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13.「仕事用兼霊柩車ならぬ、霊柩船ってわけさ」

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 告別式はつつがなくことが運んだ。
 東京のそれとのちがいは規模が小さいだけで、さほど変わりはなかった。
 故人が事故死したわりには、湿っぽくない式だった。雨だけが泣いていた。

 喪主をつとめた咲希の兄、清彦があいさつを述べたあと、いよいよ出棺の時間となった。
 棺を運ぶため、親族や会葬者の男たちが名乗り出たが、どの面々も高齢者ばかりだった。見ているだけは忍びなく、交野も担ぐことにした。

 祭壇のまえに鎮座されていた白木の棺が男衆らによって送り出されて、縁側から外へおろされた。
 葬列を組み、敷地内を3周まわったあと、宮型霊柩車の棺室におさめられた。
 こぬか雨が降りそぼるなか、黒塗りの車が長々とクラクションを鳴らした。

 エンジンがかけられ、発車した。助手席には母、みすずが同乗している。
 霊柩車の後続についた乗用車では、清彦がハンドルをにぎり、咲希と交野がうしろの座席についた。
 2台の車は、町へ来るときに通ったマンゴー農園の街道とは別の方向をたどった。
 車内では清彦と咲希が、このあとの打ち合わせをしただけで沈黙が落ちた。
 ワイパーが往復する音に眠気を憶えた交野は、わずかのあいだまどろんだのだった。



 山を3つ越え、つづら折りの山道をくだり、海岸線を走ると、ほどなく昨日の漁港に着いた。
 コの字に湾になった埠頭沿いをたどると、霊柩車がすでに到着しているのが見える。
 車内のドライバーと、外で傘をさした喪服姿の男が話し込んでいた。
 傘をさした方は平泉だった。
 平泉はくわえタバコのまま、手をあげてきた。

 かたわらには、曳網ひきあみ漁船『第一渡海丸』が灰色の凪いだ海上に停泊していた。
 操舵室のうしろの窓には忌中と書いた半紙が貼られ、主だった漁具は船からはずされていた。
 すでにディーゼルエンジンが回転しており、茶髪の若い漁師が二人、船室のなかで所在なく壁にもたれていた。

 交野たち三人は車からおりた。霊柩車のドライバーも出てきた。
 車窓を開けたみすずが顔を出し、

「平泉さん、あとはよろしくお願いしますね。子供たちにまかせますわ」と、言った。

 平泉はタバコを捨てると、傘をとじ、

「あいさつは抜きです。さっき済ませたばかりだしね。男どもがそろったことだし、早いとこ運ぼうか。あんたもよろしくな」と、早口で言い、交野を指さした。「まずは棺をおれの船に乗せる。おれの船は、仕事用兼霊柩車ならぬ、霊柩船ってわけさ」
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