タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第三十五話 束の間だった休息 0

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「……なにか、臭う…」

「はい…」

ハルとレイがキノコ村へ向かい歩いてから40分が経つ

アポロ村の恐ろしい雰囲気から逃れ、現在、遂に
レイが施錠した廃墟まで戻ってきたのだ、


既視感のある新鮮な空気に、脳を酔わせる暇などなかった。


なにか、異変がある気がするのだ

「……ち」

「………はい」


嗅ぐ 嗅ぐ  異変を、何か聞こえる気がする


何か 何かーーーーーーー



鉄の匂い






ーーーーだれかが しんだにおい



「………ッ!!!血の匂いだッ!!!!行こう!!!」


「……っ!はい!!!」


二人が猛ダッシュでキノコ村へ向かう


ハルは息を切らしかけながら食らいつく レイの全力疾走に


デートなどと心で歌っていたハルはもういない。
そんな事を考える暇はないのだ


何か、何かがおかしい。

冷静に考えてみればそうだ。この上級不在のキノコ村。タケノコ軍が攻めてくるには最適解なのだ




「くそ…くそっ!油断した…!戦争は2年に一度だと思ってた…っ、また2年立つまで、大規模に人が死ぬようなことは起こらないって…勝手にそう思ってた…ここからでも臭う血の匂い、ただ事じゃないにちがいない…ッ」


レイが嘆く。走るスピードはだんだん落ちている

落胆しているのだ。己のミスに

失望しているのだ 自分に

何か、何か自分にできることは…


(なにも、無いよな…)

後継者候補とはいえ4級の一般人に1級を元気付ける技術などない。今の自分は、ただ、足を止めず、しょげるレイを見つめるだけ…

「…っくそ…」

悪態をつきながらも、ついにハルとレイは
キノコ村が見える位置に到着する


息が切れ心臓がはち切れそうになる
それでも走る、絶望に打ちひしがれて



周りを見渡す。血の匂いの元を、探す

「あれ…」

「ここからみたら、何も無いですね…」


異変らしきものは、何もなかった。

いつもの、本当にいつものキノコ村だ。

ーーただ、そこに何故か血の匂いがあるだけ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

到 着



「みんな!!!!帰ったぞ!!!なにが…っ!?!?」

レイが息を呑んだ。それに合わせてハルも驚愕する


「アデル……!!?!?!?」


そんなことをこぼしている間に、きのこ軍たちか二人の男女に気づく

「レイさん!!一級が帰ったぞ!帰ったぞおお!」
「助けて!!私が!」
「アデルが……!アデルが来た!!レイ様あああああ!」


キノコ軍、キノコ族が騒ぎ立てる

本来ならレイがここを統制し、静粛にさせるだけではあるが、唐突すぎてさしもの一級もそれは出来なかったを

ハルはその横に、4級としてただ、立ち尽くしているだけだ


ーーー無力だった。


周りの景色はいつもの景色なのに、届いてくる血の匂い
悲鳴、怒号、泣き声

その声の中心に立っているのは


"""タケノコ軍2級 アデル"""


常に紳士的で大人しく。笑顔を絶やさない
サイコパスと呼ばれる人間だった。


そこから出るとは思えない俊敏さと剣捌きで
2年に1度の戦争では
これまで何人ものキノコ軍を、雑草を刈り取るかのごとく殺してきた





「ーーーおや??」


「…ッ」


空気が一気に張り詰める

キノコ村入口に立ち尽くすレイ(と、ハル)

そして

何かの血溜まりをと鉄臭い剣を握っているタケノコ軍2級 アデル


2つの村で最強格に位置する二人が、互いに目を合わせる




胸には二級の証と思われるバッジ
すらりとした体型で人一人を持ち上げるほとの筋力





この状況でも揺るぎない紳士的な態度と裏腹に、心は明確な悪に染まっていると人目でわかる


返り血を浴びた顔でも、心の底からきみのわるい笑顔を絶やさない。


アデルが気色悪い目で、言う



「………申し訳ありません。こちらとしてもこの段階であなた達を殺しに来るのは不本意でしたが…あなた達が、あまりにも不注意なもので」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



状況を整理する



キノコ村入口には立ち尽くすハルとレイ


二人の50mほど先にいるのはタケノコ族 アデル


アデル以外にタケノコ族は見当たらない


アデルは何かを持っている。おそらく、もとはキノコ族だった者だ。その付近にも、3名ほどのなにかの死体が重々しくどさりと寝転んでいた

その周りには恐怖に支配され、足を震わせながら剣を構えるキノコ軍の4級や5級。

これが、今現在のキノコ村だった。


レイが弱々しく叫ぶ

「いつも…お前たちからこっちに来て人を殺すのは………2年に一度なのに…なんで…急に……ッ」



「おやおや…2年に一度なんて決まった訳では無いでしょう?」

「…くそ…っ!!」


「……そういえば、あなた達と共にでかけたパアワさんやイアンさん。その他の仲間たちは?どこにいるのですか?」


「!?!?」


知られている、上級たちがキノコ村から離れたことを


「…………イアンとパアワは……今は外に出てる…でも、すぐ帰って来る」


ガバガバアンサーに済まし顔で反応する


「もう良いですよ。貴方達がどこへ行ったのかも知っています。あの廃墟の先へと…まあ、説明はいりませんよね」


ーーーキノコ軍の活動はすべて、バレていた



「………ちくしょう…!!どこで情報が漏れた…ッ!」


「……ふふ。どこでしょうね?最近はね…貴方達はやりすぎてす。私達のしらない世界にいつの間にか踏み込んでいたり。あのヤミさんを殺したり。一段とキノコ軍は力をつけている。
ーーーーこれは、非常によろしくない

不本意ではあるが貴方方の戦力を薄く削り
本来あるべきタケノコ>キノコの状況に戻さなければならない
だから、私一人できました」


「"薄く削る"のは、お前一人で十分だって?」  


「いえ、私達はただの不死鳥様の下僕。貴方全員を倒せる力はありません。上級不在を狙っただけです
少しね。大きくなり過ぎたキノコ族を、刈り取りにきました」

まんまと、してやられた。


水面下で想像以上に根掘り葉掘り見られていた


ただ、恐怖している時間などない。


その恐怖が、目の前にいるのだから











 




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