悪役令嬢の新しい復讐!婚約破棄、感謝いたします! 

桃瀬ももな

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アルトワーズ大公領へと向かう馬車の中。
 
 最新の魔導サスペンションを搭載した揺れの少ない車内で、私はレオナード閣下と対面に座っていた。
 
 テーブルの上には、彼が持参した大公領の「門外不出」の財務諸表が積み上がっている。
 
「……。……。……。ねえ、閣下。一つ聞いてよろしいかしら」
 
 私は最後の一枚を読み終え、眉間にシワを寄せて彼を睨んだ。
 
「なんだ。不足している資料があるか?」
 
「いいえ。不足しているのは『正気』ですわ。なぜ貴方の国は、これほど膨大な余剰資金があるのに、わざわざ市場から高い利息で借金をしているの?」
 
 レオナード閣下は能面のような顔のまま、少しだけ視線を逸らした。
 
「……我が国の長老たちが、『非常時のための備蓄金には指一本触れてはならぬ』と主張して譲らないのだ。結果として、現金は金庫で眠り、事業資金は外部から調達するという歪な形になっている」
 
「馬鹿げていますわ。金庫で眠っている金は、ただの重たい金属です。呼吸を止めている経済なんて、死体も同然よ」
 
 私は手帳を取り出し、閣下の目の前で数字をガリガリと書き換えていく。
 
「この『死蔵金』を担保にして、金利ゼロの内製ローンを組みなさい。それだけで年間数億ゴルドの利息支払いが消える。その浮いた金で、まずは領内の関税を撤廃するの。そうすれば、商流が加速して、最終的な税収は三割増しになりますわ」
 
「……そんな短期間で成果が出るものか?」
 
「私を誰だと思っているの? 王宮という名の底なし沼を三年間支え続けた、最強の掃除屋よ」
 
 馬車が止まる。
 
 扉が開くと、そこには「氷の大公領」と呼ばれるにふさわしい、整然とした、しかしどこか冷え冷えとした都が広がっていた。
 
 出迎えた大公領の重鎮たちが、馬車から降りた私を見て、あからさまに不快そうな顔を浮かべる。
 
「閣下、正気ですか! 隣国の、それも婚約破棄されたような小娘を、我が国の経済顧問に招くなど!」
 
 先頭に立っていた白髪の老貴族が、杖を突きながら叫んだ。
 
 私はレオナード閣下が口を開くより早く、優雅に一歩前へ出た。
 
「『小娘』ではなく『コンサルタント』とお呼びなさい、おじい様。貴方がその立派な髭を整えるのに使っている鏡の輸入関税、私が今この瞬間に三倍に跳ね上げることも可能ですのよ?」
 
「な……、何を無礼な!」
 
「無礼なのは、初対面の専門家に対して実績も確認せず偏見をぶつける貴方の脳細胞ですわ。……閣下、まずはこのおじい様の役職の『無駄』から査定してもよろしいかしら?」
 
 レオナード閣下は、私の背後でわずかに口角を上げた。
 
「許可する。カタリア、好きにやれ。責任は私が持つ。……利益は君が作れ」
 
「仰せのままに、私の愛しのクライアント様」
 
 私は扇子を翻し、威厳たっぷりに城の廊下を歩き出した。
 
 後ろでハンスが「……やれやれ、この国の古狸たちも、今日が命日ですな」と楽しそうに呟いている。
 
 王宮のような「無能な身内」の尻拭いではない。
 
 ここは、合理主義者の大公がバックについた、私のための巨大な実験場だ。
 
(さあ、効率化の嵐を吹かせてあげるわ。……覚悟なさい、不効率な既得権益者たち!)
 
 私の鼻歌混じりの宣戦布告は、冷たい大公領の空気を熱く切り裂いていった。
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