こちら御山ダンジョン管理局です

サツキユキオ

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こちら御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門です

お疲れさま

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 全ての鑑定が終わったころにはとっくに日付が変わっていた。今日は一日食いっぱぐれたな、と篠山はため息をついた。実に目まぐるしい一日だった。
 ダンジョンを管理する上で切っても切り離せないもの、それが密猟や盗掘をするならず者の存在だ。どこのダンジョンでもそうだが、ダンジョンならびに周辺の管理区域に入るには書類の提出が必要になる。またダンジョン内の動植物・鉱石類の無断採集は当然禁止されていた。しかしそれらの決まりを守らず勝手に侵入する輩がいる。特に御山ダンジョンは比較的危険性が低く、またダンジョンへの出入りもしやすいため違反者があとを絶たない。対策として管理局保安部監視部門に力を入れているはずだが──依然として侵入者の数は少なくならない。
「信じられない……この量だとダンジョンの鉱石ほとんど残ってないんじゃないですか?」
 机に顔を突っ伏したまま佐伯が言う。「そうかも」と答えて篠山は大きなあくびをした。
 今回の盗掘品が尋常じゃなく多かったのだ。彼らは数日に渡りダンジョンに潜っていたのだろう、午前中に鑑定した調査隊のものと匹敵する量の鉱石を掘り出していたのだ。よくもまあここまで見つからずに盗掘できたものだと、篠山は呆れ交じりに彼らを称賛した。
「すみませーん。調理班の鈴木ですけれども!」
 幻聴かと思うような、鈴を転がすような可愛らしい声が扉の向こうから届く。篠山は疲労と空腹でよろめきながらも入り口を開けた。
「鈴木ちゃん、こんばんは。こんな時間にどうしたの?」
 鈴木はひどく小柄な女の子だった。背が篠山の胸のあたりまでしかないため、彼はいつも目線を下げてから話しかける。しかし篠山は正面を──なんなら少し顔を上げ──鈴木の隣を見たまま目を瞬く。
「お疲れ様です、篠山さん!」
「こんばんは、初めまして」
 いつも通り小柄な彼女の隣には、すらりと背の高い青年が立っていた。柔和な笑みを浮かべた顔からは上品さがにじみ出ている。栗色の髪を一つにまとめており清潔感がある。どこを見ても好感の持てる青年だった。ダンジョンで働く中ではそうそう見ることのない、あふれ出る気品のあるオーラに圧倒されてしまい篠山は「どちら様?」と目を白黒させた。
「本日より調理班で働いています、エルと申します」
「私の後輩だよ!」
 鈴木がえへんっ、と胸を張る。彼女はここで働き始めて長いので「後輩」はそれなりにいる。如何せん見た目も中身も小動物のような可愛らしさが勝り「先輩の威厳」というものが瞬く間に消えてしまうのだ。今回はそれはいつまで持つだろうか、と篠山は思わず二人を見比べてしまった。
「今日の密猟者騒動で手に入ったマジックベアのお肉をお裾分けに来ました!」
 彼女が小さな包みを三つ差し出す。篠山、佐伯、狭田の分らしかった。
「これは嬉しい! 助かるなあ。ありがとう、鈴木ちゃん」
「ほんのちょっとだけどね。切れ端をぱぱっと燻製にしたやつです。今日中に食べちゃってね。すぐに傷むから!」
「ありゃりゃ。狭田ちゃん帰っちゃったわ。佐伯ちゃんはいるけど」
「じゃあサエちゃんと二人で分けちゃってください。明日になると臭みがでちゃう」
 包みは三つ。しかし現在事務所にいるのは篠山と佐伯だけだった。狭田はすでに帰宅させていたのだ。想定外の残業を強いられたのは三人とも同じであるが、狭田には帰宅を待つ家族がいる。あまり心配させてはいけないと、作業が落ち着いたところで篠山と佐伯の二人がかりで追い出したのだ。
「優しい二人へのご褒美ですね!」と鈴木が言うものだから、なんて優しいことを言ってくれるのだろうと篠山は彼女の頭を撫でてやりたい衝動に駆られた。しかしさすがに自重して「ありがとうね」と言うに止めた。
「もしかして、マジックベアの処理のアレコレでこの時間まで残業?」
「そうなの! エルくんなんて初日だったのに」
 マジックベアに限らず魔物の肉は食べられるようになるまで様々な処理が必要となる。「あたしたち昼シフトだったのにね」と鈴木が頬を膨らませた。
「マジックベアだったからすっごく大きなお肉が届いちゃって。料理担当とか魔術担当の人たちはみんなそっちにかかりっきりになるから、そうすると夜の食堂が人手不足でしょ? だからあたしたちも駆り出されたんです」
 篠山は思わず「ひぇ~」と悲鳴を上げた。食事時の食堂などはたから見ているだけでも戦場のような忙しさだというのに、それに慣れる間もなくイレギュラー対応にも駆り出された訳である。「大変だったね!」と万感の思いを込めて彼の肩を叩いた。ところが当の新人エルはにこやかに笑って「いやあ、すごく楽しかったです」と言ってのけた。
「マジックベアの処理なんて、なかなか見る機会ないですからね。すごく新鮮で勉強になりました。今度は実際に作業に参加したいって鈴木先輩にお願いしているんです」
「エルくんすごいんですよ。あんな忙しいの見ていながらこんなこと言うんですもん」
「肝が据わってるなあ」
 エルは照れたように笑った。最初に感じた気品はどこへやら、こうしていると天然でのんびりとしたごく普通の青年だ。
「料理好きなので」
「そういう次元の話じゃないですよ、あの大騒ぎは」
 調理班歴の長い鈴木がげんなりと疲れ切っている。今日は相当に忙しかったらしい。篠山は二人の肩を軽く叩いて「今日はゆっくり休んでね」と精一杯の労いの言葉を贈った。
 帰宅する彼らを見送って事務所に戻れば寝息が聞こえる。佐伯だ。机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。彼女にはよくあることで、きっとすぐに起きるだろう。
 眠っている間に篠山は晩餐の準備をする。メニューは調理班謹製のマジックベアの燻製といつから冷蔵庫に入っているか分からないビール。仕事終わりにはこの上ないごちそうだ。適当なグラスを二つ用意して、その内の一つに早速金色のそれを注ぐ。
 まずは一口、ビールを飲む。鼻に抜ける香り、舌で踊る苦み、喉を通る冷たさが心地よい。グラスが一気に空になる。ぷはーっと彼は大きく息を吐いた。すぐにピールを継ぎ足す。しかし、まだ飲まない。この後に主役が待っているのだから。
 続いて包みを丁寧に開く。中から出てきたのは赤身と白い脂身のコントラストが美しい熊肉の燻製だ。その小さな切れ端の一つを彼は口に入れた。強烈な胡椒の辛さ。それを感じながら噛む。噛み締める。すると油の甘さが口に広がり、胡椒の辛さに馴染んでいく。そこへすかさずビールを流し込む。
「……はあ」
 篠山は天井を見上げた。
「……最高」
 終わりよければすべて良し。篠山は今日という一日に感謝した。


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