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こちら御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門です
はじめまして
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篠山は昼食を食いっぱぐれたことを思い出した。腹がきりきり、きゅうきゅうと痛むのは空腹のせいらしい。彼は白髪交じりの頭をかいてあくびをした。
本日の御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門は朝から大忙しだった。早朝に戻ってきた調査隊からの山のような鑑定依頼をこなさなければならなかったからだ。ダンジョンから採取してきた鉱石は文字通り宝の山だ。装飾品として価値のあるものから魔術に必要不可欠なものまで、幅広い鉱石が手に入る。中には直ちに処理をしないと魔力が消えてしまうものがあり、その鉱石を正しく仕分け消えないように魔術をかける、この「一次鑑定」は時間との勝負であった。鉱石部門の彼らは──珍しく──ただただ一心不乱に仕事に没頭した。ミスは許されない。なぜなら消えた分だけ報酬が減るから。鉱石の鑑定、及び販売による収入は鉱石部門だけでなく御山ダンジョン管理局全体にとっての重要な収入源になっていた。
ようやく第一鑑定を終えて処理済みの鉱石を運び出して、気づけば時刻はすでに午後3時。食堂はもう閉まっている。夕方の営業は午後6時から。空白の3時間。どのように過ごすべきか。食堂に押しかけて何か余り物でももらってくるか、それとも購買部でしなびたサンドイッチを買うか。究極の選択である。篠山は両腕をいっぱいに広げて伸びをした。
「佐伯ちゃんさあ」
「はい、なんでしょう」
佐伯女史が向かいの机の本棚の陰からひょっこりと顔を出す。鉱石部門の紅一点であり優秀な魔術師だ。ひっつめで露わになる大きな額に丸眼鏡、そんな彼女を見るたびに篠山は心の中で「丸いなあ」と好ましく思うのであった。
「お昼どうする?」
「私は済ませましたよ。軽くですけど」
そう言って取り出したのは携帯食料、通称「ダンジョンバー」である。名前の通りダンジョン探索の際に気軽に栄養補給できるようにと開発されたシリアルバーだ。軽い食事代わりになるということで今では非探索者の間でも人気の商品になっている。
黄色と水色の賑やかなパッケージで覆われたダンジョンバーの登場に篠山は思わず顔をしかめ、佐伯は「その顔!」と大笑いした。
「篠山さん嫌いですもんね、ダンジョンバー。これ新商品ですよ、一口どうですか?」
「ちなみに何味?」
「真夏のパイナップル味」
「絶対ヤダ!」篠山は叫んだ。「パイナップルアレルギーだから、そもそも食べられないし」
彼は眉間から鼻の頭にまでしわを寄せた。佐伯はゲラゲラと笑いながら封を切った。
「そんなに癖のある味じゃないと思うんですけどね」
「後味がどうしても好きになれなくて」
篠山は言いづらそうに「喉に甘さがへばりつく感じが無理で……」とため息をついた。数多くのラインナップを持つダンジョンバーであったが、どれもこれも彼の好みには合わなかった。
「狭田ちゃんは?」
「裏で愛妻弁当食べて一服してます」
「羨ましい~!」
いくら騒いだところで空腹感は消えない。そろそろ購買部に行ってサンドイッチでも買うか、と篠山が立ち上がったときであった。
入り口がノックされる。返事をする間もなく扉が開いて大柄な男が現れた。日に焼けた肌に鍛え上げられた肉体を持つ彼は運搬部の大多喜だ。「今いいか?」と彼はずかずか中に入ってくる。
「お疲れ様」と応えた篠山はすぐに彼の後ろにいる青年に気がついた。見知らぬ青年だ。目の覚めるような金色の髪は惜しげもなく短く切り揃えられており、すっと通った鼻梁に彫りの深い目元はまるで石膏像のような美しさだ。ぱっちりとした二重に碧い瞳は存外力強さを湛えており、単純に「美青年」と表現するだけでは足りない迫力がある。薄い唇がにっかりと笑みを作ったかと思えば「どうも、初めまして!」と大声を響かせた。篠山は目を白黒させた。
「どちら様?」
「今日から入った新人」
「どうも、ジドっていいます。よろしくお願いします!」
「運搬部に入ったんですか?」と佐伯が怪訝な顔で尋ねた。「体力自慢でもなかなかキツイって聞きますけど」
するとジドは「心配ご無用!」と自分の胸を叩いた。
「前職も体使う仕事だったんで大丈夫です!」
「前職?」
「軍で働いていました! 下っ端ですけど!」
はきはきと──大きな声で──応える彼には実に好感が持てた。
「実際、勘はいいよ。慣れればすぐに主戦力になる」
大多喜がジドの背中を叩き彼をよろけさせる。
「それで、篠山たちに御山ダンジョンの説明を頼みたい。暇だろ?」
「失礼な」
そう言いながらも篠山は椅子を一つ取り出した。
本日の御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門は朝から大忙しだった。早朝に戻ってきた調査隊からの山のような鑑定依頼をこなさなければならなかったからだ。ダンジョンから採取してきた鉱石は文字通り宝の山だ。装飾品として価値のあるものから魔術に必要不可欠なものまで、幅広い鉱石が手に入る。中には直ちに処理をしないと魔力が消えてしまうものがあり、その鉱石を正しく仕分け消えないように魔術をかける、この「一次鑑定」は時間との勝負であった。鉱石部門の彼らは──珍しく──ただただ一心不乱に仕事に没頭した。ミスは許されない。なぜなら消えた分だけ報酬が減るから。鉱石の鑑定、及び販売による収入は鉱石部門だけでなく御山ダンジョン管理局全体にとっての重要な収入源になっていた。
ようやく第一鑑定を終えて処理済みの鉱石を運び出して、気づけば時刻はすでに午後3時。食堂はもう閉まっている。夕方の営業は午後6時から。空白の3時間。どのように過ごすべきか。食堂に押しかけて何か余り物でももらってくるか、それとも購買部でしなびたサンドイッチを買うか。究極の選択である。篠山は両腕をいっぱいに広げて伸びをした。
「佐伯ちゃんさあ」
「はい、なんでしょう」
佐伯女史が向かいの机の本棚の陰からひょっこりと顔を出す。鉱石部門の紅一点であり優秀な魔術師だ。ひっつめで露わになる大きな額に丸眼鏡、そんな彼女を見るたびに篠山は心の中で「丸いなあ」と好ましく思うのであった。
「お昼どうする?」
「私は済ませましたよ。軽くですけど」
そう言って取り出したのは携帯食料、通称「ダンジョンバー」である。名前の通りダンジョン探索の際に気軽に栄養補給できるようにと開発されたシリアルバーだ。軽い食事代わりになるということで今では非探索者の間でも人気の商品になっている。
黄色と水色の賑やかなパッケージで覆われたダンジョンバーの登場に篠山は思わず顔をしかめ、佐伯は「その顔!」と大笑いした。
「篠山さん嫌いですもんね、ダンジョンバー。これ新商品ですよ、一口どうですか?」
「ちなみに何味?」
「真夏のパイナップル味」
「絶対ヤダ!」篠山は叫んだ。「パイナップルアレルギーだから、そもそも食べられないし」
彼は眉間から鼻の頭にまでしわを寄せた。佐伯はゲラゲラと笑いながら封を切った。
「そんなに癖のある味じゃないと思うんですけどね」
「後味がどうしても好きになれなくて」
篠山は言いづらそうに「喉に甘さがへばりつく感じが無理で……」とため息をついた。数多くのラインナップを持つダンジョンバーであったが、どれもこれも彼の好みには合わなかった。
「狭田ちゃんは?」
「裏で愛妻弁当食べて一服してます」
「羨ましい~!」
いくら騒いだところで空腹感は消えない。そろそろ購買部に行ってサンドイッチでも買うか、と篠山が立ち上がったときであった。
入り口がノックされる。返事をする間もなく扉が開いて大柄な男が現れた。日に焼けた肌に鍛え上げられた肉体を持つ彼は運搬部の大多喜だ。「今いいか?」と彼はずかずか中に入ってくる。
「お疲れ様」と応えた篠山はすぐに彼の後ろにいる青年に気がついた。見知らぬ青年だ。目の覚めるような金色の髪は惜しげもなく短く切り揃えられており、すっと通った鼻梁に彫りの深い目元はまるで石膏像のような美しさだ。ぱっちりとした二重に碧い瞳は存外力強さを湛えており、単純に「美青年」と表現するだけでは足りない迫力がある。薄い唇がにっかりと笑みを作ったかと思えば「どうも、初めまして!」と大声を響かせた。篠山は目を白黒させた。
「どちら様?」
「今日から入った新人」
「どうも、ジドっていいます。よろしくお願いします!」
「運搬部に入ったんですか?」と佐伯が怪訝な顔で尋ねた。「体力自慢でもなかなかキツイって聞きますけど」
するとジドは「心配ご無用!」と自分の胸を叩いた。
「前職も体使う仕事だったんで大丈夫です!」
「前職?」
「軍で働いていました! 下っ端ですけど!」
はきはきと──大きな声で──応える彼には実に好感が持てた。
「実際、勘はいいよ。慣れればすぐに主戦力になる」
大多喜がジドの背中を叩き彼をよろけさせる。
「それで、篠山たちに御山ダンジョンの説明を頼みたい。暇だろ?」
「失礼な」
そう言いながらも篠山は椅子を一つ取り出した。
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