異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭

文字の大きさ
35 / 52
第一章 魔道都市ルーメンポートと魔族の影

#34「魔道都市ルーメンポートと、ごろつき騒動」

しおりを挟む
門を抜けた瞬間、巨大な大通りが目に飛び込んできた。

両脇では商人の呼び声が響き、杖やローブ姿の人影が行き交う。
ただ歩いているだけなのに、肌に魔力のざわめきが刺さるようで、他の町とは空気そのものが違っていた。

通り沿いには等間隔で街灯が立ち並ぶ。
昼間の今は光っていないが、魔道具仕掛けなのは一目で分かる。

そして正面にそびえるのは、空を貫くような巨大な塔。
都市のどこにいても目に入る象徴であり――ここが魔道都市ルーメンポートだと、嫌でも理解させられた。

塔を見上げて唖然としていると、横でチャピがくすりと笑った。

「どう? さすがに驚いたでしょう、これがルーメンポートよ」

人の波、魔力のざわめき、魔道具の数々。
確かに圧倒されるしかない光景だった。

チャピは得意げに肩を揺らすと、急に俺の袖を引っ張った。

「さ、まずは御飯にしましょ。ここの食堂は他の町とは一味違うわよ」

俺はため息をつきながらも、人の流れに押されるようにチャピのあとをついていった。

チャピに連れられて入ったのは、大通りから少し外れた洒落た店だった。
石造りの外壁に木の扉、窓からは柔らかな光が漏れている。

中へ足を踏み入れると、ほの暗い空間が広がっていた。
頭上にはランプのような器具が吊るされているが、火ではなく魔法の光が灯っている。
炎よりも落ち着いた、蝋燭とも違う柔らかさ――まるで月光を閉じ込めたようだった。

テーブルは磨き込まれた木製で、客たちは静かに食事を楽しんでいる。
店員の身なりも整っていて、街の喧噪から切り離されたような落ち着きがあった。

「……なるほどな。ここじゃ店内の照明まで魔法なのか」

俺がぼそっと呟くと、チャピが肩をすくめる。

「ここは魔道都市でも人気の店なのよ。せっかくだから食事を楽しみながら、今後のことを話しましょう」

背中のルミナスがふさを揺らし、店内の柔らかな光に同調するようにきらめいた。
まるでこの静かな空間を気に入ったとでも言うみたいに。

料理が運ばれてきて、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
チャピは香草の香りが漂うスープを味わいながら何気ない調子で口を開いた。

「さて、風の大陸に渡るには魔道飛行船を使うわけだけど――」
「…さっき見たバカでかい船か」

「そう。あれは五大陸に十隻しかない貴重なもの。だから出航は決まった日だけなの。
シルフィード行きは次の便で……五日後になるわ」

「五日後!?そんなに待つのかよ」

俺が思わず声を上げると、チャピはくすっと笑う。

「仕方ないわよ。船より早くて安全なんだから。
それに――せっかくの魔道都市よ。観光くらい楽しみましょう」

「観光……俺には縁がないな。水回りの汚れ掃除でもしてたほうが落ち着く」

ため息をつきつつも、周囲の華やぎに目を奪われる。
街のざわめきも、灯りの魔法も、見慣れぬ人々の姿も――掃除屋には縁遠すぎる景色だった。

食事を終えて店を出る。
俺たちは今夜の寝床を探すため、宿を探して街を歩き始めた。

その時だった。

路地の先で、荒っぽい声が耳に飛び込んでくる。

そちらを見ると二人のごろつきが、若い娘に絡んでいた。
娘は必死に睨み返してはいるが、声は震えている。

「いい加減に手放せよ。小娘が土地なんざ抱えてどうする」
「判を押せば楽になれるんだぜ」

娘は首を振るだけで、両手をぎゅっと握りしめていた。

通りを行き交う人々は足を速め、目を逸らす。
誰も助けようとはしない。

胸がざわついた。
止めろ、と頭のどこかが叫んでいるのに、足は勝手に前へ出ていた。

膝は笑い、心臓は喉までせり上がっている。
怖くて仕方がない――なのに、引き返せなかった。

「――闇にまみれた穢れよ! この俺が浄化してくれ、る……っ!」

足はがたがた震え、膝が今にも折れそうだ。
声も裏返っていて、途中で噛みそうになる。

それでも両腕を大きく広げ、胸を張ってみせる。

「ひっ……光は! 必ず闇を打ち払う!」

言葉とは裏腹に、肩は小刻みに揺れ、手のひらには冷や汗が滲んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

異世界転移魔方陣をネットオークションで買って行ってみたら、日本に帰れなくなった件。

蛇崩 通
ファンタジー
 ネットオークションに、異世界転移魔方陣が出品されていた。  三千円で。  二枚入り。  手製のガイドブック『異世界の歩き方』付き。  ガイドブックには、異世界会話集も収録。  出品商品の説明文には、「魔力が充分にあれば、異世界に行けます」とあった。  おもしろそうなので、買ってみた。  使ってみた。  帰れなくなった。日本に。  魔力切れのようだ。  しかたがないので、異世界で魔法の勉強をすることにした。  それなのに……  気がついたら、魔王軍と戦うことに。  はたして、日本に無事戻れるのか?  <第1章の主な内容>  王立魔法学園南校で授業を受けていたら、クラスまるごと徴兵されてしまった。  魔王軍が、王都まで迫ったからだ。  同じクラスは、女生徒ばかり。  毒薔薇姫、毒蛇姫、サソリ姫など、毒はあるけど魔法はからっきしの美少女ばかり。  ベテラン騎士も兵士たちも、あっという間にアース・ドラゴンに喰われてしまった。  しかたがない。ぼくが戦うか。  <第2章の主な内容>  救援要請が来た。南城壁を守る氷姫から。彼女は、王立魔法学園北校が誇る三大魔法剣姫の一人。氷結魔法剣を持つ魔法姫騎士だ。  さっそく救援に行くと、氷姫たち守備隊は、アース・ドラゴンの大軍に包囲され、絶体絶命の窮地だった。  どう救出する?  <第3章の主な内容>  南城壁第十六砦の屋上では、三大魔法剣姫が、そろい踏みをしていた。氷結魔法剣の使い手、氷姫。火炎魔法剣の炎姫。それに、雷鳴魔法剣の雷姫だ。  そこへ、魔王の娘にして、王都侵攻魔王軍の総司令官、炎龍王女がやって来た。三名の女魔族を率いて。交渉のためだ。だが、炎龍王女の要求内容は、常軌を逸していた。  交渉は、すぐに決裂。三大魔法剣姫と魔王の娘との激しいバトルが勃発する。  驚異的な再生能力を誇る女魔族たちに、三大魔法剣姫は苦戦するが……  <第4章の主な内容>  リリーシア王女が、魔王軍に拉致された。  明日の夜明けまでに王女を奪還しなければ、王都平民区の十万人の命が失われる。  なぜなら、兵力の減少に苦しむ王国騎士団は、王都外壁の放棄と、内壁への撤退を主張していた。それを拒否し、外壁での徹底抗戦を主張していたのが、臨時副司令官のリリーシア王女だったからだ。  三大魔法剣姫とトッキロたちは、王女を救出するため、深夜、魔王軍の野営陣地に侵入するが……

クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら

リヒト
ファンタジー
 現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。  そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。  その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。  お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。    ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。    お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?

処理中です...