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第七章:騎士・小隊長・前編
第3話 初任務
帝国騎士として最初に与えられた任務は、帝都上層区――貴族邸と官庁が並ぶ静謐な街路の巡回だった。
夜の街頭に照らされた装飾過多の建造物は影を深く落とし、歩く者を品定めするように石畳に沈黙を落としている。
任務そのものは単純だ。決められた区画を巡り、不審者がいないかを確かめる。
ただし、〈情報局〉の指示では、この区画には公国系の間者が入り込んでいる可能性が高いとされた。だから、一挙手一投足にも気を抜くことはできない。
街路を進むと、すれ違う貴族の視線が、冷たい水滴のように鎧の上へ落ちてくる――貧民街上がりの若造が騎士の紋章をつけて歩くなど。
声に出さずとも、表情に滲んだ侮蔑は充分伝わった。
ある夫人らしき女性は、すれ違う直前にわざわざ扇を口元へ寄せ、鋭い目付きでこちらを射抜いた。
正式な騎士になっても、市民上がりの人間が歓迎されることはない。
けれど、これが帝都だ。貴族社会の中心であり、同時に陰謀がもっとも濃く渦巻く場所でもある。
足音を立てて進むたび、鎧の継ぎ目が低く鳴り、警備隊が区画を巡るという昔ながらの律儀な存在証明をくり返す。
視界の端で、影が動いた。ただの使用人か。それとも、潜伏中の間者か。気配を読む。歩幅、視線、呼吸のわずかな揺れ――異常なし。
こちらを気にするでもなく、ただ黙々と荷を抱えて路地奥に消えた。それほど意味のある仕事ではないが、初任務だからなのか、緊張しているのが分かった。
巡回路の終端に差し掛かった頃、ふと脳裏に国境線の風景がよみがえった。軍報では〝小規模衝突〟と控えめに記されていたが、その実、斥候の戦死者は増えつつある。
砦の補給線も圧迫が強くなり、連邦の商隊が不自然なまでに国境付近へ流入しているという報告もあった。
戦いは、まだ正式には始まっていない。だが、火種はそこで燻りつづけていた。些細なキッカケで、本格的な戦争になりかねない。
もし帝国が内部崩壊していたなら……公国の策謀は、帝都の式典で暴いたあの一件だけではなかったはずだ。最悪の未来を知っているのは、自分だけ。
〈公国〉と〈商業連邦〉を相手にした二正面作戦は苛烈を極まり、多くの兵士が命をなくした。その未来を変えた実感は、まだ輪郭が曖昧なままだ。
巡回路の最後の角を曲がると、上層区を見下ろす監視塔が見えた。塔の上では別班の騎士が周囲を警戒している。
街頭に照らされた鎧が白く光り、緊張の色を隠そうともしない。帝国全体にただよう張りつめた空気が、形となってそこに佇んでいた。
――戦いは避けられない。だが、かつてのように帝国が内部から崩れ落ちる未来だけは、もう来ない。
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