イクリール・サーガ 第一部【短剣の謎と愛の残響】

アルフライラ

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2章 束の間のモラトリアム

13話 神に選ばれる訓練

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聖ガイア歴300年 風竜の月 15日
中央都市アウロラ 教皇直轄領
士官学校 修練場

 風が木々の葉を散らす季節となった。伝説では、風竜の息吹が世界を包み、不浄なモノを打ち払うのだそうだ。

 修練場は天井が空いているため、その風竜の息吹が吹き抜ける。
 ライオットとデネボラは寒さで震えていた。
 スピカ、ラッツは平然な顔をしており、涼しそうな顔さえしていた。

「さて、今日は奇蹟についての実践となる」
 担当のオクシデンスは大仰に告げる。
 元々は騎士団勤めだったらしいが、膝に矢を受けて以来、士官学校で教鞭をとっているそうだ。
 騎士らしく、がっしりした体格を持つ。

「ギルタブ。奇蹟について知っていることをいってみろ」

「……武器に付与し、敵を討つのに役立ちます」
 ギルタブはラッツにも並ぶ偉丈夫の少年。

「……士官学校に通う以上は間違いだな。バーナード、言ってみろ」
 座学に関連した話題になると、バーナードが講師陣に頼りにされている。
 

「はい、聖下など天啓を聴くことが出来る聖者が、神の御業を起こすことです。一般的には、武器を聖別することで、神の御業を戦いで使用できるものです」
 バーナードは少しだけ得意げに答える。
 大半の士官候補生はがたがたと震え、恨みがましい目つき。

「正解だ。では実践に移る」

 そう言うと、オクシデンスは手に持っている聖剣を力強く握り、祈りを込めた。
 すると、刃の部分が赤光を放ち始めた。

 士官候補生達は目を輝かせた。ライオットも例外ではない。
 特に女学生は嬉しそうにしており、デネボラも安堵の表情を浮かべていた。
 
 周囲の気温が上がったからだ。

 オクシデンスは、どっしりと構え、右袈裟切りを修練用の案山子に放つ。
「ぬんッ!」
--見事な剣線に生徒が目を見張る
 ライオットは、案山子が剣を受ける前に両断されていた。

「これが奇蹟だ。聖別された武器に力と祈りを込める。すると、武器は答えてくれる。また、奇蹟を授けた神の聖痕がある者は、必ず出来る」
 オクシデンスは得意気な顔で、右手の聖痕を見せた。
 神マルスを象徴する、紅き星と大剣のシンボルだった。

「清廉なるこの私の心と身体をマルス様が認め、賜ったものだ……よくよく見ておきなさい」
 オクシデンスは自慢げに見せつけてくる。
 デネボラが「自慢が長いわ」と呟いたのを、ライオットは聞いていた。

「先生、質問が」
 ガーネットが姿勢良く、手を挙げる。

「あぁ、何でも聞くと良い」

「奇蹟の説明であれば、この寒空で無くともいいのではないでしょうか。後、鎧を着る必要が無い気がしています。なにより、寒くて寒くて……」

「良い事を聞いてくれた。それが本題だ」
 オクシデンスはニヤリと笑う。

「主神様は『火と戦いの神』であらせられる。火の奇蹟を与え、戦いを好まれるのだ。そこで問おう。戦いを奉じるためには、何が必要だ? ガーネット嬢」

「えっと……敵を良く知ることですか?」
 ガーネットはおずおずと答える。
 バーナードは微かにうなずいていた。

「それも必要だ。しかし、最も必要なのは限界を超えて磨き抜かれた技、何にも屈しない屈強なる精神、そして……」
「そして?」
 ガーネットは思わず、聞き返してしまう。
 彼女はきっと、良き反応を示すのだろう……とライオットは思った。

「鋼と見紛う程に鍛え上げた己の肉体だ。さぁ! 修練場を50周! その後は奇蹟が起こせるように剣の修練と祈願を行うのだッ!! 返事は!?」
「「はい!」」

 皆、圧に怯み、すごすごと修練場を周回しだした。
 鎧が擦れる音がガチャガチャと鳴り響く。
 合間にオクシデンスが「祈りながら走れッ!」だの「もっと足を上げろッ!」と怒鳴りつけてくる。

 デネボラが小声で「なんて面倒くさい」と嫌そうに言っていた。
 ラッツ、スピカ、ギルタブは先頭を走っていた。
 ライオットが感心していると、スピカがスピードを落とし、隣に並んできた。

「ほら、アンタら手を抜いているでしょ? 走った走った」
「やめろ」
「やめなさい、筋肉女」

 ライオットとデネボラは、彼女の優等生然とした横暴に抗議する。

「四の五の言わず! ほらほら」
 彼女は、ライオットとデネボラをバシバシと背中を叩き、急かしてくる。
 オクシデンスに目を付けられたくないお思った二人は渋々、走る速度を上げた。

---

「ぬぅ」
「ふぬぬ」
「…………」
 周回、剣戟を終え、奇蹟を起こす修練の時間となった。

 先頭で走っていた学生以外は、肩で息をしており、形だけの祈願となっていた。
 まともなのは、ラッツ、スピカ、ギルタブのみだ。

「よし、ラッツよ。祈願してみよ」
 オクシデンスはラッツに聖剣を渡し、告げる。

「おう」
 ラッツは聖剣を握りこみ、目をつぶった。
 その後頭部をオクシデンスは叩く。
「あだッ!」

「敵と戦う時に、目をつぶる馬鹿がどこにおるのだッ! 剣を強く握りこんで祈りを響かせ、マルス様に戦いを捧げると誓うのだ」
「こうか?」
 ラッツはさらに力強く握りこみ、頭の中で異教徒と戦う姿をイメージした。

 すると、聖剣が僅かに赤光を放つ。
「おお……」

「いいぞ! 次はスピカ」
「はい」
 スピカも同じく聖剣を握りこみ、祈りを捧げた。
 ラッツより淡い赤光が灯った。


「あの……先生、なんで力強く握り込むのですか? 私、握力弱いから無理です……」
「聖別武器は、その神の御手足だッ! 故に響く様に握らんと大いなる神は気づかんッ! 泣き言を言うお前はこれで鍛えろッ! それが出来ねば貴様は最低点だッ!!」
「ひぃ……ん? 果物?」
 そう言って、ガーネットは赤い果物--悪夢の果実を渡された。

「これを握り潰せるように、これから毎日、握りしめろッ!」
「ふぬぬぬぬ……だめ、硬い」
 彼女のきっと最低点だ……と周りは皆、悲哀の目を向けた。

---

 ライオットは講義を終え、疲れた身体で食堂に向かった。

 結局、聖剣に赤光を灯せたのは、ギルタブ、ラッツ、スピカ、バーナードだけだった。
 握力と信仰心が、赤光を起こすための鍵となるようだ。

 ライオットは、灯せる気がしなかった。
 彼はそれを「当然だ」と思い、実技での不足を嘆くことは無かった。
 武器は別に準備すればいいのだから。

 ただ、真面目な彼にとって、講義での成績が低くつくことのみ、憂鬱だった。
「私もムリね」
「ん?」

「……なんでもないわ」
 デネボラは呟いた後、そっぽを向いた。

「この件は、やはり彼女と話すべきだろうか」とライオットは考えた。
 ライオットは友人のみならず、仲間も欲しいのだ。


――安心して国に弓引く話が出来る同志が、欲しい


「あなたたちは、やる気が無いッ!」
「おう。そうだぞ」

「頑強なる肉体に清廉なる精神! 今日から私の日課に2人とも付き合いなさい!」
「やだ」
 デネボラは咄嗟に反応した。ライオットも同じ気持ちだった。

「やるったらやる!」
 スピカは勢い良く迫る。

 結局、折衷案として、3日に1回は日課のトレーニングに付き合うことで決着した。
 最初は嫌々だったが、彼女の強引さで士官学校の生活が豊かになった。
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