こちら御山ダンジョン管理局です

サツキユキオ

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こちら御山ダンジョン管理局鑑定部生物部門調理班です

朝!

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 御山ダンジョン管理局鑑定部生物部門調理班の朝は早い。いや、業務開始が午前八時なのでそこまで早くはない。そこそこだ。
 調理班新人エルの初仕事はジャガイモの皮むきだった。今日使う分の野菜を朝のうちにすべて切っておく。籠いっぱいのジャガイモを数人で囲み、どんどん皮をむいていく。手が動けば口も動く。彼ら彼女らは慣れた手つきでどんどんジャガイモを丸裸にしていく。
「エルくんっていくつ?」
 新人へのお決まりの質問だ。エルは少しばかりの焦りを押し込めて「26です」と答えた。
「わっ! 鈴木と10歳違うんだ」
「でもあたしが先輩だよ。ね、エルくん!」
「はい、先輩!」
 彼のすぐ隣で笑顔を見せる小柄な少女は、年相応のあどけなさや可愛らしさを見せながらも皮むきの手つきは玄人のそれである。技術を盗んでやろう、と向上心の塊である彼の視線に気づいた彼女は包丁の持ち方から丁寧に教えてくれた。
「26っていうと、篠山ささやまさんと同世代?」
 そう言って首を捻るのは面長で細身の男、山本だ。しかし彼の発言に「え? 嘘でしょ?」「何言ってんの、もっと上よ」と女性陣、山田と吉田──エルはまだ彼女たちの区別がつかない──から反論が飛んでくる。
「篠山さん35とかでしょ」
「あれ? 意外とそんなもん?」
「若白髪だからね、あの人」
「案外若いんだよね」
「あの、篠山さんって?」
 エルは鈴木にだけ聞こえるように言った。何せ今日が初日の新人だ。まだまだ顔と名前が一致しない。真面目であるところのエルは早く職場に馴染もうと積極的であった。
「鉱石部門の人だよ! すっごく優しいの。よく食堂に来るからいたら教えてあげる!」
「すぐ分かるよ。いつも横にでかいの連れてるから」
「ああ、ひいらぎね」
 また知らない名前が出てきた。彼は臆することなく「柊さん?」と頭に疑問符を浮かべてみた。
 早くも籠の中が空っぽになる。山本が空になった籠と皮の剥かれたジャガイモを調理場に運んでいく。間を置かずに山田──もしくは吉田──が次の籠を運び入れる。まるで何事も無かったかのように会話も皮むきも進んでいく。
「保安部討伐部門の子だよ! 背が高くてね、髪の毛が赤くてきれいなんだよ」
「でもちょっと凶暴だからね。あんまり話しかけないようにしなさいよ、エルくん」
「エルくんなら大丈夫じゃない? 変なこと言わないでしょ」
 なるほど、「柊」という人物は少し気難しいらしい。しかも「保安部討伐部門」ならば腕っぷしには自信があるだろう。エルは冗談っぽく笑って「気をつけます」と言った。
「この前さ」戻ってきた山本が小声で、まるで内緒話でもするかのように言った。「ダンジョンの調査隊の人が柊にちょっかいかけたみたいで。それであいつったら怒って怒ってもう大変!」
「あれは調査隊の人が悪いじゃん。柊ちゃんに変なこと言うから」
 鈴木が頬を膨らませて山本から顔を背ける。彼は困ったように眉を下げた。「それはそうだけどさあ……」と助けを求めるように山田達に目を向ける。彼女らは肩をすくめた。
「相手がもちろん悪いけど柊もやり過ぎって話よ」
「柊がね、調査隊の連中をみんな、五人くらいだったかな、殴り倒して大暴れしたのよ」
「みんな鼻折れたり頬骨にヒビが入ってたって」
 彼女らはケラケラと笑う。「しかもさあ!」と山本が身を乗り出した。
「俺とか他の連中と一緒に止めに入ってその有り様だぜ? あいつ全然止まらなくて」
「あんた投げ飛ばされてたね。悪いけど笑っちゃったわ」
「知ってる。山田さんの笑い声が聞こえた。嬉しそうにゲラゲラ笑いやがって」
「それで篠山さんが止めに入ってやっと落ち着いたんだよね」
 篠山、先ほど聞いた名前だった。頭の中でなんとなく、若白髪の男が屈強な赤毛の男の腰を抱える姿を想像する。
「篠山も一度投げ飛ばされてたけど」
「あれも笑ったわ。きれいに吹っ飛ばされるもんだから」
「あたしも笑っちゃった……あ! 勘違いしないでね! 柊ちゃんって強いけど優しい子なんだから」
「優しいかあ?」
「優しいの!」
「元々男の人が怖いって話もあったからね。余計に男連中への当たりが強いのよ」
「だから軽々しく話しかけない方がいいぜ。俺なんて投げ飛ばされたんだから」
「あんたが『どのくらい強いの? 俺のこと倒せる?』なんて言うからでしょ」
「あたしもそれ見てました。自業自得でしょ」
「ぶん殴られなかっただけマシ」
なつめの教え子だから口も悪いっていうか、容赦がないというか」
「棗さんもね、保安部討伐部隊の人だよ。すっごく強いの」
 新たな三人目の登場だ。若白髪の篠山に赤毛の柊に強い棗、とエルは頭の中で復唱する。
「ああ、これで終わりだ」
 山本が最後のジャガイモを手に取る。鈴木たちはすでに剥き終えていて、エルは若干の焦りと共にジャガイモと格闘する。
「エルくん上手だよ。料理する人だね」
 鈴木が励ますように笑った。彼女は人をやる気にさせるのが上手い。
 彼女らに見守られつつようやく剥き終わると続いて食堂の掃除だ。外を掃いてから中のテーブルを拭き、最後に床を掃除する。
 ここまで終わるとちょうど食堂の開店時間となる午前10時だ。鈴木が小さな黒板を取り出した。
「これが最後の仕事。お昼のメニューを書くの」
 御山ダンジョンの食堂では基本的に昼も夜も定食が二種類しかなく、内容もその日の入荷状況によって変わる。
「今日は確か鯖のカレー炒めと──」
「梅じそささ身のカツ! A定食が魚介系で、B定食がお肉系って決まってるの」
 黒板を入り口に立てれば準備は完了だ。次は厨房で皿洗いか、と思えば鈴木は休憩室に向かった。そこにはすでに山本らがくつろいでいる。
「次の仕事は何をすればいいですか?」
 エルがそう尋ねれば「あとは11時までちょっと休憩!」と鈴木が元気よく答える。
「開いたばっかりだと別に仕事もないからね」
「忙しくなるのは11時からよ、11時!」
 休憩、と言いつつも鈴木と山本は袋に何かを詰め込んでいた。それはサンドイッチのパックであった。
「これはね保安部の人たちのお弁当だよ。なかなか持ち場離れられないから特別に作って配達してるんだ。今日はあたしが配達の当番なの」
「折角だしエルくんに配達やってもらえば?」
 山本が冗談めかして言った。しかしエルは「はい、やらせてください!」と元気よく答えた。鈴木は「そんな、ダメだよ!」と慌てふためき、あとの三人は「やる気があるね~」と笑った。
「初日だし疲れてるでしょ。休んでていいよ」
御山ダンジョンここのことを早く覚えたいので、是非やらせてください!」
「やらせてあげなよ。保安部までは別に迷う道でもないし」
 すると鈴木は、実に申し訳なさそうに彼に袋を手渡した。なかなかの量が入っているようで決して軽いとは言えない。保安部までは一本道であり、確かに迷うことは無さそうだ。配達の後に少し周りを見てまわりたい、と申し出れば快く受け入れられた。
「では、行って参ります」
 エルは爽やかな笑顔でそう言うと保安部へ向かって歩き出した。
 彼の歩みに迷いはない。何せ頭の中に地図がしっかりと入っているのだから。
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