悪役令嬢の新しい復讐!婚約破棄、感謝いたします! 

桃瀬ももな

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カタリアが去り、静寂が訪れるはずだった王宮は、別の意味で連日「賑やか」だった。
 
 その中心にいるのはもちろん、新しく王太子妃の座に(暫定的に)納まったリリア・ノースである。
 
「ねえ、セドリック様ぁ。このお城、なんだか地味だと思いませんこと?」
 
 リリアは、金糸の刺繍が施された高価なソファーに深々と腰掛け、扇子をパタパタと仰ぎながら不満げに口を尖らせた。
 
 彼女の目の前には、連日の心労で体重が五キロは落ちたであろうセドリックが、力なく座っている。
 
「地味、か? これでも五百年以上の歴史を誇る、我が国の誇りなのだが……」
 
「歴史なんて、ただの古臭い言い訳ですわ! もっとこう、私にふさわしい輝きが欲しいんですの。例えば……そう! お城の広場に、私の等身大の純金像を建てるのはどうかしらぁ?」
 
 セドリックの耳に、あり得ない単語が飛び込んできた。
 
「じ、純金像……? リリア、それはさすがに……」
 
「あらぁ。セドリック様は、私の美しさを後世に残したくないんですのね? カタリア様を追い出した時は『リリアこそが真の王妃だ』って言ってくださったのに。ひどいわぁ、シクシク……」
 
 リリアがわざとらしくハンカチを目元に当てると、セドリックは慌てて彼女の手を取った。
 
「わ、分かった! 泣かないでくれ、リリア。純金像だな。よし、検討しよう」
 
「検討じゃなくて、即決ですわ! 明日の朝には工事を始めてくださいませ。タイトルは『王国を照らす慈愛の聖女・リリア像』で決まりですわね!」
 
 リリアが上機嫌で部屋を飛び出していった直後、扉の影で控えていた財務卿が、幽霊のような足取りで姿を現した。
 
「……殿下。今、聞き捨てならない単語が聞こえましたが。……純金像、ですか?」
 
「あ、ああ。リリアがどうしてもと言うのだ。……なんとかならんか?」
 
「なんとかなるわけがないでしょう!!」
 
 財務卿の怒号が、ひび割れた天井を震わせた。
 
「殿下、いい加減に現実を見てください! 今、我が国の国庫にあるのは、リリア様が昨日のおやつに召し上がった最高級マカロンの『領収書』だけですぞ!」
 
「うるさい! マカロンくらい、誤差の範囲だろう!」
 
「その誤差が積み重なって、今や他国からの借金は山のように積み上がり、利子だけで国家予算の半分が消えているのです! 純金像など建てようものなら、その瞬間にこの国は競売にかけられますわ!」
 
 財務卿は床に膝をつき、必死に訴えた。
 
 だが、セドリックの脳内は、リリアの機嫌を損ねることへの恐怖で埋め尽くされている。
 
「……ならば、純金ではなく、石像に金箔を貼るくらいならどうだ? それなら安く済むだろう」
 
「金箔一枚買う金もないと申し上げているのです! ……ああ、カタリア様……カタリア様さえいれば……あの方なら、リリア様を『不採算資産』として即座に国外追放してくださったのに……!」
 
「あのアマの名前を出すな! ……ええい、こうなったら最終手段だ。街の広場にある『初代国王の銅像』を溶かせ! あれをリリアの形に作り直せば、材料費はタダだろう!」
 
「初代国王を……潰すのですか……?」
 
 財務卿の顔から血の気が引いた。
 
 それはもはや、政治的判断ではなく、国家としての尊厳を捨てる行為だ。
 
 だが、セドリックは止まらなかった。
 
「そうだ! 名案だろう? これぞ『既存資産の有効活用』というやつだ! カタリアもよく言っていたではないか、無駄なものは再利用しろと!」
 
「……。……。……承知いたしました。もう、好きになさいませ……」
 
 財務卿は、すべてを諦めたような表情で辞表……ではなく、工事の指示書を書き始めた。
 
 数日後、王宮広場からは初代国王の威厳ある姿が消え、代わりに、どこか造形が不安定で、表面だけが不自然に光る「リリア像」が立ち上がった。
 
 国民たちは、その異様な光景を見て絶句した。
 
「……おい、あれを見ろ。俺たちの税金が、あんな『成金の置物』に変わっちまったぞ」
 
「初代様を潰すなんて、この国も終わりだな……」
 
 国民の不満という名の「負債」が、目に見える形で蓄積されていく。
 
 一方のリリアは、自分の像の前でくるくると踊り、ご満悦だった。
 
「うふふっ、素敵! でも、やっぱり足元が寂しいわねぇ。次は、私の靴を飾るための専用の神殿が欲しいわぁ、セドリック様!」
 
 暴走するリリアと、それを止められないセドリック。
 
 崩壊へのカウントダウンは、もはや止める者のない速さで刻まれていた。
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