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2章 束の間のモラトリアム
16話 聖獣
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聖ガイア歴300年 電竜の月 3日
中央都市アウロラ ウルスラ領
宿場町ミクラ=アクトス
四人は、最初に定めた最終区画の中ほどまで踏破した。
陣形は当初と同じ。
前衛はギルタブとスピカ、
中衛にバーナード、
後衛にライオットが控える。
ライオットは当初よりも前に出ており、バーナードをいつでも庇えるようにしている。
「陽も落ちてきましたね……踏破したら、早く帰りましょう。後ちょっとなので、頑張りましょうッ!! いててて……」
バーナードが気丈に告げる。
隊員は疲労が溜まってきているため、現状では鼓舞は必要な行為であるとライオットは思った。
「……あれは」
「しっ! 隠れるわよ」
スピカ、ギルタブの視線の先には、先ほどの角熊より2周りは大きい角熊がいた。
その角熊の観察を続けていると、
「宝石が無い?」
「あれだと、倒せるか分からないわね……」
バーナードは二人に追いついた後、ライオットへ警戒のハンドサインを出した。
ライオットは様子のおかしさに気づき、聖別矢を準備している。
「危険すぎる、ゾハル様を呼ぼう」
「そうね」
バーナードは木陰からライオットに対して「ゾハルを呼べ」のハンドサインを出した。
ライオットは後方を見渡すが、ゾハルが居ないことに気づいた。
三人に追いつき、そのことを説明すると「なんで居ないのよッ!」とスピカが静かに憤慨する。
「どうしようか…」
バーナードが木陰から角熊を見ながら、呟く。
「……まだ、気づかれていないし、撤退後、通報だな。まずは撤退しよう」
「そうね」
「そうだな」
「……そうしよっか」
ライオットの提案は賛同が得られた。
バーナード隊が視線を角熊に向けたまま、後退を始めた。
すると、
「グオオオオオオォッ!!」
「なんでッ!?」
角熊が首だけで振り向き、バーナード隊の姿を捉えた。
生理的嫌悪を催す、あり得ない動きだ。
角熊の目は赤く煌々と輝いており、隊員は背中に冷たい感触を覚えた。
--ライオットは焦燥感を殺し、構え動作を丁寧に行った
--右手の力を緩め、聖別矢を放つ
--聖別矢は、角熊の頸元に命中
「グオオオオオオォッ!! グオオオオオオォッ!!」
「ダメだッ! 逃げるぞッ!」
角熊は先ほどの個体よりも大きく、その分、筋肉の装甲も分厚い。
そのため、致命傷には届かず、角熊は痛みに怯みながらも向かってきた。
勢いは凄まじく、眼前にある木々をへし折り、迫りくる。
「速いッ!」
「太い木に登れッ!!」
角熊の速度は見た目の印象と異なり、かなり素早い。
バーナードは角熊の息遣いをすぐ後ろに感じている。
唸り声と共に、讃美歌の様な聖なる響きが不意に彼の耳に届いた気がした……が、それは風切り音であると捨て置いた。
「グオオオオオオォッ!!」
負傷したため、足の遅い彼が角熊の鈎爪に捕らわれそうな、その時だった。
「遅れて済まないッ!」
「ゾハル様ッ!!」
ーーゾハルが大剣を上から叩きつけた
ーーブツッと肉が切れ、
ーー角熊の左手が切り落とされた
「グォッ!」
角熊は身体の欠損に怯んだ。
「はぁッ!」
ーー鋭く大剣を持ち上げ、もう一度振りおろした
ーー鈍い風切り音が響き、鋼が頸に吸い込まれ
ーー角熊の頸を切り落とした
あの恐ろしい化け物の頸と身体がそれぞれ、灰になって消えてゆく。
角熊は灰の山になった。
「助かった……」
「はぁ……」
「…………死ぬかと思った」
「…………」
バーナード隊は皆、その場に座り込み、安堵を嚙み締めた。
ゾハルはブォンッと大剣から灰を拭い、背中の鞘に戻す。
「ゾハルさん、俺の後ろに居ませんでしたよね。どこにいたんですか?」
ライオットは徐に立ち上がると、ゾハルを下から上へとゆっくり睨みつけ、言い放つ。
すると、ゾハルの身体に不自然な泥が付いていることに気付いた。
「済まぬ……後方より、私を狙ってきた魔獣がいたので、それを討滅していたのだ。数が多く、手間取ってしまった。灰が風に舞ってしまってな……残りはこれくらいだ」
「……」
ゾハルはそう言って、灰を見せて来た。
準備の良さにライオットは不信感を覚え、追及しようとするも、
「ゾハル様。そんな中、助けて頂きありがとうございますッ! 見事な2連撃でしたッ! その大剣は何の加護を受けておられるので?」
「……うむ、これは『土と死の神サターン』の加護を受けておる」
そう言って、ゾハルは背中の大剣を指さした。
大剣は先ほど、黄土色に光っているように見えた。
「へぇ! 確かまだ主神の庇護を受けていない、異端の神ですよね?」
「あぁそうだ……おかげで、ダイモス殿から苦言をいつも言われてな……」
「……」
彼を追及する機会を逸してしまったが「ゾハルは何かを隠している」とライオットは確信した。
ゾハルは咳払いをし、言葉をつづけた。
「そなたらが対峙し、我が剣にて滅したアレは『聖獣』と我々が呼んでいるものだ。聖者の血を取り込み、強靭な肉体を手に入れた存在だ」
「なんで聖獣って呼ばれているのですか?」
バーナードは腕の痛みを忘れたように、楽し気に質問した。
「それはな。もう少し、聖者の血を取り込むと福音が与えられるからだ。つまり、神聖な存在に近いのだ」
「なるほど。勉強になりますッ!」
バーナードはどこからか、紙片の束を取り出し、その旨を記述した。『聖獣』の呼び名は、十字軍が現場で読んでいる名前なので、書物等には記載が無かった。
「もし、産まれたての魔獣に教皇陛下の血を与えれば、すぐにでも灰になるがな。この辺りは文献と同じだ」
「それは……試されたのですか?」
「あぁそうだ。教皇陛下は現場にしばしば出られる。私としては良い迷惑だがな」
「ははは……それは大変ですね」
宿場町への帰り道、はしゃぐバーナードとそれに応対するゾハルを尻目にライオットは一言も話さなかった。
---
宿場町から中央都市へは、明日の朝に出発する予定である。
宿にて慰労会を終えた後、ライオットは自室で考え込んでいた。
独りでは考えがまとまらないと思い、スピカの部屋を訪ねた。
「なぁ、スピカ起きているか?」
「……あによ」
「ごめん、起こした?」
「起こされた。けど、いいわ。何?」
スピカは眠い目を擦りながら、部屋から出て来た。
寝間着姿、いつものお下げは解かれ、髪は下ろされていた。
お嬢様然とした姿に、ゾハルの件で乱れた感情ながらも、ライオットはドキっとした。
「……外で話さないか? 宿だとちょっと」
「……分かったわ。待っていなさい」
スピカはライオットの剣呑な雰囲気を感じ、求めに応じた。
そう言って、スピカは着替えるために部屋に戻った。
---
『宿場町ミクラ=アクトス』の傍に位置する川には、ベンチがあった。
釣り人のためか、逢瀬を楽しむ男女のためか、準備された経緯は町役場の台帳にも記述は無い。
満点の星空の下、ライオットとスピカは、そのベンチに並んで座っている。
「単刀直入に言うけど、ゾハル……怪しくないか」
「確かに、助けに来てくれたのは遅かったけど……何が引っかかるの?」
スピカは真っすぐにライオットの瞳を見つめた。
彼女はその性根も相まってか、真っすぐな言葉を好むことを、ライオットはよく知っている。
「気になる点が二つある。一つ目は魔獣の灰を持ち歩いていた点、二つ目は泥で汚れていた点」
「なんで気になるの?」
「単純に灰を持ち歩くメリットが無い。言い訳の為に準備したとしか思えない。それに……」
「それに?」
「ゾハルは俺らの後方にいたろ? ってことは、そこには俺らが討滅した角熊の死体があるはず。1体は聖別矢で刺していないから、死体が残っているはず」
「なるほどね……てことは、死体を聖剣で切って灰を準備した可能性があるわけね」
スピカは得心が言ったようで、手を打った。
「そうだ。帰り道は、行きの道と違ったから、死体の確認もしていない。だから、断定できないが……」
「そう言われると、あの匂いも俄然、怪しく思えて来た……」
「匂い?」
スピカが顎に指をあて、考え込む。
ライオットは眉間に皺をよせて、記憶を辿るも匂いに関する違和感は思いつかなかった。
「あーとりあえず、ライオットの二点目について、詳しく聞きたいわ。移動していたら泥なんて普通に着くから、別に気にしなくてもよくない?」
「いーや、汚れるとしたら普通は腰から下だけだ。でもゾハルさんは、胸のあたりに泥が付いていた。うつ伏せで転ばない限りそんな泥の付き方はしにくいと思う。聖獣を倒した時もあの人の腰から上には泥1つ被らなかった……あの人が転ぶところ、想像できるか?」
「……無理やり想像したら、なんか間抜けなことになっているわ。私の想像上のゾハルさん」
スピカは顔中が泥まみれで「面目ない」と言っているゾハルを想像していた。
「なんだよソレ……ふふ。じゃなくて、次はスピカの言っていた匂いについて教えて」
「えっとね……女の匂いがしたの」
「女?」
「そう、女。きつめの香水の残り香が微かにしたわ」
「俺は全然分からなかったぞ……」
「男はそんなもんね。でも、確信を持って女だと言えるわ」
スピカは静かに、かつ、力強く言った。
「勘か?」
「勘よ。でも、私の勘は外れた事がないわ」
「なるほど……でも、なんでまた。今朝はしなかった匂いだろ?」
「そうよ。でも、初めて会った時は、少ししていたわ」
スピカの言う会った時とは、昨日の士官学校でのことだ。
「じゃあ……どっかで女と会っていたとして、なんで会ったのだろうか」
「それが分かれば、苦労はしないわね……」
「そうだな……」
二人を沈黙が包み込む。
違和感のすり合わせが終わりを迎えた。
「……悩んでいても、今はしょうがないし、寝ましょ?」
「そうだな。スピカありがとう」
「いいわよ。私も気にしておくわ」
「わかった」
ーーその時、後ろから視線を感じた
ーー二人は咄嗟に振り返った
「なぁ」
「ええ、そこの草むらね」
二人が視線を感じた先には、草むらがある。
落ちていた棒切れを持って身構えながら除くと、そこには誰も居なかった。
「……確かに視線は感じたよね」
「……あぁ、そのはずだ」
代わりに掘り返した様な穴があった。
「これ、土竜が掘った後に似ているわね……にしては、ちょっと大きいけど」
「土竜の魔獣とか?」
「分からないわ。魔獣の生態は完全には掌握していないもの……ん? でもこの穴から女の匂いがするような……」
「……気になるけどもう遅いし、とりあえず、街の人に報告して寝よっか」
「……そうね、凄く疲れたわ」
「俺も……はぁ……」
その後、不思議な穴の事を町の責任者に告げ、二人は就寝した。
責任者は、夜更けにも関わらずにこやかに対応してくれた。
ライオットとスピカは何かを勘違いされたようで釈然としないながらも、床に着いた。
その日、ライオットはよく眠れた。
中央都市アウロラ ウルスラ領
宿場町ミクラ=アクトス
四人は、最初に定めた最終区画の中ほどまで踏破した。
陣形は当初と同じ。
前衛はギルタブとスピカ、
中衛にバーナード、
後衛にライオットが控える。
ライオットは当初よりも前に出ており、バーナードをいつでも庇えるようにしている。
「陽も落ちてきましたね……踏破したら、早く帰りましょう。後ちょっとなので、頑張りましょうッ!! いててて……」
バーナードが気丈に告げる。
隊員は疲労が溜まってきているため、現状では鼓舞は必要な行為であるとライオットは思った。
「……あれは」
「しっ! 隠れるわよ」
スピカ、ギルタブの視線の先には、先ほどの角熊より2周りは大きい角熊がいた。
その角熊の観察を続けていると、
「宝石が無い?」
「あれだと、倒せるか分からないわね……」
バーナードは二人に追いついた後、ライオットへ警戒のハンドサインを出した。
ライオットは様子のおかしさに気づき、聖別矢を準備している。
「危険すぎる、ゾハル様を呼ぼう」
「そうね」
バーナードは木陰からライオットに対して「ゾハルを呼べ」のハンドサインを出した。
ライオットは後方を見渡すが、ゾハルが居ないことに気づいた。
三人に追いつき、そのことを説明すると「なんで居ないのよッ!」とスピカが静かに憤慨する。
「どうしようか…」
バーナードが木陰から角熊を見ながら、呟く。
「……まだ、気づかれていないし、撤退後、通報だな。まずは撤退しよう」
「そうね」
「そうだな」
「……そうしよっか」
ライオットの提案は賛同が得られた。
バーナード隊が視線を角熊に向けたまま、後退を始めた。
すると、
「グオオオオオオォッ!!」
「なんでッ!?」
角熊が首だけで振り向き、バーナード隊の姿を捉えた。
生理的嫌悪を催す、あり得ない動きだ。
角熊の目は赤く煌々と輝いており、隊員は背中に冷たい感触を覚えた。
--ライオットは焦燥感を殺し、構え動作を丁寧に行った
--右手の力を緩め、聖別矢を放つ
--聖別矢は、角熊の頸元に命中
「グオオオオオオォッ!! グオオオオオオォッ!!」
「ダメだッ! 逃げるぞッ!」
角熊は先ほどの個体よりも大きく、その分、筋肉の装甲も分厚い。
そのため、致命傷には届かず、角熊は痛みに怯みながらも向かってきた。
勢いは凄まじく、眼前にある木々をへし折り、迫りくる。
「速いッ!」
「太い木に登れッ!!」
角熊の速度は見た目の印象と異なり、かなり素早い。
バーナードは角熊の息遣いをすぐ後ろに感じている。
唸り声と共に、讃美歌の様な聖なる響きが不意に彼の耳に届いた気がした……が、それは風切り音であると捨て置いた。
「グオオオオオオォッ!!」
負傷したため、足の遅い彼が角熊の鈎爪に捕らわれそうな、その時だった。
「遅れて済まないッ!」
「ゾハル様ッ!!」
ーーゾハルが大剣を上から叩きつけた
ーーブツッと肉が切れ、
ーー角熊の左手が切り落とされた
「グォッ!」
角熊は身体の欠損に怯んだ。
「はぁッ!」
ーー鋭く大剣を持ち上げ、もう一度振りおろした
ーー鈍い風切り音が響き、鋼が頸に吸い込まれ
ーー角熊の頸を切り落とした
あの恐ろしい化け物の頸と身体がそれぞれ、灰になって消えてゆく。
角熊は灰の山になった。
「助かった……」
「はぁ……」
「…………死ぬかと思った」
「…………」
バーナード隊は皆、その場に座り込み、安堵を嚙み締めた。
ゾハルはブォンッと大剣から灰を拭い、背中の鞘に戻す。
「ゾハルさん、俺の後ろに居ませんでしたよね。どこにいたんですか?」
ライオットは徐に立ち上がると、ゾハルを下から上へとゆっくり睨みつけ、言い放つ。
すると、ゾハルの身体に不自然な泥が付いていることに気付いた。
「済まぬ……後方より、私を狙ってきた魔獣がいたので、それを討滅していたのだ。数が多く、手間取ってしまった。灰が風に舞ってしまってな……残りはこれくらいだ」
「……」
ゾハルはそう言って、灰を見せて来た。
準備の良さにライオットは不信感を覚え、追及しようとするも、
「ゾハル様。そんな中、助けて頂きありがとうございますッ! 見事な2連撃でしたッ! その大剣は何の加護を受けておられるので?」
「……うむ、これは『土と死の神サターン』の加護を受けておる」
そう言って、ゾハルは背中の大剣を指さした。
大剣は先ほど、黄土色に光っているように見えた。
「へぇ! 確かまだ主神の庇護を受けていない、異端の神ですよね?」
「あぁそうだ……おかげで、ダイモス殿から苦言をいつも言われてな……」
「……」
彼を追及する機会を逸してしまったが「ゾハルは何かを隠している」とライオットは確信した。
ゾハルは咳払いをし、言葉をつづけた。
「そなたらが対峙し、我が剣にて滅したアレは『聖獣』と我々が呼んでいるものだ。聖者の血を取り込み、強靭な肉体を手に入れた存在だ」
「なんで聖獣って呼ばれているのですか?」
バーナードは腕の痛みを忘れたように、楽し気に質問した。
「それはな。もう少し、聖者の血を取り込むと福音が与えられるからだ。つまり、神聖な存在に近いのだ」
「なるほど。勉強になりますッ!」
バーナードはどこからか、紙片の束を取り出し、その旨を記述した。『聖獣』の呼び名は、十字軍が現場で読んでいる名前なので、書物等には記載が無かった。
「もし、産まれたての魔獣に教皇陛下の血を与えれば、すぐにでも灰になるがな。この辺りは文献と同じだ」
「それは……試されたのですか?」
「あぁそうだ。教皇陛下は現場にしばしば出られる。私としては良い迷惑だがな」
「ははは……それは大変ですね」
宿場町への帰り道、はしゃぐバーナードとそれに応対するゾハルを尻目にライオットは一言も話さなかった。
---
宿場町から中央都市へは、明日の朝に出発する予定である。
宿にて慰労会を終えた後、ライオットは自室で考え込んでいた。
独りでは考えがまとまらないと思い、スピカの部屋を訪ねた。
「なぁ、スピカ起きているか?」
「……あによ」
「ごめん、起こした?」
「起こされた。けど、いいわ。何?」
スピカは眠い目を擦りながら、部屋から出て来た。
寝間着姿、いつものお下げは解かれ、髪は下ろされていた。
お嬢様然とした姿に、ゾハルの件で乱れた感情ながらも、ライオットはドキっとした。
「……外で話さないか? 宿だとちょっと」
「……分かったわ。待っていなさい」
スピカはライオットの剣呑な雰囲気を感じ、求めに応じた。
そう言って、スピカは着替えるために部屋に戻った。
---
『宿場町ミクラ=アクトス』の傍に位置する川には、ベンチがあった。
釣り人のためか、逢瀬を楽しむ男女のためか、準備された経緯は町役場の台帳にも記述は無い。
満点の星空の下、ライオットとスピカは、そのベンチに並んで座っている。
「単刀直入に言うけど、ゾハル……怪しくないか」
「確かに、助けに来てくれたのは遅かったけど……何が引っかかるの?」
スピカは真っすぐにライオットの瞳を見つめた。
彼女はその性根も相まってか、真っすぐな言葉を好むことを、ライオットはよく知っている。
「気になる点が二つある。一つ目は魔獣の灰を持ち歩いていた点、二つ目は泥で汚れていた点」
「なんで気になるの?」
「単純に灰を持ち歩くメリットが無い。言い訳の為に準備したとしか思えない。それに……」
「それに?」
「ゾハルは俺らの後方にいたろ? ってことは、そこには俺らが討滅した角熊の死体があるはず。1体は聖別矢で刺していないから、死体が残っているはず」
「なるほどね……てことは、死体を聖剣で切って灰を準備した可能性があるわけね」
スピカは得心が言ったようで、手を打った。
「そうだ。帰り道は、行きの道と違ったから、死体の確認もしていない。だから、断定できないが……」
「そう言われると、あの匂いも俄然、怪しく思えて来た……」
「匂い?」
スピカが顎に指をあて、考え込む。
ライオットは眉間に皺をよせて、記憶を辿るも匂いに関する違和感は思いつかなかった。
「あーとりあえず、ライオットの二点目について、詳しく聞きたいわ。移動していたら泥なんて普通に着くから、別に気にしなくてもよくない?」
「いーや、汚れるとしたら普通は腰から下だけだ。でもゾハルさんは、胸のあたりに泥が付いていた。うつ伏せで転ばない限りそんな泥の付き方はしにくいと思う。聖獣を倒した時もあの人の腰から上には泥1つ被らなかった……あの人が転ぶところ、想像できるか?」
「……無理やり想像したら、なんか間抜けなことになっているわ。私の想像上のゾハルさん」
スピカは顔中が泥まみれで「面目ない」と言っているゾハルを想像していた。
「なんだよソレ……ふふ。じゃなくて、次はスピカの言っていた匂いについて教えて」
「えっとね……女の匂いがしたの」
「女?」
「そう、女。きつめの香水の残り香が微かにしたわ」
「俺は全然分からなかったぞ……」
「男はそんなもんね。でも、確信を持って女だと言えるわ」
スピカは静かに、かつ、力強く言った。
「勘か?」
「勘よ。でも、私の勘は外れた事がないわ」
「なるほど……でも、なんでまた。今朝はしなかった匂いだろ?」
「そうよ。でも、初めて会った時は、少ししていたわ」
スピカの言う会った時とは、昨日の士官学校でのことだ。
「じゃあ……どっかで女と会っていたとして、なんで会ったのだろうか」
「それが分かれば、苦労はしないわね……」
「そうだな……」
二人を沈黙が包み込む。
違和感のすり合わせが終わりを迎えた。
「……悩んでいても、今はしょうがないし、寝ましょ?」
「そうだな。スピカありがとう」
「いいわよ。私も気にしておくわ」
「わかった」
ーーその時、後ろから視線を感じた
ーー二人は咄嗟に振り返った
「なぁ」
「ええ、そこの草むらね」
二人が視線を感じた先には、草むらがある。
落ちていた棒切れを持って身構えながら除くと、そこには誰も居なかった。
「……確かに視線は感じたよね」
「……あぁ、そのはずだ」
代わりに掘り返した様な穴があった。
「これ、土竜が掘った後に似ているわね……にしては、ちょっと大きいけど」
「土竜の魔獣とか?」
「分からないわ。魔獣の生態は完全には掌握していないもの……ん? でもこの穴から女の匂いがするような……」
「……気になるけどもう遅いし、とりあえず、街の人に報告して寝よっか」
「……そうね、凄く疲れたわ」
「俺も……はぁ……」
その後、不思議な穴の事を町の責任者に告げ、二人は就寝した。
責任者は、夜更けにも関わらずにこやかに対応してくれた。
ライオットとスピカは何かを勘違いされたようで釈然としないながらも、床に着いた。
その日、ライオットはよく眠れた。
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