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第11パケ 「トミーの裏切り」
【筋トレ中毒のシャブ屋】
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第11パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
「トミーの裏切り」
~富豪トミーのお陰で何とか難を乗り切るが、権堂の策略はここからが始まりだった。5人の客への金の配布が終わり、安堵の中で昼寝をするが…~
昼寝から目を覚ましても、何だか全身が怠くて起き上がる気がしなかった。
ぼんやりと店の天井を眺めると、何ヵ所か壁紙が剥がれかけているのに気が付いた。
(天井でも壁紙か…。天井紙とは言わないなぁ…)
無駄なことを考えている内に時間が過ぎてゆく。
極度の焦りの後の短絡的な解決策。僅かな時間の中でジェットコースターの様に振り回された精神と神経が予想外の心身疲労へと繋がっていた。
【‘短絡’とは元々は電気回路用語です。そこから比喩して出来た言葉が皆さんが用いる用語ですが、上記の様な活用は、通じますが微妙に誤用です】
(何か今日はもうなんもやる気がせんなぁ…。帰ろ)
まだ昼過ぎだったが、店を閉めて帰ることにした。
その時、権堂の番号から電話がかかった。
「もしも~し!立花やけど~」
「え?立花?だれ?」
「冗談やがな。権堂や(笑)」
「わかりにくい冗談やなぁ。立花だれやねん! 有名人にしときな!」
文句を言いながらも、先程まで死の恐怖を感じていた俺には、権堂が言う冗談が平和な出来事の様に感じた。
「権堂はん、あんなぁ、俺、もうこのクリーニング、やめたいねん。大金預かるのしんどいわ」
一瞬の間が空いたあと、権堂は落ち着いた様子で話し出す。
「どないしたんや?まだ一回目やないか。万事順調にいってはるんやろ? まあええわ。その内に慣れはりますわ。 ところで今からクーラーボックス取りに行ってもええかいな?」
(しまった…。金にばかり目が眩んでクーラーボックス忘れてたがな…)
【‘眩む’は‘虜になる’とか‘夢中になる’意味ではないのですね。くらむ[眩む]目先がぼうっとなり見えにくくなる】
「クッ、クーラーボックスかい? あ、あ、あれな、あんなん何個でもあんのやろ?また買うたらええやん。権堂はん、金ならクソ余ってるやんけ」
「いや、あかんのや、あれなぁ、用途が用途だけに内部に発信器やらカメラやら埋め込んだんねん。結構手間暇かけたんねんで」
(なっ!なにぃ~!発信器にカメラやて?マズイやん! いや、マズないやん!ほんならパクられたクーラーボックス見付かるかもわからんやん。いやしかし今さら言えんし、どないしよ)
俺は悟られないように努めながら冷静に応えた。
「ああ、そうなんか。ところでいま、発信器でクーラーボックスの場所は探知出来るわな? どや、きちんと内の店の位置を示しとるかいの?」
電話口で何やらごそごそと音がする。
「んん~?ちょい待ちや。そんなん小太郎はんとこにあるさかい、やっとらへんからの。今探知機出すわ」
余り聞き慣れない音が聴こえてくる。
(ピコーン・ピコーン・キュイーン・キュイーン…)
「権堂はん、どないやの?きちんと店に位置しとんのんかいな?」
「まあ焦りなさんな、何しろ遠隔やさかいにな」
暫くして権堂が小さく唸る声が聴こえる。俺はかなり動揺し、携帯を握る手のひらからは、気付けば冷たい汗が滴り落ちていた。自分の呼吸が浅いことに気付いた。日頃はペースメーカーを勧められる位徐脈な俺の鼓動が、やたらと大きく早く、自分の体内から体液を伝導して耳に聞こえてくる感じがした。
急に権堂が大きな声で話しかけて来た。
「小太郎はん!あかんがな!何やこれ!?」
「ななななっ!なんやねん!なんやねんな!警察署にでもあんのか!?」
思わず飛び出した俺の言葉に、権堂が何かを悟った様に語り出す。
「何をゆうてまんのや、そんな筈あらへんがな。箱は小太郎はんのとこにあんのやろ? ちゃいますがな、うまく探知せやへんねん」
俺は発信器か探知機か、それとも権堂の頭の何れかがイカれたことに胸を撫で下ろした。そして思わず呼吸が止まっていたことに気付いて、深呼吸をした。
「さっ、さよか。ほな、何も映らへんちゅうわけやな?」
「ちゃいますんや、あの箱なぁ、まだトミー先生のとこでパカパカ点滅したまんまなんや。おかしいなぁ、昨夜から壊れてしもたんちゃうか?」
俺の頭に鋭い電気痛が走った。
(なっ、なに?!トミー宅にあるやて?!どうゆうこっちゃ?! それ探知機ほんまにイカれてるんやろなぁ~! トミーが…、トミーが…)
信じがたい事実を受け入れきれず、俺は再度権堂に執拗な質問を繰り返した。
「なに? ほなあれか? カメラはどないや? 映像はどこが映っとんねん? え?! どないや?!」
権堂からしたら、なぜ俺の目の前にあるクーラーボックスの探知場所が故障しただけで執拗な問いを繰り返すのか、些か不審に思っただろう。しかし、その時の俺は瞳孔が開き携帯を睨み付けたまま怒鳴っていた。
「んん?カメラか?せやな、映像は~」
ガチャガチャと機械を触る音と共に権堂が応えた。
「わからんわ。あかん。映り込みが至近距離(咫尺シセキ)過ぎて何やらわからんわ。つまり昨夜はトミー先生が壁際か何かに置いたんやろ。ほんで金持ちの豪邸やさかいに、壁が厚すぎてそこで電波遮断されたんちゃうか? せやから、そん時の映像のまま止まってるんやろな。 復旧するには一回リセットせなならんわ。いま小太郎はん、リセットしたらよろしわ」
俺は権堂が喋り終わるのも待たず、クルマの鍵を握り締めると、一目散に車に向かった。俺のオンボロの軽貨物がスポーツカーに変わったかの様に、後輪をホイルスピンさせながら、店の敷地から勢いよく飛び出した。
【軽貨物や軽トラは、現在少なくなったFR(フロントエンジン、リア駆動)です。一部(サンバーなど)はポルシェ同様のRRで、足元が広く騒音も少なく快適です】
車幅は狭いのに、妙に背の高い車両のバランスが崩れ、片側の前後車輪が宙に浮いた。思わず横倒しになりかけながらも、まったく動揺はしなかった。
溢れる程のアドレナリンが全身に行き渡り、目は血走り、みるみるステアリングを握る腕の血管が浮き出してくる。全身から血が溢れ出しそうだった。
(トミーが…。トミーが…。いや、トミーは俺を裏切らへん、トミーは…)
探知機の電波が到達するよりも早く、俺の急く気持ちはトミーの自宅へ向かっていた。
第11パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
「トミーの裏切り」
おわり
「トミーの裏切り」
~富豪トミーのお陰で何とか難を乗り切るが、権堂の策略はここからが始まりだった。5人の客への金の配布が終わり、安堵の中で昼寝をするが…~
昼寝から目を覚ましても、何だか全身が怠くて起き上がる気がしなかった。
ぼんやりと店の天井を眺めると、何ヵ所か壁紙が剥がれかけているのに気が付いた。
(天井でも壁紙か…。天井紙とは言わないなぁ…)
無駄なことを考えている内に時間が過ぎてゆく。
極度の焦りの後の短絡的な解決策。僅かな時間の中でジェットコースターの様に振り回された精神と神経が予想外の心身疲労へと繋がっていた。
【‘短絡’とは元々は電気回路用語です。そこから比喩して出来た言葉が皆さんが用いる用語ですが、上記の様な活用は、通じますが微妙に誤用です】
(何か今日はもうなんもやる気がせんなぁ…。帰ろ)
まだ昼過ぎだったが、店を閉めて帰ることにした。
その時、権堂の番号から電話がかかった。
「もしも~し!立花やけど~」
「え?立花?だれ?」
「冗談やがな。権堂や(笑)」
「わかりにくい冗談やなぁ。立花だれやねん! 有名人にしときな!」
文句を言いながらも、先程まで死の恐怖を感じていた俺には、権堂が言う冗談が平和な出来事の様に感じた。
「権堂はん、あんなぁ、俺、もうこのクリーニング、やめたいねん。大金預かるのしんどいわ」
一瞬の間が空いたあと、権堂は落ち着いた様子で話し出す。
「どないしたんや?まだ一回目やないか。万事順調にいってはるんやろ? まあええわ。その内に慣れはりますわ。 ところで今からクーラーボックス取りに行ってもええかいな?」
(しまった…。金にばかり目が眩んでクーラーボックス忘れてたがな…)
【‘眩む’は‘虜になる’とか‘夢中になる’意味ではないのですね。くらむ[眩む]目先がぼうっとなり見えにくくなる】
「クッ、クーラーボックスかい? あ、あ、あれな、あんなん何個でもあんのやろ?また買うたらええやん。権堂はん、金ならクソ余ってるやんけ」
「いや、あかんのや、あれなぁ、用途が用途だけに内部に発信器やらカメラやら埋め込んだんねん。結構手間暇かけたんねんで」
(なっ!なにぃ~!発信器にカメラやて?マズイやん! いや、マズないやん!ほんならパクられたクーラーボックス見付かるかもわからんやん。いやしかし今さら言えんし、どないしよ)
俺は悟られないように努めながら冷静に応えた。
「ああ、そうなんか。ところでいま、発信器でクーラーボックスの場所は探知出来るわな? どや、きちんと内の店の位置を示しとるかいの?」
電話口で何やらごそごそと音がする。
「んん~?ちょい待ちや。そんなん小太郎はんとこにあるさかい、やっとらへんからの。今探知機出すわ」
余り聞き慣れない音が聴こえてくる。
(ピコーン・ピコーン・キュイーン・キュイーン…)
「権堂はん、どないやの?きちんと店に位置しとんのんかいな?」
「まあ焦りなさんな、何しろ遠隔やさかいにな」
暫くして権堂が小さく唸る声が聴こえる。俺はかなり動揺し、携帯を握る手のひらからは、気付けば冷たい汗が滴り落ちていた。自分の呼吸が浅いことに気付いた。日頃はペースメーカーを勧められる位徐脈な俺の鼓動が、やたらと大きく早く、自分の体内から体液を伝導して耳に聞こえてくる感じがした。
急に権堂が大きな声で話しかけて来た。
「小太郎はん!あかんがな!何やこれ!?」
「ななななっ!なんやねん!なんやねんな!警察署にでもあんのか!?」
思わず飛び出した俺の言葉に、権堂が何かを悟った様に語り出す。
「何をゆうてまんのや、そんな筈あらへんがな。箱は小太郎はんのとこにあんのやろ? ちゃいますがな、うまく探知せやへんねん」
俺は発信器か探知機か、それとも権堂の頭の何れかがイカれたことに胸を撫で下ろした。そして思わず呼吸が止まっていたことに気付いて、深呼吸をした。
「さっ、さよか。ほな、何も映らへんちゅうわけやな?」
「ちゃいますんや、あの箱なぁ、まだトミー先生のとこでパカパカ点滅したまんまなんや。おかしいなぁ、昨夜から壊れてしもたんちゃうか?」
俺の頭に鋭い電気痛が走った。
(なっ、なに?!トミー宅にあるやて?!どうゆうこっちゃ?! それ探知機ほんまにイカれてるんやろなぁ~! トミーが…、トミーが…)
信じがたい事実を受け入れきれず、俺は再度権堂に執拗な質問を繰り返した。
「なに? ほなあれか? カメラはどないや? 映像はどこが映っとんねん? え?! どないや?!」
権堂からしたら、なぜ俺の目の前にあるクーラーボックスの探知場所が故障しただけで執拗な問いを繰り返すのか、些か不審に思っただろう。しかし、その時の俺は瞳孔が開き携帯を睨み付けたまま怒鳴っていた。
「んん?カメラか?せやな、映像は~」
ガチャガチャと機械を触る音と共に権堂が応えた。
「わからんわ。あかん。映り込みが至近距離(咫尺シセキ)過ぎて何やらわからんわ。つまり昨夜はトミー先生が壁際か何かに置いたんやろ。ほんで金持ちの豪邸やさかいに、壁が厚すぎてそこで電波遮断されたんちゃうか? せやから、そん時の映像のまま止まってるんやろな。 復旧するには一回リセットせなならんわ。いま小太郎はん、リセットしたらよろしわ」
俺は権堂が喋り終わるのも待たず、クルマの鍵を握り締めると、一目散に車に向かった。俺のオンボロの軽貨物がスポーツカーに変わったかの様に、後輪をホイルスピンさせながら、店の敷地から勢いよく飛び出した。
【軽貨物や軽トラは、現在少なくなったFR(フロントエンジン、リア駆動)です。一部(サンバーなど)はポルシェ同様のRRで、足元が広く騒音も少なく快適です】
車幅は狭いのに、妙に背の高い車両のバランスが崩れ、片側の前後車輪が宙に浮いた。思わず横倒しになりかけながらも、まったく動揺はしなかった。
溢れる程のアドレナリンが全身に行き渡り、目は血走り、みるみるステアリングを握る腕の血管が浮き出してくる。全身から血が溢れ出しそうだった。
(トミーが…。トミーが…。いや、トミーは俺を裏切らへん、トミーは…)
探知機の電波が到達するよりも早く、俺の急く気持ちはトミーの自宅へ向かっていた。
第11パケ【筋トレ中毒のシャブ屋】
「トミーの裏切り」
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