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I might love, too...
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それはなんでもない一日だった。
英語文化Ⅰの授業があって、夜は月が綺麗に見えるって天気予報のお姉さんが朝に話していて、それで嵐はまた、真に付いて来てゼミ室に押し掛けた。
授業内容とは関係ないような、でも英語圏の文化に関する高度な話を聞かせてもらって、嵐にとっては充実した時間を過ごしていた。
他のゼミ生が誰もその部屋にいなかったのは、全くの偶然で、しかしだからこそ、真は今がチャンスだと思ったらしい。
「ねぇ、嵐ちゃん。あのさ……僕と付き合ってくれませんか?」
「め?」
真がやけに畏まって言った台詞に嵐は一瞬だけ疑問を浮かべる。
「いいですよ。お買い物ですか? それとも資料整理ですか?」
そして、たまに真からお願いされることがある用事のどちらかなのかを確かめる。
ぴしり、と真の表情と鼓動が止まったような気がした。
「いやそうじゃなくて……僕と付き合って恋人になってくれませんか?」
見当違いを起こした天然惚けな嵐が曲解する余地がないように、真は告白を言い直した。
それだけでもかなり間抜けな状況であるのに、嵐は誰もいないゼミ室の前後左右を確認する。当然、嵐以外に真が話し掛けた相手がいる訳もなく、嵐は人差し指で自分の顔を指差した。
「yes」
英語を扱うゼミ生らしく、真は綺麗な発音で肯定を告げた。
「めっっっええええええ!?」
嵐は絶叫で真の鼓膜を貫くと同時に立ち上がって椅子を倒し、そしてドア続きになっている隣の部屋と逃げ込んでいった。
「梓先輩、なんか真先輩に告白されましたー!?」
「なんですってー!」
嵐に助けを請われた梓が、目端を吊り上げて出て来る。
仁王立ちする院生の先輩の背中に嵐は隠れている。
「ちょっと待って! 助けを呼ぶくらい嫌なのかい!?」
真の嘆きに嵐はきょとんと目を丸くした。それから、唇を手で押さえて、じっくりを考え込む。
「え、別にイヤじゃないです、ね? あれ?」
嵐はびっくりして助けを呼んだものの、よくよく自分の心を見直してみたら、真への好感度はなかなか高いのに気付き、今更に悩み始まる。
それから梓の陰から顔をちらりと覗かせて、真のことを改めてまじまじと眺める。
ひょこん、と、嵐が真に向かって手を差し出した。
「……嵐ちゃん、これは?」
自分の腰に沿うように伸びた腕に、梓がその意図を問いかける。
「えっと、真先輩に手を握ってもらって、イヤかどうか判断しようかなと」
真は、なんだかなぁ、と若干疲れた表情を見せつつ、嵐のすべすべした手を握った。少し汗ばんでいるのは、告白の緊張からまだ解放されてないのだと許してほしいと、自分に言い訳をしていた。
「めーぇーえー?」
ぐにゃぐにゃとした音程で、嵐が鳴く。
嵐は躊躇いがちに、真の瞳を見つめた。
「あの……あたしでいいんですか?」
「嵐ちゃんがいいんだけど、ダメかな?」
嵐はじっと、真に握られた自分の手をじぃっと見詰める。
〈Showerslamp, please hold us, so your fantastic world〉
嵐の唇から、細く、霧雨のように微かな歌が漏れ出す。
やわやわと、嵐は真の手の感触を確かめながら、梓の背中から出て来る。
〈I want anyone to see our love, so want to be only us in showerslamp〉
真は、自らの歌に濡れる嵐の姿がとても神々しく見えて、言葉を失い、ひたすらに目に焼き付けようとしていた。
嵐がねだるように濡れた唇を結び、瞼を半分降ろす。
真は繋がった手を引いて、嵐の体を引き寄せて。
空いた方の手を嵐の頬に添えて、顔の位置を定めて。
口付けをするように真っ直ぐに瞳を交わした。。
嵐もまた視線を反らさずに、その愛鏡に真の黒目を映し返した。
それはささやかなで静かな、しかしながら想いの籠った熱っぽい返事だった。
「あのー、ここゼミ室なんで、いちゃつくのはよそでしてくれる? なに、徹夜三日目の私への当てつけ? 喧嘩なら買うわよ、二人とも」
一秒にも待たずに交わした眼差しを離した二人は、わざわざ呼ばれて見せつけられた怒りに震える梓へと揃って苦笑いで誤魔化していた。
英語文化Ⅰの授業があって、夜は月が綺麗に見えるって天気予報のお姉さんが朝に話していて、それで嵐はまた、真に付いて来てゼミ室に押し掛けた。
授業内容とは関係ないような、でも英語圏の文化に関する高度な話を聞かせてもらって、嵐にとっては充実した時間を過ごしていた。
他のゼミ生が誰もその部屋にいなかったのは、全くの偶然で、しかしだからこそ、真は今がチャンスだと思ったらしい。
「ねぇ、嵐ちゃん。あのさ……僕と付き合ってくれませんか?」
「め?」
真がやけに畏まって言った台詞に嵐は一瞬だけ疑問を浮かべる。
「いいですよ。お買い物ですか? それとも資料整理ですか?」
そして、たまに真からお願いされることがある用事のどちらかなのかを確かめる。
ぴしり、と真の表情と鼓動が止まったような気がした。
「いやそうじゃなくて……僕と付き合って恋人になってくれませんか?」
見当違いを起こした天然惚けな嵐が曲解する余地がないように、真は告白を言い直した。
それだけでもかなり間抜けな状況であるのに、嵐は誰もいないゼミ室の前後左右を確認する。当然、嵐以外に真が話し掛けた相手がいる訳もなく、嵐は人差し指で自分の顔を指差した。
「yes」
英語を扱うゼミ生らしく、真は綺麗な発音で肯定を告げた。
「めっっっええええええ!?」
嵐は絶叫で真の鼓膜を貫くと同時に立ち上がって椅子を倒し、そしてドア続きになっている隣の部屋と逃げ込んでいった。
「梓先輩、なんか真先輩に告白されましたー!?」
「なんですってー!」
嵐に助けを請われた梓が、目端を吊り上げて出て来る。
仁王立ちする院生の先輩の背中に嵐は隠れている。
「ちょっと待って! 助けを呼ぶくらい嫌なのかい!?」
真の嘆きに嵐はきょとんと目を丸くした。それから、唇を手で押さえて、じっくりを考え込む。
「え、別にイヤじゃないです、ね? あれ?」
嵐はびっくりして助けを呼んだものの、よくよく自分の心を見直してみたら、真への好感度はなかなか高いのに気付き、今更に悩み始まる。
それから梓の陰から顔をちらりと覗かせて、真のことを改めてまじまじと眺める。
ひょこん、と、嵐が真に向かって手を差し出した。
「……嵐ちゃん、これは?」
自分の腰に沿うように伸びた腕に、梓がその意図を問いかける。
「えっと、真先輩に手を握ってもらって、イヤかどうか判断しようかなと」
真は、なんだかなぁ、と若干疲れた表情を見せつつ、嵐のすべすべした手を握った。少し汗ばんでいるのは、告白の緊張からまだ解放されてないのだと許してほしいと、自分に言い訳をしていた。
「めーぇーえー?」
ぐにゃぐにゃとした音程で、嵐が鳴く。
嵐は躊躇いがちに、真の瞳を見つめた。
「あの……あたしでいいんですか?」
「嵐ちゃんがいいんだけど、ダメかな?」
嵐はじっと、真に握られた自分の手をじぃっと見詰める。
〈Showerslamp, please hold us, so your fantastic world〉
嵐の唇から、細く、霧雨のように微かな歌が漏れ出す。
やわやわと、嵐は真の手の感触を確かめながら、梓の背中から出て来る。
〈I want anyone to see our love, so want to be only us in showerslamp〉
真は、自らの歌に濡れる嵐の姿がとても神々しく見えて、言葉を失い、ひたすらに目に焼き付けようとしていた。
嵐がねだるように濡れた唇を結び、瞼を半分降ろす。
真は繋がった手を引いて、嵐の体を引き寄せて。
空いた方の手を嵐の頬に添えて、顔の位置を定めて。
口付けをするように真っ直ぐに瞳を交わした。。
嵐もまた視線を反らさずに、その愛鏡に真の黒目を映し返した。
それはささやかなで静かな、しかしながら想いの籠った熱っぽい返事だった。
「あのー、ここゼミ室なんで、いちゃつくのはよそでしてくれる? なに、徹夜三日目の私への当てつけ? 喧嘩なら買うわよ、二人とも」
一秒にも待たずに交わした眼差しを離した二人は、わざわざ呼ばれて見せつけられた怒りに震える梓へと揃って苦笑いで誤魔化していた。
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