雨の向こう側

サツキユキオ

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2日目

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 佑月は2日目の朝食にいくらか楽な気持ちで臨むことができた。オートミールはなるべく食べないように、他の食事でお腹を膨らませる。自分の健康が第一。揺らぎかけていた当然の原理であったが、他人に言われることで説得力が増すものである。
「カメちゃん、それだけ?」
 トレーを覗き込んできたのは『あーちゃん』だった。佑月は彼女のことが苦手であった。彼女はすでに三人の中でリーダー的ポジションにいた。自分の言葉こそ正しいのだと信じて疑わないタイプであった。1日にも満たない時間一緒にいただけであるが、佑月ははっきりとあーちゃんへ苦手意識を自覚していた。しかし嫌悪感を決して表に出さないようにと言葉少なに「そうだよ」とだけ返す。
「っていうかおかずばっかりじゃん。見かけによらず結構食べるタイプ? これから食事の量減らしていかなきゃいけないのにそんなんで大丈夫なの?」
 佑月の返事を聞いて引くような人間ならば彼女も嫌いにならないのである。あーちゃんはこちらに身を乗り出したまま流れるように言葉──佑月にとっては罵倒の数々──を紡いでいく。佑月は曖昧な返事をしてどうにかやり過ごす。
 自意識過剰かもしれないが、佑月があーちゃんのことを苦手だと思っているように彼女もまた佑月のことが嫌いなようだった。これは第一印象から互いに抱いていたものであり、初日からいくつかの会話を経ても印象は好転しなかった。つまり彼らは相容れない存在なのである。佑月にとってすぐに相手を支配しようと言葉で攻め立ててくる彼女は天敵であり、またあーちゃんにとっても思い通りにならない佑月の存在は目障りだろう。
 互いに相性が良くないと自覚していながら、あーちゃんはそれでもなお彼女を支配しようと躍起になっているようだった。『きーちゃん』と『ミンミン』をすでに味方につけているというのも大きいのだろう。ここでの佑月は孤立無援状態であった。
「カメちゃん、おはよう」
 後ろから声をかけてきたのはスバルだった。続いてやってきた『ムーさん』と『ノゼ』とも挨拶を交わす。「ムーさん」は小太りの男だった。年は同じくらいで、彼もまたスバルに負けず劣らず人の良さそうな男だった。一方で「ノゼ」はこのプログラムには似つかわしくないような男だった。精悍な顔つきにほどよく引き締まった体、ヨガというよりもキックボクシングの方が似合うような男だった。さらに言えばヨガの間もやる気があまりないようだった。ただ佑月がそういった印象を受けただけで、彼にも人に言えないような悩みを抱えているのかもしれない。そう思いなおしそれ以上深く考えないことにした。
 彼らの来訪により彼女たちの会話は途切れた。助かった、と佑月はそっとあーちゃんから距離を取った。あーちゃんはすぐにスバルに興味を移した。誰にでも隔てなく笑顔を振りまく彼は女性メンバーの中でも話題の人物だった。あーちゃんは彼のこともまた支配下に入れたいようだった。佑月は彼女の浅ましい願望を冷ややかな目で見つめていた。
 あーちゃんが離れた隙に彼女はそっとスバルに近づいた。
「スバルさん、昨日はありがとうございました」
「いいよ。僕も共犯ができてうれしいから」
 彼らは小声で、言葉少なに昨夜の悪事を振り返る。秘密の共有というのは実に甘美なものであった。すでに楽しさを見失っている断食プログラムであったが、彼がいるだけで気持ちが晴れるのを感じた。
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