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5章 旅立ちと旅立ち
59話 傷ついた先に
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聖ガイア歴303年 嵐竜の月 12日
中央都市アウロラ 教皇直轄領
五番通用口
関門と関門の間はおよそ500m。
土塁と柵で区切られており、所々に焚き火が設置されている。
第二関門の各通用口は、200m間隔で放射状に設置されており、物資補給路や避難路としても活用されている。
ライオット班などの通用門守備兵には、計20班80名が配備されており、比較的成績優秀者が多い。
残りの士官候補生は、遊撃兵や補給兵等として配備されていた。
騎士オベロンは通用口後方に設置された物見櫓におり、手には弩を構えている。
ライオットは五番通用口上の門壁の上で構え、班員に静かに告げた。
「無理に額を狙わなくても良い。身体のどこかに当てれば動きは鈍る」
「「了解!」」
「飛ぶ奴がいたら優先してくれ。群れがいたら投石しろ、これはローレルに任せた」
「わかった」
その時。
彼方に魔獣の群れが見えた。
鳥が一匹。夜に鳥はあまり飛ばないため、魔獣だと容易に分かる。
その下に黒い群れ。
「来たぞ。鳥は俺が撃つ」
ライオットは小さく息を吐いた。
奇蹟と想いが詰まった弓を引き絞り、穏やかな航海を頭に描き、矢を放つ。
矢は白く輝き、流星の様に夜を切り裂く。初撃は鳥の額を穿ち、撃ち落とした。
「よっ、色男!」
「……なんか調子狂うな」
ルミナは軽口を叩き、弩を群れに向かって撃つ。それにトラブとベルも続く。
機械的な弦音が次々と響き、たまに篝火から火の粉が飛ぶが、熱さは感じなかった。
「当たれー!」
紐が弾ける音と共に、大岩が飛ぶ。
ローレルの投石が群れを叩き、遠方の黒い点が減る。
「しゃあ!」
「ローレルうまいぞ。今のでだいぶ減った」
「ライオット先輩、群れの全ては潰せそうにないです。どうされます?」
トラブが弩を撃ちながら問いかけた。
その声にはどこか愉悦が混じる。
「数によるが、手前40mほどに来たら、トラブとローレルで叩いてくれ」
「了解です」
魔獣を減らさねば、誰かが死ぬ。
その緊張を心に押し殺し、弓を引きつづけた。
暫く黒い点を減らしていると、群れが通用口40mほど手前に迫った。
「狼が六匹、現在後続なし。ローレル、トラブ、頼んだ」
ライオットが痺れた手を振るい、指示を飛ばした。
「了解」
「任せろ兄貴!」
その時、ベルの弩が狼の右脚を撃ち抜いた。群れから脱落する。
脱落した狼をルミナが仕留めた。
同時に、後続の狼をライオットが射抜く。
「訂正、四匹! もしきつかったら言え!」
トラブとローレルはその言葉を背中に受け、梯子から降りて接敵した。
門の上からは射線が通っていないため、援護射撃はほぼ不可能。
トラブは大剣で狼を首だけにした。
ローレルは赤光を放つ長剣で狼を両断し、灰に変えた。残り三匹。
トラブに肉薄するが、これは縦に両断し葬る。死体が残る。
「ライオット君、下は大丈夫そうだね」
二人の戦闘を眺め、ベルが明るい声で述べた。ルミナも頷き、手をほぐしていた。
「そうだな。あの分なら十匹までならいけそうだ」
ライオットは小さく嘆息し、視線を第一関門の方へ向ける。
「……後続が来たか」
ライオットは後方の群れを睨む。
鳥が三匹の下に群れ。
群れの進軍は遅く、狼では無さそう。
「鳥は任せろ。下の奴らを頼む」
「わかった」
「じゃあ私は投石してくるよ。ローレル君戻って来たら変わってねー」
「了解です」
ベルは弩を次々撃ち、ルミナは投石の狙いを定める。
「アニキ! 片付けて来たぞ。お? 次か?」
ローレルが帰ってきた。
トラブは群れを横目で確認するや「群れ狙いますね」と弩で狙い出す。
「お疲れ様。ルミナさんと変わって来て」
「わかったゼ」
ローレルは鎧の音を響かせ、投石機の元へ向かう。
ライオットが鳥を一匹撃ち落とした時、ルミナが来る。
「大丈夫そうだから、休んで来るね。私が戻ったらギルタブ班と交代。緊急時はすぐに来て」
「了解です」
ルミナは、門壁に設置された休息所へ背伸びしながら、向かっていった。
休息所への道には、松明が多く設置されており、昔に作られたと言われる赤光の奇蹟を宿した石が通路の上に輝く。
「よし、頑張ろう!」
「「おう!」」
ライオット班の奮戦は黒い群れを殲滅するまで続いた。
---
第二波の群れを片付け、束の間の平静が訪れた。
空に立ち込める暗雲は未だ晴れず、暗い夜が続く。
赤い狼煙が右遠方から見えた。
ルーク班、アトラス班が守る六番通用口の方向。
「ライオット君、あれ……」
赤い狼煙を見て、ベルが少し不安そうに呟き、ローレルは狼煙を注視していた。
トラブはそれをチラリと見るが、すぐに前方に視線を戻す。
「囲まれた合図だな。予備隊か正規兵が対応するから、捨て置くぞ。それにあそこを守る奴らは精強だ」
「わかった」
ベルは頬を叩き、柔軟を始めた。
「アニキ。投石機の弾がもうねーぞ」
「了解。あれが無いと殲滅出来ないから、降りるのはよそうか」
「それは魔獣を通すと言うことですか?」
トラブが聞く。
「そうだ。第三関門と遊撃隊に任せよう。ローレル、伝令兵に弾がない旨を伝えてくれるか?」
「わかったゼ」
ローレルは足早に消えていく。
「今度は鳥が単体か」
遠方中空に黒い点が見えた。
ライオットは疲労で曇る心をなんとか落ち着かせ、弓を引き絞り、放つ。
「手応えがない?」
矢は獲物の芯を捉えたはずだ。
当たれば手応えと共に、灰へと変わる筈だが、未だ遠方の点は消えない。
「え……今、当たりましたよね?」
ベルが不安そうにした。トラブは顎に手を当て、思案していた。
「その筈だ……まさか、聖獣か?」
「僕もその可能性を考えていました。緑を焚きますか?」
トラブが目を細め、述べた。
「いや、視認してからにしよう。第一関門に緑は見えない」
遠方の第一関門は静寂を保っていた。
ここ五番通用口は、第一関門の通用口のほぼ延長線上に位置する。
「その前に俺は……」
ライオットは小さく嘆息し、背中に隠した矢筒から『氷と銀の神リゲル』の奇蹟が与えられた矢を取り出した。
それは、かつてギルタブに渡し、熊の聖獣に撃った矢だ。残りは三本。
「これは聖別矢だ。もし、これで討滅出来なければ……トラブ、緑を準備しておいてくれ」
「了解です」
トラブは懐の革袋を確認し、準備してあった木の束に近づく。
緑の狼煙は、トビイロオオカミの糞から作られた物だ。
「ライオット君、私は?」
「弩で一緒にアレを狙ってくれ。僅かな手傷でも与えられれば良い」
「わかった」
ベルは弩で撃ち出す。
矢は概ね、対象に飛んでいくが、怯む様子は無い。
それはまだ遠方に悠然と飛んでおり、夜ともあって、姿の識別が出来ない。
ライオットは、銀の積荷を遥か遠方まで船で運ぶ姿を頭に描く。
神々に祈りを捧げ、弓を引き絞る。
隣で響く弩の音が聞こえなくなった。
「ふぅ……」
やや湿った空気で肺を満たす。
指先が痺れるが、気合いで矢を握る。
右手指先の力を緩め、聖別矢を放つ。
「弾かれたか……」
黒い獣は徐々に姿を大きくした。
聖別矢に怒ったのか、少し速度を上げ、向かっている。
角と羽が生えた豚だ。
額には宝石が無い。
「トラブ、緑!」
「了解です」
「ベル、ルミナさんに指示を仰げ!」
「わかった! あ、あ、あ……」
ベルは震えた声で吃る。
「なんだ? 早くし……なッ! なぜ聖獣がッ!?」
ライオットが振り返ると、門壁の上、ルミナへの道を塞ぐ様に黒き獣がいた。
紅の瞳に猛禽の頭。
天に逆らう一本角。宝石は無い。
獅子の身体に黒いミミズが蠢く翼。
罪に穢れたグリフォンがいた。
「なぜだッ!?」
グリフォンは首を傾げ、佇む。
不動。無音。気配も無い。
グリフォンの肩越しには、赤い狼煙が見えていた。
「……き、きゃーッ!!」
ベルは圧力に怯み、背を向け、反対方向に逃げ出した。
「あっおい、待て!」
「クケケケケケケケ」
人の様な醜悪な笑い声と共に、グリフォンは素早く飛び立ち、ベルの背中を踏み潰した。
「ぐ、あ、……」
「ベル!」
咄嗟に矢を放つが、醜悪な翼で身体を守る。
「くそっ!」
ベルは鉤爪で潰されながら、声を絞り出す。グリフォンはベルの鎧を外そうと、嘴で弄んでいた。
「みんな……に、逃げて」
「分かりました」
「なっ!」
トラブはライオットが止める間も無く、素早く休息所へ向かっていく。
それと丁度入れ替わりにローレルが戻って来た。
「アニキ、トラブの奴はど……うわっ!」
「聖獣だ。お前は戻ってルミナさんを呼んでこい。ここは何とかする!」
ライオットは矢を放ちつつ怒鳴る。
「嫌だ! 俺の盾になるつもりだろ」
「命令に従え! 俺がリーダーだ」
「うるせえ、アニキは死なせない」
「……じゃあ前衛を頼んだ」
「任せろ」
ローレルは長剣を強く握り、神マルスに祈りを捧げた。
赤光を放ち、辺りを煌々と照らす。
「行くぜェエエエエ!」
ローレルは飛びかかった。
大上段からの赤い剣は右翼の一部を切り裂き、灰に変えた。
醜い慟哭。
それから、グリフォンは聖剣は避け、または鉤爪で弾く。聖剣を嫌がっている。
しかし、ベルに執着しており、その場は動かない。
「当たればいけるな……よしッ!」
ライオットは上空に向かって聖別矢を放った。矢は白く輝き、闇を切り裂く。
「ローレル! 無理はするな」
ライオットは短弓に持ち替えて、目を狙い、矢を放つ。
翼で防がれるが、
「喰らえッ!」
ローレルが左翼の先を灰に変えた。
「グギャアアア」
グリフォンはベルを諦め、空へ逃げようとした。
その時、天泣が堕ちた。
落星が獣の額に突き刺さる。
グリフォンは灰に変わる。
「よっしゃああああ」
「聖獣はまだいるッ! ベル連れて引くぞ」
「おう」
二人は血を吐き、気を失っているベルを担ぎ上げ、休息所へ向かう。
飛ぶ豚の聖獣は40mほどまで、ゆっくりと迫って来ていた。
ライオットとローレルは背中に冷たい物と絡みつくような視線を感じながら、先を急いだ。
中央都市アウロラ 教皇直轄領
五番通用口
関門と関門の間はおよそ500m。
土塁と柵で区切られており、所々に焚き火が設置されている。
第二関門の各通用口は、200m間隔で放射状に設置されており、物資補給路や避難路としても活用されている。
ライオット班などの通用門守備兵には、計20班80名が配備されており、比較的成績優秀者が多い。
残りの士官候補生は、遊撃兵や補給兵等として配備されていた。
騎士オベロンは通用口後方に設置された物見櫓におり、手には弩を構えている。
ライオットは五番通用口上の門壁の上で構え、班員に静かに告げた。
「無理に額を狙わなくても良い。身体のどこかに当てれば動きは鈍る」
「「了解!」」
「飛ぶ奴がいたら優先してくれ。群れがいたら投石しろ、これはローレルに任せた」
「わかった」
その時。
彼方に魔獣の群れが見えた。
鳥が一匹。夜に鳥はあまり飛ばないため、魔獣だと容易に分かる。
その下に黒い群れ。
「来たぞ。鳥は俺が撃つ」
ライオットは小さく息を吐いた。
奇蹟と想いが詰まった弓を引き絞り、穏やかな航海を頭に描き、矢を放つ。
矢は白く輝き、流星の様に夜を切り裂く。初撃は鳥の額を穿ち、撃ち落とした。
「よっ、色男!」
「……なんか調子狂うな」
ルミナは軽口を叩き、弩を群れに向かって撃つ。それにトラブとベルも続く。
機械的な弦音が次々と響き、たまに篝火から火の粉が飛ぶが、熱さは感じなかった。
「当たれー!」
紐が弾ける音と共に、大岩が飛ぶ。
ローレルの投石が群れを叩き、遠方の黒い点が減る。
「しゃあ!」
「ローレルうまいぞ。今のでだいぶ減った」
「ライオット先輩、群れの全ては潰せそうにないです。どうされます?」
トラブが弩を撃ちながら問いかけた。
その声にはどこか愉悦が混じる。
「数によるが、手前40mほどに来たら、トラブとローレルで叩いてくれ」
「了解です」
魔獣を減らさねば、誰かが死ぬ。
その緊張を心に押し殺し、弓を引きつづけた。
暫く黒い点を減らしていると、群れが通用口40mほど手前に迫った。
「狼が六匹、現在後続なし。ローレル、トラブ、頼んだ」
ライオットが痺れた手を振るい、指示を飛ばした。
「了解」
「任せろ兄貴!」
その時、ベルの弩が狼の右脚を撃ち抜いた。群れから脱落する。
脱落した狼をルミナが仕留めた。
同時に、後続の狼をライオットが射抜く。
「訂正、四匹! もしきつかったら言え!」
トラブとローレルはその言葉を背中に受け、梯子から降りて接敵した。
門の上からは射線が通っていないため、援護射撃はほぼ不可能。
トラブは大剣で狼を首だけにした。
ローレルは赤光を放つ長剣で狼を両断し、灰に変えた。残り三匹。
トラブに肉薄するが、これは縦に両断し葬る。死体が残る。
「ライオット君、下は大丈夫そうだね」
二人の戦闘を眺め、ベルが明るい声で述べた。ルミナも頷き、手をほぐしていた。
「そうだな。あの分なら十匹までならいけそうだ」
ライオットは小さく嘆息し、視線を第一関門の方へ向ける。
「……後続が来たか」
ライオットは後方の群れを睨む。
鳥が三匹の下に群れ。
群れの進軍は遅く、狼では無さそう。
「鳥は任せろ。下の奴らを頼む」
「わかった」
「じゃあ私は投石してくるよ。ローレル君戻って来たら変わってねー」
「了解です」
ベルは弩を次々撃ち、ルミナは投石の狙いを定める。
「アニキ! 片付けて来たぞ。お? 次か?」
ローレルが帰ってきた。
トラブは群れを横目で確認するや「群れ狙いますね」と弩で狙い出す。
「お疲れ様。ルミナさんと変わって来て」
「わかったゼ」
ローレルは鎧の音を響かせ、投石機の元へ向かう。
ライオットが鳥を一匹撃ち落とした時、ルミナが来る。
「大丈夫そうだから、休んで来るね。私が戻ったらギルタブ班と交代。緊急時はすぐに来て」
「了解です」
ルミナは、門壁に設置された休息所へ背伸びしながら、向かっていった。
休息所への道には、松明が多く設置されており、昔に作られたと言われる赤光の奇蹟を宿した石が通路の上に輝く。
「よし、頑張ろう!」
「「おう!」」
ライオット班の奮戦は黒い群れを殲滅するまで続いた。
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第二波の群れを片付け、束の間の平静が訪れた。
空に立ち込める暗雲は未だ晴れず、暗い夜が続く。
赤い狼煙が右遠方から見えた。
ルーク班、アトラス班が守る六番通用口の方向。
「ライオット君、あれ……」
赤い狼煙を見て、ベルが少し不安そうに呟き、ローレルは狼煙を注視していた。
トラブはそれをチラリと見るが、すぐに前方に視線を戻す。
「囲まれた合図だな。予備隊か正規兵が対応するから、捨て置くぞ。それにあそこを守る奴らは精強だ」
「わかった」
ベルは頬を叩き、柔軟を始めた。
「アニキ。投石機の弾がもうねーぞ」
「了解。あれが無いと殲滅出来ないから、降りるのはよそうか」
「それは魔獣を通すと言うことですか?」
トラブが聞く。
「そうだ。第三関門と遊撃隊に任せよう。ローレル、伝令兵に弾がない旨を伝えてくれるか?」
「わかったゼ」
ローレルは足早に消えていく。
「今度は鳥が単体か」
遠方中空に黒い点が見えた。
ライオットは疲労で曇る心をなんとか落ち着かせ、弓を引き絞り、放つ。
「手応えがない?」
矢は獲物の芯を捉えたはずだ。
当たれば手応えと共に、灰へと変わる筈だが、未だ遠方の点は消えない。
「え……今、当たりましたよね?」
ベルが不安そうにした。トラブは顎に手を当て、思案していた。
「その筈だ……まさか、聖獣か?」
「僕もその可能性を考えていました。緑を焚きますか?」
トラブが目を細め、述べた。
「いや、視認してからにしよう。第一関門に緑は見えない」
遠方の第一関門は静寂を保っていた。
ここ五番通用口は、第一関門の通用口のほぼ延長線上に位置する。
「その前に俺は……」
ライオットは小さく嘆息し、背中に隠した矢筒から『氷と銀の神リゲル』の奇蹟が与えられた矢を取り出した。
それは、かつてギルタブに渡し、熊の聖獣に撃った矢だ。残りは三本。
「これは聖別矢だ。もし、これで討滅出来なければ……トラブ、緑を準備しておいてくれ」
「了解です」
トラブは懐の革袋を確認し、準備してあった木の束に近づく。
緑の狼煙は、トビイロオオカミの糞から作られた物だ。
「ライオット君、私は?」
「弩で一緒にアレを狙ってくれ。僅かな手傷でも与えられれば良い」
「わかった」
ベルは弩で撃ち出す。
矢は概ね、対象に飛んでいくが、怯む様子は無い。
それはまだ遠方に悠然と飛んでおり、夜ともあって、姿の識別が出来ない。
ライオットは、銀の積荷を遥か遠方まで船で運ぶ姿を頭に描く。
神々に祈りを捧げ、弓を引き絞る。
隣で響く弩の音が聞こえなくなった。
「ふぅ……」
やや湿った空気で肺を満たす。
指先が痺れるが、気合いで矢を握る。
右手指先の力を緩め、聖別矢を放つ。
「弾かれたか……」
黒い獣は徐々に姿を大きくした。
聖別矢に怒ったのか、少し速度を上げ、向かっている。
角と羽が生えた豚だ。
額には宝石が無い。
「トラブ、緑!」
「了解です」
「ベル、ルミナさんに指示を仰げ!」
「わかった! あ、あ、あ……」
ベルは震えた声で吃る。
「なんだ? 早くし……なッ! なぜ聖獣がッ!?」
ライオットが振り返ると、門壁の上、ルミナへの道を塞ぐ様に黒き獣がいた。
紅の瞳に猛禽の頭。
天に逆らう一本角。宝石は無い。
獅子の身体に黒いミミズが蠢く翼。
罪に穢れたグリフォンがいた。
「なぜだッ!?」
グリフォンは首を傾げ、佇む。
不動。無音。気配も無い。
グリフォンの肩越しには、赤い狼煙が見えていた。
「……き、きゃーッ!!」
ベルは圧力に怯み、背を向け、反対方向に逃げ出した。
「あっおい、待て!」
「クケケケケケケケ」
人の様な醜悪な笑い声と共に、グリフォンは素早く飛び立ち、ベルの背中を踏み潰した。
「ぐ、あ、……」
「ベル!」
咄嗟に矢を放つが、醜悪な翼で身体を守る。
「くそっ!」
ベルは鉤爪で潰されながら、声を絞り出す。グリフォンはベルの鎧を外そうと、嘴で弄んでいた。
「みんな……に、逃げて」
「分かりました」
「なっ!」
トラブはライオットが止める間も無く、素早く休息所へ向かっていく。
それと丁度入れ替わりにローレルが戻って来た。
「アニキ、トラブの奴はど……うわっ!」
「聖獣だ。お前は戻ってルミナさんを呼んでこい。ここは何とかする!」
ライオットは矢を放ちつつ怒鳴る。
「嫌だ! 俺の盾になるつもりだろ」
「命令に従え! 俺がリーダーだ」
「うるせえ、アニキは死なせない」
「……じゃあ前衛を頼んだ」
「任せろ」
ローレルは長剣を強く握り、神マルスに祈りを捧げた。
赤光を放ち、辺りを煌々と照らす。
「行くぜェエエエエ!」
ローレルは飛びかかった。
大上段からの赤い剣は右翼の一部を切り裂き、灰に変えた。
醜い慟哭。
それから、グリフォンは聖剣は避け、または鉤爪で弾く。聖剣を嫌がっている。
しかし、ベルに執着しており、その場は動かない。
「当たればいけるな……よしッ!」
ライオットは上空に向かって聖別矢を放った。矢は白く輝き、闇を切り裂く。
「ローレル! 無理はするな」
ライオットは短弓に持ち替えて、目を狙い、矢を放つ。
翼で防がれるが、
「喰らえッ!」
ローレルが左翼の先を灰に変えた。
「グギャアアア」
グリフォンはベルを諦め、空へ逃げようとした。
その時、天泣が堕ちた。
落星が獣の額に突き刺さる。
グリフォンは灰に変わる。
「よっしゃああああ」
「聖獣はまだいるッ! ベル連れて引くぞ」
「おう」
二人は血を吐き、気を失っているベルを担ぎ上げ、休息所へ向かう。
飛ぶ豚の聖獣は40mほどまで、ゆっくりと迫って来ていた。
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