせ、逆らう者を殺す。正に資本主義に囚われた、可哀想な頭をした男だ」


 僕たちは揃って深いため息を吐いた。
 なんて安直で、自分勝手な理由だろう? 正に絵に描いたような悪党ではないか。

 「そんな中、富沢は目的を果たす一環として、アガーレールに手を出そうと目論もくろんでいる」

 「…また襲撃でも?」と、アゲハが冷や汗気味にきく。マニーは首を横に振った。

 「カネで国を買収するつもりだよ、あいつは。その後は焼失した森の跡を、植物魔法で復元してやることで、ドワーフやハーフリングに自らの偉大さを誇示こじする。そんな服従計画を進める上で、最も手っ取り早い方法が『生け花大会』というわけさ」


 実にバカげた話であった。それ以前に、
 「自らの偉大さを誇示って… それ、そいつ自身の力じゃないだろう!? カナルのチャームから、勝手に魔力を奪って悪用しているだけじゃないか!」
 と、僕はついキレ気味で言ってしまった。
 マニーは悲しい表情を浮かべた。

 「アキラの言う通りだよ。だからこそ、すぐにでもヤツからチャームを奪還したい。そのためには、ヤツに接近できる方法として、大会への出場が望まれる」
 「それなら、私もルカも賛成です。ここは仲間を救うためにも、大会に出場します」
 と、リリーがルカとともに頷いた。今の話で、参加者2人の決意がより固まったか。

 「ありがとう。2人とも」
 マニーはそんな2人に穏やかな感謝を述べた。仲間の存在は本当に偉大だ。

 「ねぇ、私からも質問あるから教えて。その、フェデュートとやらの『首謀者』って一体何者なの? 名前は?」


 それだ。
 今度はマリアが、今回の潜入調査で最も気になる点を訊いたのだった。
 たぶん、これは誰もが知りたい情報である。


 「『マーモ』。特殊部隊、フェデュートの総統。
 だけど謎が多くてな。同部隊の尉官クラスでさえ、その実体はよく分かっていないんだ」


 困った表情で、マニーはそう答えた。
 マーモ――。それが敵対勢力トップの名前か。だけど、

 「それ、コードネーム? あなたは見た事あるの?」
 と、マリアがさらに質問を返した。マニーはそれも律儀に答える。
 「遠巻きでなら、見た事はあるよ。だけど直接話した事はないし、『マーモ』という名前が本名かどうかすら、分からない。
 分かる事といえば、ブルカのような黒い外套がいとうに、不気味なマスクと手袋をはめていて、ボイスチェンジャーを二重に重ねたような声で話す所だけ」

 なんだソイツ。
 とことん、自分の正体を晒したくないやつの典型例じゃないか。
 まるでどこかの銀河戦争ファンタジーSF映画に出てきそうな黒幕キャラだが、肝心の能力が分からないのは確かに“脅威”だな。
 マニーが困った表情をしているから、例のそいつに接触するのは、そうとう至難のわざなのだろう。

 とにかく今は「お疲れ様でした」としか。



 ――――――――――



 「では、いってきます」

 リリーがそういって、ユニコーンのアグリアにまたがりながら手を振る。
 彼女の前方にはづなをもったルカも跨っていて、こうしてユニコーンの魔法で作られた虹の橋を、2人と1頭が空高く駆け抜けていったのであった。



 「無事に、帰ってきてくれるといいな。ところで」
 キャミもリリー達を見送り、視線を変えた先に、マニーの姿。
 「あんたが空中都市から持ってきたもの。金属の破片や、固形の食べ物ばかりだが?」

 キャミの両手には、マニーがフェブシティから持ち帰ったもので溢れている。
 あとでアゲハが研究したり、地下博物館に寄贈したりするものだ。

 「過度に高度な既製品端末は、中に盗聴器などが仕組まれている可能性がある。だから、その手の壊れたものしか持ってこれないんだ」

 「…一理あるな」

 「それに、フェブシティの住民は、ほとんどが人型アンドロイドなんだよ。あとはたまに奴隷として、ダークエルフやゴブリンがいるくらい。
 彼らは機械と魔法で衣食住をまかなえるから、あってもクソまずい完全食と水しかない」

 うえー、マジかよ。メチャクチャ住みづらそうな街じゃん。
 そんな所に潜伏だなんて、自然派やグルメにとってはまさに地獄。マニーよく耐えたな。

 「それじゃ。俺は歓迎会に出席するから、また後で」

 そういって、マニーは王宮へと続く道を、歩いていった。
 そうだよな。今夜は美味しい料理をいっぱい食べて、ゆっくり休んでほしい。



 「――妙だ」


 マニーが去ったあと、キャミがそう呟く。
 そういえば、彼はずっと何かを考えているような。僕は「どうしたの?」と訊いた。

 「フェブシティの言語は、普段俺たちが使っているのと同一のもの。しかも、あのシアンとカナルのチャームを、都合よく彼らと同じ『色』に関連した名前の連中が握っている。カナルに富沢伊右衛郎、シアンにチアノーゼ」
 「うん」
 「アゲハが建国した国以外で、地球と同じものがこんなに沢山あるのはおかしい。まるで、誰かの脳内で『作られた』世界にいるみたいだ」



 ――作られた世界、か。



 確かに、ここまで現実の知識が通用する世界って、普通はそうそう存在しないか。でも確か「世界」って、意図しないランダムシード値から生成されるハズでは?
 あとで、ひまわり組にきいてみよう。
 確か、人から後を継ぐ形式の神々に、完全理想の「世界」は作れないと記憶しているから。

 「という事は、マゼンタはそれに関連する『色』の名前の人が、握っているのかな?」
 「断言はできないが、法則通りなら。
 だが、そうなると『マーモ』はどうもしっくりこない。せいぜい紅紫こうししょく、ビビッドピンク、ベルベット・スカーレット辺りが妥当か…

 そうだ! セリナにこの子たちを」

 キャミはハッとした表情で、マニーから受け取った物品を袋にしまい、次に自身の足元にいる召喚獣2体へと手をかざした。
 ヘビのジェリーと、キツネのマアム。
 かわいい。

 すると、その2体はふわりとスライム状に発光し、やがて2粒の飴玉サイズへと凝縮。僕の目の前へと浮遊してきたのであった。
 これが、キャミのもつ特殊能力の1つ。

 召喚獣は、ドロップに変形できるのである。

 「まだ能力を分け与えていなかったから、預かるといい。何かあった時に、彼らは味方をしてくれるだろう」

 そういうキャミのお言葉に甘え、僕は浮遊したドロップを2粒手に取った。
 召喚そのものに影響はないので、食べてお腹の中に蓄えてもいいんだけど、敢えてちゃんとしたケースにしまう。それが僕のやり方。

 僕は最後に、キャミにこう感謝を述べた。
 「ありがとう」と。



 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 19 個】



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