タケノコの里とキノコの山

たけ

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序章 タケノコ村とキノコ村

第三十四話 束の間の休暇 1

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早朝 ハルは眠い目を擦りホテルのベットから起き上がる

時刻は5時

見た目はだるそうだが、布団から起き上がるときの動きが軽やか。今日はちょっとだけ、楽しみだった




今日はキノコ村へレイと二人だけで帰還し
一時的に生存報告をした後にまた帰って来る

…という予定だった

なにが楽しみかと言うと、単純に男として…
と言う意味合いもある

ただ、どちらかというと

ーー昨日言われた言葉が忘れられないからだ

「"心は強いけど。落ち着ちつく"……」

その言葉が反復し思わず口に出る。非常に恥ずかしい

ただの業務作業にすぎないというのに自分は単純な人間だ。だがそれでよかった

ハルという人間は、この軍に入る前は無気力で逃げて、今日を生きることしか考えていない人間だった。

だがここにはいって少しずつ変わっていった。目標ができるにつれ新たな目標が枝分かれしてきた。そうしていくなかで自分の人間性を褒められるというのは快楽この上無かった


ただ…わかってはいる。普通の業務作業である

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お、おはようございます」

「ん、よ」

そして、その時がやって来る。
風当たりの強く乾燥していた。


今日は質素な天気だった。



とくにこれという会話はない

そのままアポロ村入口へと進み、ここで見張りでもしているのであろう住民にレイが話しかける

「ちょっといい?ここから出たいんだけど、10時くらいには帰って来るから…」


「あんじゃもめ?あは!のうのう!!あち!」

「レイさん…言葉通じないんじゃ」

「あ、そっか…どうしよ、出ていくって伝えられるかな」


悩む二人の元へ、本当にどこからか来たのかわからない透明人間が話しかけてくる


「ここから出ていきたいのかい?二人だけ?俺が翻訳者になるよ」

ヌッ という効果音が出てくるほど急に現れたのはアガレズだった

「わっっ!…お前神出鬼没だな…」

ーーーーーーーーーー


事情説明中……




「あー!そんな話をしていたね昨日
もちろん許可するよ。ただし、戻ってきてね?君たちのちからが必要なんだ」


「そういうことだ、ハルはお供」

「お、お供、、」

「いいね、お似合いだ。くれぐれもヨツンヴァインには気を付けてくれよ。でかい気配を感じたら逃げてくれ。こちらに逃げてくるのも駄目だ。ヨツンヴァインを連れてきてしまう」

「そうだな…じゃあ、絶ッッッ帯に見つかっちゃだめだな…」

「そうさ、頼むよ、正直、はやくアポロ族について話したくてウズウズしてきたところなんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


寒い、風が強すぎる

アポロ村入口を出て数十分

乾燥して喉が水分を求めている。ハルのテンションは急降下していた

「ん?どうしたハル、」


「いえ…」


非日常によって考え方が狂っていた。そう。本当にただ生存報告をしにいくだけ、そしてアポロ村へ変えるだけ

デートもクソもなかった

(いや元からデートなんて微塵もないけどさ…)

ここまでずっと、無言が続いている。


目線も下を向け、音を立てないよう落ち葉を踏まないように歩幅を調整する作業だ

なぜならヨツンヴァインという巨人との接敵を避けるためだ

本当にただの仕事 だった

(旅行しにきたわけじゃない…ってわかってるけど…なんか勝手にテンション上がっちゃった…)

と、そこで唐突に、美麗な声が鼓膜を通ってくる


「ハル」

「あ!、はい!」

「ふふっ…やっぱ面白いな」

「ん…?」



「そんなに礼儀正しくしようとしなくてもいいよ。それ、ずっと気になってたんだ」


「いやまあ、1級と4級ですし、まあ…というかいま音立てちゃいけないんじゃ…」

「今いるところは広いし、ここくらいのんびりでもいいよ。長旅で疲れただろうしね、肩の力抜いて」

「たしかに…すこしのんびりしますね」

その言葉のとおり二人はのんびりと歩いた

そして、この機会を狙っていたかのようにレイが話題を投げかけてくる


「ねぇ………この軍に入って、どう?」


「どう?」


「どうっていうか、この軍に入って良かった?それとも後悔してる?」


「自分は…」

これまでの生活を思い出す。世界の汚い部分。大切な仲間、目標。


この質問など考える価値はない 即答だ

「良かったです。」

「即答だね……ちょっと後悔してたんだ。実は。ハルはちょっと、めちゃくちゃ親切だから…5級なのに上級と戦って勝ったり、今もこんなところに来ちゃったり、君がありえないスピードで進むから、いつ死ぬかヒヤヒヤするんだ」

「そうなんですか…出世が速いのはカイムとキクのお陰ですよ。あの二人、俺なんかより」

「その自信の無さは直してかないとね。そういうところも好きだけど」


「はい…ぇ」


そういうところも、好きだけど。


胸がざわつく。こんな気持ちになるのは初めてだった。

(しかも女性に…!相手が何も考えずに言ってそうなのが残念だけど…!いやだめだ!これは仕事…!)

と思いつつ、この話を広げたいハルは自らも話題を出す

「じゃあ…俺を軍に勧誘して、良かったですか?」

「良かった」


即答だった

「君はあんな死んだ目をして生きていく人間じゃないって、思ったんだ。強い心はあった。才能もある。だけど君はそれをぶつける機会を自分で作り出すのが苦手なんだよね。何より昔の私と似てるし、君はここに来るべきだった」


「……………」

ハルが軍に入ってなかった頃の避難所で子供を助けたあの時の話だ。

強い心、なのだろうか。はじめての戦闘で首を切り裂いたあの感触も…?あの悲鳴も…? 
 

思えば、責めてくるタケノコ族をこれから先も殺し続け、それで自分たちは平和になるのか?


ーーーーいや、ならない。むしろ……



「え?どうした?」


「…っいや、何でもないです」

その先の言葉は、タケノコ軍に何年も塗り付けられた恐怖と怒りでにじんでいて、思い付くことは出来なかった

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