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ショタちゃんを自衛しているのに犯罪者呼ばわりしないで頂きたい

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 ショタちゃんを自己自衛してから三ヶ月。
 特に変わった出来事無し、全て予想の範疇です。

 わたくしは働き者の男、モリス。

 ショタちゃんが通る街路を毎晩せっせと掃除し、石ころひとつ無い安全を提供。
 行動範囲を全網羅し、ショタちゃんがいき行く先のモンスター(街人)や犯罪予備軍(街人)を追い払い安全を提供。
 加えて外食先の料理を毒味し、宿泊先の部屋を整理整頓。

 そう、わたくしは衣食住の先の先のさらにそのまた先を推薦しているのです。

 しかし、ショタちゃんの人生……いやショタ生にわたくしモリスは部外者。決してショタ生のワンピースになってはいけないのです。

 今日も今日とて壁に張り付き同化して見守るわたくし。

 ショ人公を邪魔する者を排除するべく鍛え抜かれた、攻撃・防御・回復魔法もろもろを備え、加えて天から授かったスキル【壁化】で潜伏。

 半径十五メートル以上離れた場所から見れば背景と同化するので、ショタちゃんから見つかることはありません。
 たまに街ゆくモンスターがわたくしを指差し、ショタちゃんに居場所を教えようと妨害してくるので注意は必要ですが。

 まあ、わたくしがいる限りショタ生はハッピー展開まっしぐらなのは間違いないのですよ!

 はあ、ショタちゃんはやっぱり可愛いですねえ。

 観葉植物に水やりですか……わたくしもその聖水飲んでいいですか?
 朝昼夜ショタちゃんで米なし虚無ご飯が美味しいので、残すは水の確保のみなのです。公園の汚水は飽きました。

 ショタちゃんは毎日、美少年エルフ専門メイド喫茶で働いています。
 接待も料理も最高峰、振り撒く笑顔に花が咲き小鳥は囀りわたくしは悶える……誰もが死ぬ前に一度は行ってみたいランキング一位の場所なのです。

 オムライスをわたくしも食べに行きたいのですが、生憎持ち金ゼロなので追い出されてしまうのです。世知辛い世の中ですね。

 あ、ショタちゃんが休憩がてらに出かけるようです。
 少し口角を上げ、足取りが軽い様子……七割散歩、二割買い物、一割サービスシーンでしょう。一割は来たことがありませんがきっとあります。

 謎に反射する程輝く、石畳の道を歩くショタ。

 ここで緊急事態発生!
 ショタちゃんの前方三十メートル先に怪しいモンスターが!

 影になった物陰に潜み、周りをキョロキョロしています。こんな不審者が居るなんて気持ち悪いですね~働き者のわたくしを見習って欲しいものです。

 残念でしたねモンスター、毎日十五メートル先からショ人公を観察して来たモブは視力がバカ高いんですよ!

 ショタちゃんとモンスターに見つからないよう素早く回り込み、壁に同化し潜伏する怠け者の肩をワシっと掴みます。

「君、ここで一体何しているのですか」

「うわッ……おいおい驚かせるなよ、俺はただここで友人を待っていただけだ。邪魔しないで貰いたい」

 ん?
 このわたくしに怪訝な顔を向けるモンスター、街の入口横にある掲示板に貼られてたポスターで見た事があります。

 わたくしの顔ポスターも隣に貼ってあったのでよく覚えていたのです。
 こんなモンスターと横に並べないでくれとポスターを破き、次いでに複製魔法でわたくしのポスターをたくさん貼ってあげました。

「邪魔しているのは君の方です、ショタ生に君は邪魔者部外者汚点でノイズ。ここから隣街に移って貰いますよ顔ポスター」

「ポ!? おまえ、まさか追手か!? クソッ」

 大急ぎで走り出すモブAポスター。
 マズイです、走る先にはショタちゃんが!

 ……ま、これも予想の範疇ですけどね。

 逃げるポスターの額に何かがゴガッとぶつかり、地面に転がり悶え始めました。

 ショタちゃんの身長は148cm。靴の厚さと髪のボリュームを考慮して、163cmの高さに透明の壁を横方向に展開しておいたのです。
 これくらい、素早く移動しながら魔法陣を置いてポポイのポイポイです。

 生きる可愛いが倒れ込むポンスターに気づく前に、遠くから投げ縄方式で魔法の縄で縛って引き寄せ……あとは誰かが見つけてくれることを願って空中に吊るして起きましょう。

 ショタちゃんの身長を把握しているわたくしは、視界の範囲も把握済み。
 一般のモンスターが気づけてショタちゃんが気づけてない絶妙な高さに吊るすのです。えいしょ。

 何も知らない主ちゃんは、ルンルンでモンスターの真下を通り抜けます。
 ふう、今日もこうして世界平和が訪れたのです。

 てくっと歩いて行くその先は街の大広場。
 飲食、武器、雑貨、衣服な店舗がズラリと並んでいます。
 三割の買い物の方でしたか、ショタサービスシーンはまだですか?

 ショタちゃんに声をかけるおばモン、商売人魂を燃やして宣伝マシンガンをくらわしています。いい迷惑ですね、やめて頂きたい。

「わあっ美味しそうなタルトですね! え、試食してもいいんですか? ありがとうございます!」

 今日の初生声ですよ!
 しかもめちゃ笑顔でタルトを頬張ってます!!
 おばモンもっとやってください!!!

 はあ……わたくしもショタちゃんとタルト食べたい……なんならあーんとかされてみたいです……腹の音が止まりません。

 物陰隠れ潜むわたくしをジロジロ見る通行人。
 気にせずまっすぐ通ればいいものを……わたくしの善行の行く末を終始見逃せないのでしょうか?

 にしてもスキル【壁化】の最中なのですから、もう少し見つからない動作をしてもらいたいものです。
 十メートルの範囲内に入った途端、嫌な目線を向けるのは人間としてどうなんです。

 試食タルトを食べ終わったショタちゃんは、二つタルトを購入して店を後にします。
 まだ寄るところがあるのか、店の品を見物しながらウロウロ。

 わたくしもショタちゃんの探しているものをお手伝いしたいのですが、ショタ生の邪魔になるが故身を潜めるしか……いや、ここでただ自衛しているだけでいいのですか!
 逆に見つかりさえしなければいいのですよモリス!

 わたくしは二本足で歩くモンスターを避けながら、地面を這うように四足歩行で移動。わたくしまでなると、人間は四足歩行を習得するのです。

 ショタちゃんが見しらぬモンスターに声を掛けます。

「あの、ここの広場にある武器屋を探しているのですが、どこにあるか教えて頂けませんか?」
「ああすまん、今忙しいんでね、他を当ってくれ」

 心無いモンスターは人類の中の人類に耳を傾けようとしません。クソッタレですね。

 しかし安心してくださいショタちゃん!
 ショタちゃんには人類二人の内の一人、このモリスが道を先導して差し上げましょう!

 プラン251を遂行する時です。

 店裏から忍び四足で通行人に近づき、マシな見た目のモンスターを選別しターゲットを絞ります。
 よし、平凡な見た目のモブBにしましょう。

 憑依魔法スピ・フィール。
 使用者より魔力総量が低い者に乗り移れる魔法です。欠点は乗り移られた者は意識があるままなので、わたくしの行いがバレてしまうことですね。
 ま、制限時間前に縛って置けば問題ありません。

 スウっとわたくしの意識がモブモンに入り込みます。

 瞼を開き、手をワキワキしたりと状態確認。
 身体の相性は五分五分。制限時間は七分と言ったところでしょう。

 モブBとなったモブMのわたくしはショタちゃんに近づき。

「ショ、君、武器屋を探しているらしいですね。よろしければわたくしが案内しましょうか?」

 突然話しかけられたショタちゃんは目を見開き驚いていましたが、その目を輝きの目に変えて言います。

「ありがとうございます! あ、お礼と言ってはなんですが、先程購入したタルト、おひとつどうぞです」

 ショタちゃんの尊き笑顔がわたくしの目の前に!
 眩しすぎて一周回って寿命が伸び……え、タルトを頂いていいのですか!?

 へへへ、念願のあーんが出来るチャンスで……………………え、
 そういえばわたくし、ショタちゃんと面と面向かってお喋りしちゃってますよ!!?

 ドミノ倒しの如く驚き拡散するわたくしに、ショタちゃんは困った表情をしています。

「あ、すみませんねつい。この頃まともな食事をしていなかったもので……」

「全然いいんですよ」

 わたくしはショタちゃんの目の前で、堂々と己の手を魔法の縄で縛り。

「手が縛られているので、あーんして貰いたいのですが」

「……え、でも手」

「武器屋を教えるお礼の一環で、お願いしますこの通り! 幼き男性にあーんして貰わないと死んでしまう病に掛かっているのです!」

 縛られた手を器用に合掌。加えて頭を深々と下げます。
 嘘ついても後悔してません、何せ嘘を出しゃばった口はモブBの口ですからね。モブBに罪を被せてわたくしは汚れる事無くあーんして貰うものです。

「あーんして貰わないと死んでしまう病!? 大変です、今すぐ僕があなたにあーんしますねっ」

 ショタちゃんが自前フォークを取り出してわたくしにタルトを差し出しています。

 な、なんてご褒美!
 わたくしが三ヶ月自衛して来た甲斐がありましたね!
 もしかして明日死んでしまうのでしょうか?
 まあここで死んでも本望ですね……

 ……待ってください。
 この絵図、わたくしではなくモブBがあーんして貰うことになりませんか?

 そんなことあってはなりません!
 ショタ生にモブBとあーんさせるシーンなどいりませんよ!!
 ここは血反吐を吐いてでも我慢です!!!

「あああっ急にあーん病が治りました! もうあーんしなくても大丈夫ですよ!」

「急に治るものなのですか!? へへっ兎にも角にも治って良かったですね~」

 はあ、この選択、一生後悔しそうですが……これもショタちゃんの為なのです。


 ◇


 「で、お客さんのお皿に、ショタニウム光線~って言いながら炎魔法で温めて、生卵原液をオムライスに変えるんですよ」

 ショタちゃんは楽しそうにメイド喫茶での話をしています。
 わたくしは今、この時の為に生まれて来たのでしょう。
 何せ幸せすぎて昇天しそうなのですから。あ、憑依してるから死ぬのは中身のモンスターでしたね、ははは。

「あ、探していた武器屋が見えて来ましたよ!」

 わたくしのフィーバータイムも終わりが近づいて来たようですね。
 お別れの挨拶をしなければ。

「わたくしはここらでお……ん?」

 モブBことわたくしの右手がひとりでに。

「ぐわッ!? ちょ痛いッ痛いですって!」

「え、自分で自分を殴ってますよ!?」

 わたくしの頭を叩いて来ます!
 中身の意識が身体の支配を取り戻そうとしているようです。制限時間はまだのはずなのに……モブのくせに実力者なのですか!?

 まずい、今すぐ撤退しなければ、ショタ生にヒビが!

「これは新たな病にかかってしまったようですね! ではまたどこかでお会いしましょ……あ! 名前! あなたのお名前をわたくしに教えて貰えませんか!?」

「な、えと、僕の名前はシャル・アルモンスです。この度はありがとうございました!」

 お辞儀するショタちゃんに手を振り、物陰にサッと隠れるわたくし。

 シャル・アルモンス!
 シャルシャルシャルシャルシャルシャルシャルシャルシャルショタシャルシャルシャルちゃん!

 とうとう……とうとうショタちゃんのお名前を聞けましたよ!
 ……グハッなんていい響きなのでしょうグハッ。
 天使の産声鳥の音色ハーブの香り……グハッ尊すぎて吐血が止まグハッちょ、それ以上わたくしの顔を殴ってはグハッ!

 わたくしの顔を殴り続けるモブB(わたくし)の身体を魔法縄で縛り付け、壁から身動き出来ないようにします。
 全く世話の焼けるモブですね、ショタ生に少し関われただけでも、わたくしに感謝するべきなのですよ?

 証拠隠滅の為に地面に埋めたいところですが、武器屋に訪れるショタちゃんを自衛しなくてはならないので見過ごしてあげましょう。

 モブBの身体から意識をわたくしに戻し、移動魔法で事前に描いて置いた魔法陣にワープ。
 お得意の忍び四足歩行で武器屋の壁裏に移動して聞き耳を立てます。

「いらっしゃいませ、どうぞご自由に手に取ってみて構いませんよ」

「わあ格好良い武器がたくさんありますね! 友人の誕生日プレゼントに買いに来たのですが、こう……斬れ味の良い武器はありますかね?」

 友達思いなショタちゃん……なんて聖人なんでしょう!

 ん、何処からか視線が感じますね。まあいつもわたくしに妙な視線を送られるのは日常なのですが、視線の感じる先が何故か上からなのです。
 憑依とかしてしまったので第六感が働いているのでしょうか?

 恐る恐る上方向に目をやると、わたくしと同じように四足歩行する男がいるではないですか!
 ……あれ、四足歩行する人間って頻繁にいましたっけ?

 壁に指を食い込ませ、トカゲの如く這う男は、目と目が合ったら戦闘と言わんばかりに近づいて来ます。

「おまえ、一体ここで何しているんだ?」

 何してるかだって?

「自衛ですけど」

 一目瞭然です。ショタちゃんを自衛していること以外に、わたくしが何していると見えるのでしょうか。

「見た事がある顔だとは思ったが……なるほど、おまえも俺と同じように見張っていたわけか。だがこの仕事は危険が伴う、新入りはもう少し下がった場所から援護するといい」

 何!?
 あなたもショタちゃんを自衛していたのですか!?

 道理で初対面にも関わらず人間判定が出た人間です。そこらのモンスターとは一枚二枚と上手なのですね。

 ですが先輩ズラするにはまだ早いですよ。
 わたくしは三ヶ月前から毎日身を削って自衛しているのですから。

 武器屋の方から可愛い声がしてきます。

「このチェンソーに決めました、ラッピングお願い出来ますか?」

「お易い御用ですよ」

 チェンソーってそんな物騒なものにラッピング?
 画が凄いですが、まあショタちゃんから貰うプレゼントであれば、何にでも喜ぶので大丈夫でしょう。チェンソー強そうですし。

 大きなリボンチェンソーを担いで掛けて行くショタちゃん。

 未だに壁に指を食い込ませる張り付き異常者は。

「な、あいつ、チェンソーを警戒して攻撃魔法を仕掛けていのか!? あの子供は俺達とは無関係のはずだ……クソッ寄りにもよって駆け寄る場所が場所だ。新人、ボケっとしてないであいつを止めるぞ!」

 わたくしにそう言って壁を床のように蹴って走ります。

 ショタちゃんの行く末に、危険が迫っていると言う訳ですね。
 ところであいつって誰ですか?

 あいつと言うモンスターが分からない今、わたくしがするべき事はひとつ。

 わたくしがショタちゃんの視界に入らないよう、影から魔法の紐を伸ばし、ショタちゃんの胴体を縛って引き寄せます。
 同時、ショタちゃんの前方にバリアを展開。これは反射効果を兼ね備えたバリアで、魔法攻撃を放った者に反撃を与えることが出来るのです。

 そう、ショタちゃんを見えない脅威から遠ざければ問題無いのですよ!

「ナイスだ新人! あとは俺に任せておけ」

 叫ぶ男はわたくしが展開した半球体状のバリアを足場にして乗り移り、魔法攻撃を放とうとしていたモンスターを足蹴りで仕留めます。

 何勘違いしてるんですか先輩もどき。わたくしはショタちゃんを自衛する、当然の事をしたまでです。
 あと良いところ持ってった感やめてください。ショ人公であるショタちゃんに目立たないよう心掛けながら、モンスターを仕留めるのが満点なのですから。

 気絶したモンスターを片手で軽々と持つトカゲ人間は、お疲れさんと言わんばかりに空いた方の手を振っています。
 こっち見てくるのではありません、ショタちゃんに居場所がバレてしまいます。何考えてるんですか。

「あとは予定通り二人、確保出来れば任務完了だ。頼りにしてるぜ」

「フィカス、もうその必要はありませんよ」

 わたくし達に語りかけられた優しい声色。
 
 声色のする方に目を向けると、とても気品な衣装を纏う女の子が一人。

 ショタちゃんの他の人間に、雑音として聞こえない声があるなんて……で。

「誰ですか?」

「はああああああ!? おま、ヨルシア様をご存知無いなんて何処の者だ!?」

「え? ヨル、シア?」

「様をつけろごらああああ!!! 死刑ッ! 死刑だこの野郎!!!」

 ヨルシア様と呼ばれる女の子が、まあまあと言いながら間に入ります。

「落ち着いてフィカス。この男が、私の暗殺を目論んでいた指名手配犯を倒してくれたのですよ。しかも丁寧に縄で縛って」

 指名手配犯?
 ……ショタ生を邪魔するモンスター二人が、その暗殺者だったってことですか?

 ふう、ショタちゃんの周りに、何故こうも犯罪者がわんさか湧いて来るのでしょうか。世界がわたくしのような慈悲で溢れれば平和でしょうに。

「……え、こいつが? てかヨルシア様何故ここにいるんですか? 城で待機しているはずなのでは」

「ふふっ散歩したくなっちゃったんです。まあ影でロストが私を護ってくれてるので大丈夫ですよ。ほら、広場で買ったアイスを分けてあげましょう」

 アイスを受け取ったフィカスという名の先輩ズラは、わぁーいって違ーうと突っ込んでいます。
 その突っ込み方は古いですよ、頭の情報を更新してください。あ、脳筋で情報なんかゼロでしたね。わたくしがショタ豆知識を代わりに詰めて差し上げます。

 上品なお嬢様な方は、暴れる男を手で追い払いながらわたくしに近づいて来ます。

「うるさいフィカスは置いといて、君、モリスと言う者ですね? あの有名なストーカーの」

「ス、ストーカー!?」

 まるで犯罪者予備軍じゃないですか。
 わたくしがそんな落ちぶれ者と一緒にしないで頂きたいものですね。

「散歩ついでに私自ら葬ろうと思っていたのですが、貴方のお陰で手が省けました。実は私、一部始終を遠くで見ていたのです……あの魔力量と操る力、多岐に渡る魔法の種類、とても素晴らしいです」

「あ、ありがとうございます……?」

 遠くで見ているなんて気持ち悪いですね。それこそストーカーじゃないんですか?

「そこで私は閃いたのです。どうでしょう、私のガーディアンになってみては?」

「「な、ガーディアン!?」」

 うわ……毛皮らしいトカゲ人間と声が被ってしまったじゃないですか。
 ガーディアンって、私はショタちゃんのガーディアンで忙しいのですが。

「何考えてるんですか! このストーカー野郎をガーディアンだなんて、ヨルシア様の身に何かあったら……」

 フィカスの意見をガン無視するお嬢様に、わたくしは嫌ですと一言。いや二言、三四何回でも言ってやりますよ。これでもう引き下がることでしょう。

「残念ですね~、ガーディアンになった暁に、なんでもひとつ願いを叶えてあげようと思っていたのですが~」

「「な、なんでも!?」」

 だからいちいち被らないで頂きたい!

 しかし……お嬢様ガーディアンをすれば、願いがひとつ叶う……美少年専門メイドカフェに毎日行けるようになるかもですし、ショタちゃんに裕福に過ごせるようにお願いするのもまた良し。

 いや、ショタちゃんはメイドの職を全力で楽しんでいるのです。

「わかりました。わたくしモリス、貴方のガーディアンになりましょう」

「それで、願いは?」

 きっと裕福も何もいらない、ならば。

「美少年専門メイド喫茶で働いているエルフの少年、シャルちゃんを、城のメイドとして雇って頂けませんか?」

 かつてショタちゃんは、本当のメイドとして働きたいと言っていたのです。今のメイド喫茶でも十分に満たされているのですが、メイド本職にも興味が湧いて来たらしいのです。
 ただショタちゃんは男の子。メイドではなく執事として雇われてしまうことを理由に、メイドを諦めていたのです。

 わたくしの願いを聞いたお嬢様は、目を見開いた後、ふっと笑って言います。

「いいですね。そのシャルと言う者をメイドとして招き入れましょう。メイド兼、執事な感じでね」

 ヨルシア様!!!
 ヨルシア様バンザイ!
 ヨルシア様バンザイ!

「ところで、その者はどこに?」

「……あ」

 後ろを向くと、わたくしの魔法縄で縛り上げたショタちゃんが涙目になっていました。

 これは、あの一割のサービスシーン!?
 縄に絡まるショタちゃんセクシー過ぎでしょ!

 いやいや、泣かせてしまうのはダメです。あわわ、腹切しなければ。

 ん、フィカス、ショタちゃんに寄ってたかって何してるんですか。

「ありがとうございます、急に縄が僕に絡みついて来て」

「解くのに手間かかったな、怖かったろ?」

 笑顔なショタちゃんの頭をポンポンするフィカス。

 ……やめてください。

「やめてくださいよおおおおお!!! ポンポン死刑! 死刑死刑!」

「死刑はてめえだろうが! 死刑死刑死刑死刑! ヨルシア様に土下座して死刑!!!」

 こうして、わたくしはヨルシア様のガーディアンに上り詰めることになったのです。

 自衛からガーディアン……ショタちゃんへの仕事が、一人分増えたものです。へっちゃらですね。

 ……ところで、ショタちゃんの指導者係にわたくし含めガーディアン三人が任命されたのですが、わたくしごときがショタ生に関わっていいのでしょうか?
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