露包むランタン

奈月遥

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I'll never let you get away

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 風呂上りの灯理とうりはリンゴジュースを一杯飲んで、やっと一心地ついた。
 明日は仕事もなく急いで仕上げるランタンもない完全なオフだから、今日は全てを明日に投げて寝てしまおうかと思いつつある。
「あかりさん、明日、お休みだよね」
 そんな灯理の腕に、らんが全身で絡まってきた。
 灯理よりも先にお風呂に入っていた嵐は、V字で胸元が開いているタンクトップに太股が丸出しのホットパンツと、ラフな格好をしている。
 右手にコップを持ったままだった灯理は、数秒の間、気絶するように思考を失っていた。
「……え、俺、この事態はさっき回避できたんじゃなかったのか?」
 つい二時間前の戦果は何だったのかと灯理は恐れ慄いた。
 灯理の戸惑いを感じて、嵐は潔く、しゅるりと体を解き、もじもじと顔の前で手を合わせた。
「いや、だって、なでなでは嬉しかったんだけど、その、余計にしたくなって……でも、あかりさんがまだやることあるなら、待つよ。なにかあるの?」
 どうやら先程の灯理の行動には確かに功績があったようだ。
 嵐も理性的に発情していて、気遣いも取り戻している。
 もっとも、そうなると逆に灯理からしたら断わり難いし、断る理由もないし、とむしろ断崖絶壁に追い詰められてしまうという問題があるのだが。
「いや、やることは、ないけど」
 嵐が不利益を被らないためには散々出任せの嘘を吐いてきた灯理も、この時は素直に答えてしまっていた。
 それが自分の立場を悪くするとは分かっていても、嵐を相手にしたら嘘も誤魔化しもしないのは惚れた弱みと言えるだろうか。
 嵐は灯理の答えを聞いて、にへらと相貌を崩して右手で彼のシャツの裾を握り、くいくいと引っ張っておねだりをしてくる。
「……………………コップ洗って、歯を磨いたら行くから」
 沈黙の中で、灯理は外からは悩んで動きを止めて逃げ場がなくなって返事をしたように見えた。
 しかし実際は、手を伸ばせば届く程に近くで見せられた嵐の無邪気な笑顔を脳裏に刻み付けるのに夢中になって、結局巧い言い訳も作れないままに返事をしただけだった。
「めへへ……あたしの部屋で待ってるね」
「は!? 嵐の部屋でやんの!?」
 昨日の晩も嵐は灯理のベッドに潜り込んで寝ていたから、てっきり灯理の部屋で行為に及ぶのかと思っていたのが覆された。
 嵐の部屋は相変わらず、引っ越し当初の約束のまま基本的には灯理には不可侵領域である。それを破ったのは、露包つゆつつむのランタンを持ち出したあの日だけだ。
 そんな場所だから、灯理からしてみれば入るのが嫌な訳ではないけれど、罪悪感は割り増しされる。
「だって、自分の部屋でしたことはまだないから」
 何がだってなのか、灯理には嵐の言い分が全く分からなかった。
 ただでさえ嵐に手を出すのは気持ちが落ち着かなくてその気になれないのだから、そこに余計な後ろめたさまで添えられたら気が散ってしょうがない。
 どう説得しようかと灯理が頭を悩ませている間に、嵐は言葉を繫いだ。
「あと、灯理さんの部屋でセックスして、思い出してドキドキして寝れなくなったら困る」
 自分の部屋で寝ろよとか、俺のプライベートはどこに行ったとか、灯理にも言いたいことはたくさん思い浮かんだけれど。
 俯き加減で心底困った顔をする嵐を見たら、我が儘を聞いてしまうのが灯理の甘いところだった。
「………………………………………………………………コップ洗って、歯を磨いたら行くから、部屋で待ってろ」
 嵐は灯理が泣きそうな声をしているから、可哀想になってその頭を優しく撫でてあげた。
 そうして撃沈した元凶に慰められた灯理は、言ったことは守り、自分の部屋に一度立ち寄ってから、嵐の部屋のドアをノックする。
 内側からドアを開けた嵐の姿を見て、灯理はまたも絶句する。
 嵐は生まれたままの姿で、もう肌は上気して桃色に透けており、汗に混じって濃い匂いが灯理の鼻に付いた。
 すっかり出来上がってる嵐に、灯理は思わず半歩体を引いた。
「いや、お前、どんだけやる気なんだよ」
 嵐がこてんと首を傾げた。
しん先輩とは、いつもだいたい四時くらいまでしてたよ?」
 そうじゃない。あと、その話題は灯理にするべきではない。
 灯理は片手で頭を抱えたが、ある意味で嵐の本調子に戻ってきた感じもして、嬉しくない訳ではないのが厄介だった。
 このままじゃ埒が明かないどころか、さらに余計な話を出されそうだと判断して、灯理は嵐の支えるドアに手を掛けて半ば強引に部屋の中へと押し入った。
 窓のない室内はエアコンも沈黙したままで蒸し暑く、ドアを閉めると匂いが籠って強くなったような気さえした。
 ベッドのタオルケットは丸められて端に退けられていて、シーツには濡れた染みがすぐに見付かった。
 灯理はあからさまな状況にげんなりとしつつ、ベッドに腰を降ろす。乱暴に体重を掛けられて、嵐のベッドは軋んでか細い悲鳴を上げた。
「あ、もしかして、脱がせたかった? もっかい服着た方がいい?」
「お前、キッチンでもう下着姿だったろうが、いまさらすぎるわ。いいから、こっち来い」
 灯理は嵐にムードやロマンスを求めるのを早々に諦めて投げやりに呼び付ける。
 雑な口調で呼ばれても、嵐は嬉しそうに、はにかんで灯理の横にお尻を降ろした。
 嵐は早速、灯理にべったりと抱き着いて体重を預けてきた。
 すっかり濡れそぼった嵐の肌が、半袖の先で露出した灯理の肌にしっとりと張り付く。
 ここ数日、夜の度に寝苦しくしてくれたのよりも更に高い体温が、灯理にまとわりついた。
 それでも灯理は逃げようともせず、逆に嵐の腰に左手を回して引き寄せた。
 ふるん、と揺れる胸を視界に入れつつ、灯理は嵐の頬に右手を添える。
 嵐は溢れる期待を眼差しに乗せて、愛鏡まなかがみに真顔の灯理を映した。
 もう灯理からしたら、嵐の興奮した肉体は欲情を掻き立てるし、暑くていらいらするし、ばか娘は情緒がないし、それでも愛おしさが勝手に湧いてくるし、もう真顔になるしかなかった。
 半分は諦めの気持ちで、灯理は嵐の唇を奪う。
 情緒はなくても、嵐が満足させるのが何より大事だと腹を決めて、灯理は嵐のぷくりと膨らんだ唇を啄む。
 二回、嵐の唇で水音を鳴らして、灯理は唇を離した。
 親指で嵐の濡れた下唇を擦る。
 それだけで嵐は胸の奥がぞくぞくして目を潤ませた。
 灯理が悪戯っぽく微笑んで、親指で嵐の下唇を押さえて前歯を露出させる。
 湿って粘ついた吐息が、親指にかかる。
 灯理はまた唇を嵐に寄せ、半開きにさせた口に唇を乗せて割り込ませた。
 嵐は喜んで灯理の唇を食む。
 少し味わわせたら、灯理はまた顔を引いて、代わりに人差し指を嵐の口に突っ込んでしゃぶらせた。
 ちゅうちゅうと灯理の人差し指に吸い付きながら、嵐は非難がましい目を向ける。
「あはひさん、もっほ」
「口に物入れながら喋るのは、はしたないぞ」
 にやにやと笑みを浮かべて、灯理は人差し指をさらに奥へ進ませて、嵐の舌を撫でる。
 舌の上を爪で軽く引っ掻いてやれば、嵐は息を漏らしながら灯理の指に甘噛みを始めた。
「で、嵐はここを自分でいじってたのか?」
 灯理の空いた方の手が、嵐の太股の隙間を通り過ぎて股の奥に伸びる。
 灯理の細い指が割れ目をつつくと、にちゃりといやらしい音が鳴った。
 嵐の腰が灯理の方に迫ってきた。
 濡れた瞳が灯理の目に懸命にねだる。
 灯理は嵐の腰の動きから逃げるように手を下がらせて、代わりに太股を掴んで指を沈ませた。
 ちがう、と抗議するように、嵐が腰を揺すった。
 灯理は嵐の口から指を外し、どちらの手も嵐の体から引き戻した。
「嵐、かわいいな」
 そして穏やかな声音と微笑みを嵐に向ける。
「めっ、ぇ?」
 自分がはしたないことをしていると十分に理解していた嵐は、かわいい、なんて言われて胸をドキドキさせて呼吸がつっかえた。
 灯理はくすくすと笑って、嵐の乳首を弾いた。
「めぇんっ!?」
 急に走った刺激に、嵐は目を白黒させました。真にどんなに乳房を揉まれても、いやらしい気分なんてならずに余裕でいられたのに、灯理には指先一つで悶えさせられて、経験との違いに困惑してしまう。
 息を荒くする嵐を労わるように、灯理は手のひらで無防備な胸の膨らみを包み、もにゅもにゅと形を歪める。
 それはやっぱり、揉まれてる感触はあるものの、体の熱をくべることはなくて、嵐は疑いの目を灯理の手に向ける。
「ふーん。胸がでかいと感度がよくないって本当なんだな」
 灯理は嵐が平然としているのに感心の声を上げて。
「ひんっ!?」
 不意打ちで乳首を摘ままれて、嵐は鋭い悲鳴を上げた。
「な、なんで、どゆこと!?」
「ん?」
 焦りを見せる嵐に灯理は疑問符を浮かべるが、すぐに、ああ、と一人で納得した。
「あんまり愛撫されなかったのか。まぁ、こんだけ揉み心地いい胸あったら、揉みしだくのに夢中にもなるか」
 灯理はまた求肥のような柔らかさと伸びがある胸をぐにぐにと揉む。
 嵐はその間だけ、息を許されて、喘ぎながら気持ちを落ち着ける。
 それから怯えた目で灯理の様子を伺い、次の刺激がいつ来るのかと身構えている。
「んー、可哀想だから、もういかせてやるな?」
 灯理が至って平然とそんなことを言うから、嵐の心に恐怖が芽生える。
 余裕をなくして力任せに嵐の中に打ち付けて、それで一緒に絶頂した真と違って、灯理はこのまま、普段通りの余裕を持ったままで、嵐だけを乱れさせると言っている。
 それを否定できなくて、嵐はイヤイヤと首を振って、涙を浮かべた。
「ま、これに懲りたら、迂闊に誘惑するなよ」
 灯理の右手が嵐のお尻を支えた。
 左手が、ずぷりと前から入ってくる。真よりも細くて、けれど長くて真が指じゃ届かなかったところを突かれる。
 それが、遅れて二本目が、そして三本目も入ってきて、嵐の内側をまさぐる。
 ぐにぐにと、三つの違う動きが攻めてきて、初めての体験に嵐の脳が混乱しきって火花を散らした。
「んひぃ!」
「あ、ここか。けっこう奥だな。指つりそう」
 灯理はさぐる中で嵐が鳴いた場所をしっかりと把握し、何度か同じ位置を指の腹で擦る。
「んっ、めぇ、やぁあ!」
 嵐が泣いてむずがる反応で確かめてから、灯理は一旦指を引き抜いた。
 抜いた指を擦り合わせてぬめりと実感すると、灯理にも小さな達成感と悦びが灯る。
 荒く肩で息をして胸を上下させる嵐は、見るからに憔悴していて。
 だから灯理は簡単に嵐をベッドに押し倒して、体を嵐の太股の間に割り込ませることができた。
「めっ、ちょ、まって、なにこれ、はずかしっ!」
 嵐は覆い被さられるのには慣れていても、足を無理に開かされて一方的に曝されるのは初めてだった。
 灯理は嵐の抗議は涼しい顔で無視してポケットからゴムを取り出して中指に装着する。
「使うのはこっちだったか。意識飛ぶまでがんばってやるからな。だいじょうぶ、その後はそのまま寝かせてやるから安心しろ」
 嵐は、いつも通りに労わってくれる優しい灯理の真剣な目を見て、胸の奥を震わせた。
 だってそれは、灯理がランタンを造る時に見せる、本当に大事なものを扱う時の、真剣に心凝うらこらせる作業をする時の、嵐がずっと見ていて飽きない大好きな目だったから。
 嵐は怖くて、嬉しくて、ときめいて、好きにしてほしいと、体の力を抜いた。
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