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黒馬と悪夢
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テンはユキとナツと一緒に黒馬を街から離れた森に帰す為の策を聞いていた
「私とテンは囮になって遠くの森まで黒馬を誘導する」
「わかった」
「私が道を照らして案内するね」
「方向を間違えないでよナツ
何かあったら私も助けにはいる、時間はあまりないわ」
「大丈夫だよユキ姉、黒馬を早く起こそう」
テンは懐刀を取り出しながら黒馬に近づき
黒馬の口元に腕を近づけ
腕を浅く斬りつけた
「なに考えてんの」
慌てるナツにテンは平然と答える
「僕の血は特別なんだ、生き血には癒しの力がある」
血を黒馬の口元に垂らした
「そんな血があるのかしら」
ユキは引いている
数滴の血が黒馬に馴染み
黒馬は目を大きく開いた
思色の瞳がテンを見上げ
テンと目が合った瞬間
その瞳はテンを連れ去る
夜の森の中に建つ一軒の簡素な造りな小屋
閉められた赤いカーテン
中では美しい女性が一人で怯えている
大きく張ったお腹を抱き
目には恐怖が滲んで
背中に白い翼を持つ
妊婦の天使
お腹を抱く手には輝石が握れ
明かりは輝石とカーテンの隙間から漏れる月光のみ
これは夢?
まずい油断した、これ程の幻術が使えるなんて
テンには幻術にも耐性があり
黒馬にそれ以上の幻術を使えないと高を括っていた
意識を失ったテンが倒れそうになるのをユキがすかさず受け止め
抱えたまま後ろに下がった
ゆっくりと辛そうに黒馬が体を起こす
幻術を使った左目は潰れていた
「まったく早々に迷惑かけてんじゃないわよ」
「テン死んじゃったの?」
「いやいや生きてるわよ、でも意識が無いわ
幻術にかけられてるみたい」
「おかしいよユキ姉、黒馬は幻術で悪夢を見せる事はあるけど
こんなに強い幻術じゃないよ、私たちの魔法じゃ防げないし
それにあんな目の色は聞いたことがないよぉ」
気を立てている黒馬を前にして
慌てるナツにユキは冷静になりどうするかを伝える
「ナツ、黒馬は幻術を使う時に目に大量の魔力を集中させていたわ
そして幻術を使った左目は潰れている
おそらくは使えてもあと一回が限界なはず、だけど」
「なら目を使えなくすればいいんだ」
「そうよ」
ユキは腕で目を隠し
ナツは黒馬に向けて魔法を放つ
光炎詐
パッと一瞬昼間のように明るく照らし
黒馬の目を眩ませ
膝をつかせた
「どうよユキ姉」
膝をつき辛そうにする黒馬は
どこか様子がおかしい
「ナツ黒馬の繁殖期がいつかわかる?」
テンは悪夢にいるだけだった
何にも触れる事も出来ず
声を掛ける事も聞く事も出来ず
その妊婦の天使の女性から認識される事もない
ただ見ているだけだった
女性は恐るおそる窓に近づき
カーテンをほんの少し開けて覗くと白い人影
咄嗟にカーテンを閉じて手を引いた
だがもう一度恐るおそる覗く
ソイツはこちら向いた
この小屋に向かってくる
女性は怯えることしか出来ない
ドアを蹴破り
ソイツは月光を背に入ってくる
天使の翼こそあるが神聖さはない
狂気の刻まれた顔をした男
獣のようなその怪物は刀を抜いた
テンはその刀が自分の持っている刀と同じだと気付いた
それと同時にカーテンの隙間から
黒馬が覗いているのがわかった
女性は壁にへたり込み抵抗できず
震えてお腹を庇っている
刀が大きく張ったお腹に突き刺さる
女性の顔から美は消え醜悪とも言える顔に変わり
赤子が生き絶えるのどうする事も出来ず
産んであげる事の出来ないことを懺悔する
怪物は去る
刺さった刀をそのままに
なにか解放された様に
虚ろな目で夜の闇に消えていく
女性は血に染まっていくお腹を撫で続ける
産まれも出来ない我が子への愛は
冷たい刃を通して子に伝わる
テンは自分の刀から温もりを感じた
何故かは分からなかった
刺さった刀はその特別な血を啜っている
真の主を見つけたのだ
蹴破られたドアからの月光で
嬉しそうに刀身が艶めいている
女性の絶望に染まった目から光が消えた
テンの胸は強く締め付けられ
その目には無力さと奥で息巻く怒りが滲む
覗いていていた黒馬が入ってきた
テンを一目見る
それは同情の眼差し
血を啜る刀を抜き捨て
血に染まっている腹から赤子を取り出し
そっと母の上に座らせる
テンはその瞬間その血塗られた赤子こそが
自分だと直感した
赤子の傷は治りかけている
母の血はテンと同じで傷を癒やす
母さん
目の前で死んでいるのが母親だと今更気づくテンに
赤子は何も言わず
テンをじっと瞬きもせず
目を見開いて見つめている
テンの心の内にある
不安や恐怖を体現した様な表情で
その目は何を見透かしている?
悪夢は覚め
テンは意識が朦朧としていた
動きだしたテンは抱えていたユキから落とされた
「あっごめんなさい
急に動きだすから」
「大丈夫?テン
死んじゃったかと思ったんだからね」
黒馬は落ち着きを取り戻しているが
息は絶え絶えであった
だがテンに慰める様な表情を浮かべ
優しく顔を擦り寄らせようとしていた
意識が朦朧としていたテンもよろめきながらも
ナツの手を借りて立ち上がり
黒馬に近づこうとした
黒馬の悲痛な叫びが森に響く
黒馬は頭を撃ち抜かれ
テンの前で地にふした
三人は呆然とした
すると茂みから兵隊達が出てきた
「ユキとナツ久しぶりだね」
その兵隊の隊長が話し始める
ユキとナツは誰だかわかったり
だいたいの状況を理解したが
意識が朦朧としていたテンにはわからなかった
「また名を上げたな
ところでこの子は誰だい?」
「テンよ、ちょっと手伝いをしてもらってたの」
ユキがそう答えた
「君もギルドからの派遣か
ユキとナツに協力して黒馬を誘導してくれてたんだね
ありがとう
君達のおかげで街を守れたよ」
何か言ってるみたいだ
意識が朦朧としてよく分からない
下に転がった馬の顔は母と重なった
刀に手を掛けようとした瞬間
ナツが手を取った
「この子黒馬に悪夢を見せられて朦朧してるみたいなの」
テンはユキとナツに連れられて街へと向かった
「私とテンは囮になって遠くの森まで黒馬を誘導する」
「わかった」
「私が道を照らして案内するね」
「方向を間違えないでよナツ
何かあったら私も助けにはいる、時間はあまりないわ」
「大丈夫だよユキ姉、黒馬を早く起こそう」
テンは懐刀を取り出しながら黒馬に近づき
黒馬の口元に腕を近づけ
腕を浅く斬りつけた
「なに考えてんの」
慌てるナツにテンは平然と答える
「僕の血は特別なんだ、生き血には癒しの力がある」
血を黒馬の口元に垂らした
「そんな血があるのかしら」
ユキは引いている
数滴の血が黒馬に馴染み
黒馬は目を大きく開いた
思色の瞳がテンを見上げ
テンと目が合った瞬間
その瞳はテンを連れ去る
夜の森の中に建つ一軒の簡素な造りな小屋
閉められた赤いカーテン
中では美しい女性が一人で怯えている
大きく張ったお腹を抱き
目には恐怖が滲んで
背中に白い翼を持つ
妊婦の天使
お腹を抱く手には輝石が握れ
明かりは輝石とカーテンの隙間から漏れる月光のみ
これは夢?
まずい油断した、これ程の幻術が使えるなんて
テンには幻術にも耐性があり
黒馬にそれ以上の幻術を使えないと高を括っていた
意識を失ったテンが倒れそうになるのをユキがすかさず受け止め
抱えたまま後ろに下がった
ゆっくりと辛そうに黒馬が体を起こす
幻術を使った左目は潰れていた
「まったく早々に迷惑かけてんじゃないわよ」
「テン死んじゃったの?」
「いやいや生きてるわよ、でも意識が無いわ
幻術にかけられてるみたい」
「おかしいよユキ姉、黒馬は幻術で悪夢を見せる事はあるけど
こんなに強い幻術じゃないよ、私たちの魔法じゃ防げないし
それにあんな目の色は聞いたことがないよぉ」
気を立てている黒馬を前にして
慌てるナツにユキは冷静になりどうするかを伝える
「ナツ、黒馬は幻術を使う時に目に大量の魔力を集中させていたわ
そして幻術を使った左目は潰れている
おそらくは使えてもあと一回が限界なはず、だけど」
「なら目を使えなくすればいいんだ」
「そうよ」
ユキは腕で目を隠し
ナツは黒馬に向けて魔法を放つ
光炎詐
パッと一瞬昼間のように明るく照らし
黒馬の目を眩ませ
膝をつかせた
「どうよユキ姉」
膝をつき辛そうにする黒馬は
どこか様子がおかしい
「ナツ黒馬の繁殖期がいつかわかる?」
テンは悪夢にいるだけだった
何にも触れる事も出来ず
声を掛ける事も聞く事も出来ず
その妊婦の天使の女性から認識される事もない
ただ見ているだけだった
女性は恐るおそる窓に近づき
カーテンをほんの少し開けて覗くと白い人影
咄嗟にカーテンを閉じて手を引いた
だがもう一度恐るおそる覗く
ソイツはこちら向いた
この小屋に向かってくる
女性は怯えることしか出来ない
ドアを蹴破り
ソイツは月光を背に入ってくる
天使の翼こそあるが神聖さはない
狂気の刻まれた顔をした男
獣のようなその怪物は刀を抜いた
テンはその刀が自分の持っている刀と同じだと気付いた
それと同時にカーテンの隙間から
黒馬が覗いているのがわかった
女性は壁にへたり込み抵抗できず
震えてお腹を庇っている
刀が大きく張ったお腹に突き刺さる
女性の顔から美は消え醜悪とも言える顔に変わり
赤子が生き絶えるのどうする事も出来ず
産んであげる事の出来ないことを懺悔する
怪物は去る
刺さった刀をそのままに
なにか解放された様に
虚ろな目で夜の闇に消えていく
女性は血に染まっていくお腹を撫で続ける
産まれも出来ない我が子への愛は
冷たい刃を通して子に伝わる
テンは自分の刀から温もりを感じた
何故かは分からなかった
刺さった刀はその特別な血を啜っている
真の主を見つけたのだ
蹴破られたドアからの月光で
嬉しそうに刀身が艶めいている
女性の絶望に染まった目から光が消えた
テンの胸は強く締め付けられ
その目には無力さと奥で息巻く怒りが滲む
覗いていていた黒馬が入ってきた
テンを一目見る
それは同情の眼差し
血を啜る刀を抜き捨て
血に染まっている腹から赤子を取り出し
そっと母の上に座らせる
テンはその瞬間その血塗られた赤子こそが
自分だと直感した
赤子の傷は治りかけている
母の血はテンと同じで傷を癒やす
母さん
目の前で死んでいるのが母親だと今更気づくテンに
赤子は何も言わず
テンをじっと瞬きもせず
目を見開いて見つめている
テンの心の内にある
不安や恐怖を体現した様な表情で
その目は何を見透かしている?
悪夢は覚め
テンは意識が朦朧としていた
動きだしたテンは抱えていたユキから落とされた
「あっごめんなさい
急に動きだすから」
「大丈夫?テン
死んじゃったかと思ったんだからね」
黒馬は落ち着きを取り戻しているが
息は絶え絶えであった
だがテンに慰める様な表情を浮かべ
優しく顔を擦り寄らせようとしていた
意識が朦朧としていたテンもよろめきながらも
ナツの手を借りて立ち上がり
黒馬に近づこうとした
黒馬の悲痛な叫びが森に響く
黒馬は頭を撃ち抜かれ
テンの前で地にふした
三人は呆然とした
すると茂みから兵隊達が出てきた
「ユキとナツ久しぶりだね」
その兵隊の隊長が話し始める
ユキとナツは誰だかわかったり
だいたいの状況を理解したが
意識が朦朧としていたテンにはわからなかった
「また名を上げたな
ところでこの子は誰だい?」
「テンよ、ちょっと手伝いをしてもらってたの」
ユキがそう答えた
「君もギルドからの派遣か
ユキとナツに協力して黒馬を誘導してくれてたんだね
ありがとう
君達のおかげで街を守れたよ」
何か言ってるみたいだ
意識が朦朧としてよく分からない
下に転がった馬の顔は母と重なった
刀に手を掛けようとした瞬間
ナツが手を取った
「この子黒馬に悪夢を見せられて朦朧してるみたいなの」
テンはユキとナツに連れられて街へと向かった
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