悪役令嬢の新しい復讐!婚約破棄、感謝いたします! 

桃瀬ももな

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大公領の執務室。私は、窓の外で慌ただしく動き回る軍部の人々を横目に、卓上の計算機をリズミカルに叩いていた。
 
 カチャカチャ、という軽快な音が、レオナード閣下の淹れてくれた極上のハーブティーの香りと混じり合う。
 
「……。……。……よし。これで、母国の全負債の八割を、私のダミー会社経由で買い取り完了したわ」
 
 私が満足げにペンを置くと、背後で地図を眺めていたレオナード閣下が、信じられないものを見るような目でこちらを振り向いた。
 
「……カタリア。君は、自分の母国を『武力』ではなく『帳簿』で占領するつもりか?」
 
「占領だなんて人聞きの悪い。私はただ、市場に流通している不良債権を整理しただけですわ。……見てください、このグラフ。セドリック殿下がリリア様のために乱発した王室債券、今や額面の二パーセントまで価値が暴落していますのよ。おかげで、二束三文で買い集めることができましたわ」
 
「二パーセント……。もはや紙屑ではないか」
 
「ええ。ですが、この紙屑には『王家が発行した債務』という法的な効力が残っています。……閣下、私が何を企んでいるか、お分かり?」
 
 私は、手に持っていた債権の束を扇子のように広げて見せた。
 
「……債務不履行(デフォルト)を宣言した王国に対し、君は『筆頭債権者』として乗り込むというわけか」
 
「正解ですわ。向こうが私を国家反逆罪に仕立てたのは、私の資産を没収して借金を帳消しにしようとしたから。ならば、私はその借金そのものを『買い取る』ことで、彼らの生殺与奪の権を握る。これぞ、究極のM&A(買収)ですわ」
 
 私は不敵な笑みを浮かべ、新しい書類を閣下に提示した。
 
「これが、私からの提案書です。タイトルは『王国再建に伴う資産譲渡および経営権の移転に関する合意書』。……あ、もちろん、セドリック殿下とリリア様には、相応の『退職パッケージ』を用意しておりますわよ」
 
「……退職パッケージ?」
 
「ええ。炭鉱での強制労働による、負債の物理的な返済プランですわ。彼らの消費したゴルドを、一粒の汗で返していただく。これほど公正な取引(フェア・トレード)はありませんでしょう?」
 
 レオナード閣下は、少しの間絶句した後、深いため息をついた。
 
「……恐ろしい女性だ。君を敵に回さなかった過去の自分を、最大級に褒めてやりたい」
 
「あら、閣下は私のパートナーですもの。この買収が完了したら、王国の港湾権と鉱山採掘権を、大公領に格安でリースいたしますわ。……これで、閣下の国の経済成長率は来期、五パーセントは上振れするはずよ」
 
「……。……。ああ、感謝する。だが、一つだけ聞かせてくれ。君は本当に、あの国に未練はないのか? あそこには君の実家もあるのだぞ」
 
「お父様なら大丈夫ですわ。先日、極秘にメッセージを送りました。『公爵家の資産をすべて隣国の銀行に移せ。城は私が買い戻すから、それまで修道院でバカンスでもしていろ』と」
 
 私はティーカップを傾け、優雅に一口飲んだ。
 
「……カタリア。君の『計算通り』という言葉、もはや天啓のように聞こえてきたよ」
 
「ふふっ。さて、閣下。準備は整いましたわ。……明日の朝、隣国の国境が開くと同時に、私は『取り立て屋』として帰還します。大公軍の精鋭には、戦闘ではなく『差し押さえ物件の警備』をお願いしてもよろしいかしら?」
 
「ああ。世界で最もエレガントで、最も冷酷な債権回収に、喜んで加担しよう」
 
 閣下は私の手を取り、その甲に誓いのキスを落とした。
 
 窓の外では、月が冷たく輝いている。
 
 明日、あの国から「王家」という名の巨大な不良資産が消える。
 
 すべては、私の知性と、ほんの少しの復讐心が生み出した、完璧なシナリオの通りに。
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