イクリール・サーガ 第一部【短剣の謎と愛の残響】

アルフライラ

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2章 束の間のモラトリアム

18話 重厚なる搥

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聖ガイア歴300年 電竜の月 20日
コンコルディア地方 無主地
宿場町ニヘア=リフラ 近隣の森林地帯

街から少し離れ、森の中に佇む肌色にやや近寄ってみると、
「え……」
「どした?」
 ライオットが青ざめる。


「……クラヴィスさん……なんで?」
「ライオット君、クラヴィスさんと言ったかな?」
 コンキリオが剣呑とした雰囲気となる。

「はい……俺の見間違いでなければ、多分、クラヴィスさんだと思います」

「……近寄って確認してみようか」

 件のクラヴィスは、こちらにその逞しい背中を向けている。
 人とは思えない異様な圧を醸し出していた。
 また、くちゃくちゃとした咀嚼音が聞こえる気がした。
 
 コンキリオは手にしたモーニングスターを構えながら、問いかけた。

「クラヴィスさん、コンキリオです。こちらを向いて頂けますか?」

 その言葉に応じたのか、クラヴィスはゆっくりとこちらを振り向いた。

 その姿は異形だった。

 大人の腕ほどの一本角を頭部を持ち、額にはあってはならない、赤い宝石が見えた。

 口には狐を咥えており右目は赤く、左目は人間。
 両手は共にメイスの様な物で出来ており、微かに脈打っている。
 下半身は、伝説にも出てくる聖なる純白の馬の様だ。
 しかし、黄色い瞳が点在しており、その神聖さを汚していた。

「クラヴィスさんが……そんな……」
「来るぞ」
 誰とも無く、警告を発したと共に、クラヴィスの姿をした魔獣はこちらに向かって来た。

「クラヴィスさん……ッ! 皆、構えッ!」

 コンキリオと自警団員が盾とトライデントを構え、ぶつかるのを待つ。
 ラッツとスピカも武器を抜いて構える。

 ライオットはざわつく心を落ち着かせ、弓を構えたが、僅かに指先が震えている。

ーーギリギリとしなる弓を引き
ーー矢を持つ右手の力をゆっくりと緩めた
ーー手応えは感じたが

「うおおおおぉッ!」
 クラヴィスもどきは、左手のメイスを盾に額の宝石を護った。
 矢は地面に力無く落下し、そのことから「隙を付かねば防がれる」とライオットは確信した。

 ライオットは残心を取りながら、次の射撃スポットを探す。
 小上がりとなっている丘に向かう。

 クラヴィスもどきと前衛が接敵した。
 両手のメイスを盾に力の限り叩きつけ、鋼と固い獲物が撃ち合う打撃音が響く。
「うっ!」
「だめだ、鉾を刺す隙が無い……ッ!」

 醜いメイスの圧力は凄まじい。
 コンキリオ隊はトライデントを差し込めない。
 ラッツとスピカも手をこまねいていた。
 あのメイスに当たれば、鎧を着ていても重傷を負うことは誰の目から見ても明らかだ。

ーークラヴィスもどきのメイスがガギンッと団員を盾ごと吹き飛ばす
「ぐわっ!」

「任せろッ! ぐっく……ッ!」
 団員が抜けた箇所にラッツが入り、メイスを大剣で受けた。
 膂力では敵わず、醜悪なるメイスが眼前に迫ってくる。

「はぁッ!」
ーースピカの左回し蹴りがメイスを弾く

「でかしたッ! オラぁッ!」
 ラッツは、聖なる鋼を人の部分の急所--心臓部に突き立てようとしたが、

「くっ!」
 右手のメイスを盾に防がれる。
 すかさず、左のメイスがラッツの脳髄を抉り取るために飛来する。

「危ないッ!」
 ガギンッと音を立てて、コンキリオのモーニングスターが弾いた。
 クラヴィスに負けず、見た目通りの剛力だとラッツは思った。

「シィ―!!」
 スピカが隙を突き、右前足の関節に左回し蹴りを叩き込む。

「ライオットッ!! 撃ってッ!!」
 クラヴィスもどきは怒り、スピカに向かってメイスを振り下ろしてくる。

「スピカッ!! 後ろに下がれッ!!」
 ライオットは叫び、スピカは後方へと受け身を気にせずに退避した。

 その時だった、
ーーライオットの放った矢は風を切って馬体に飛来し
ーーズグッと肉を抉る不快音とともに、数ある目玉の一つを潰す
 魔獣はおぞましい悲鳴をあげ、人間の目の部分を抑え、悶える。

「今だッ!」
 コンキリオの号令とともに、槍の穂先が馬体に吸い込まれた。

「クラヴィスさん……」
ーー棘の付いた鉄球で宝石を叩き割る
ーー宝石はバリンッと弾けた

「ぐおおおおおおッ! ……おおおぉ」
「総員ッ! 下がれッ!」
 雌雄は決し、コンキリオの号令で全員が下がり、クラヴィスもどきの最後の足掻きを見守る。

 クラヴィスもどきは、がむしゃらに両手のメイスを振り回している。
「クラヴィスさん……もういいよ……息子さんは大丈夫だから……」

 コンキリオのその言葉が聞こえたのか、単なる偶然か……その言葉が消えた途端に、クラヴィスもどきは、力無く崩れ落ちた。

 その手足は微かに痙攣しており、開いたままの赤い瞳には、涙の跡があった。

「なぁ……ほんとにクラヴィスさんなのか?」
「あぁ……あのメイス捌きは、魔獣になっても健在だったね……」
 ラッツの呟きにコンキリオが力なく答えた。

「いや、でもよ……」

「……よしましょう。一番辛いのはコンキリオさん達よ」
「あぁ……悪い……」
 スピカの静止にラッツは言葉を失った。

「クラヴィスさん……聖別式を受けられなかっただけで……こんなことに……」
 ライオットは聖別式への不満を吐露した。「こんなの不公平だ」と言いかけたが、その言葉は辛うじて呑み込んだ。

「……」

 そこに居る全員は、ただ、その死体を見つめていた。
 沈黙の死体は傷口から黒い血を流し、大地を汚している。
 死体は人に戻らず、このまま大地へ還る。

 コンキリオは唇を噛み締め、隊員には涙を流す者もいた。

 心は悲嘆に満ちている。
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