悪役令嬢の新しい復讐!婚約破棄、感謝いたします! 

桃瀬ももな

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「さあ、業務を開始しましょう。ハンス、執行官たちを呼びなさい」
 
 私の号令とともに、大公領の事務官と武装した執行官たちが、整然と玉座の間へ踏み込んできた。
 
 彼らの手には、赤い『差し押さえ票』の束が握られている。
 
「な、何をする! やめろ! その花瓶は初代国王が愛した……!」
 
「『愛した』という付加価値は、市場では一ゴルドにもなりませんわ。素材としての磁器の価値と、歴史的資料としての鑑定額を合算して……はい、これ。差し押さえです」
 
 執行官が、セドリックが縋り付いていた青磁の花瓶に容赦なく赤い紙を貼り付ける。
 
 セドリックは腰を抜かしたまま、自分の周りで次々と「私物」が「債権」へと変わっていく様子を、ただ呆然と眺めていた。
 
「カ、カタリア様ぁ! 私のこのドレスは!? これ、特注なんですのよ! 脱げなんて言わないわよねぇ!?」
 
 リリア様が、自分のふんわりとしたスカートを必死に押さえる。
 
 私は彼女を頭の先から足の先まで、冷徹な査定の目で見つめた。
 
「……そのドレスの生地、リリカル産の上質なシルクね。それから胸元のその真珠……。残念ながら、それも私の店からの未払い品リストに載っていますわ。つまり、所有権は最初から私にあるということです」
 
「ええっ!? そ、そんなの……!」
 
「ハンス、リリア様に『代替品』を」
 
 ハンスが差し出したのは、麻で編まれたゴワゴワの、いかにも丈夫そうな農作業着だった。
 
「失礼します、リリア様。現在の貴女の経済状況では、その豪華なドレスの維持費(クリーニング代)を捻出できません。こちらの『耐久消費財』への着替えをお願いします。……ああ、その場ではしたないので、あちらの遮蔽物の裏でどうぞ」
 
「嫌ぁあ! こんなの、雑巾じゃないのぉ!」
 
 リリア様は泣き叫びながら、執行官たちに抱えられて部屋の隅へと運ばれていった。
 
 次は、セドリック殿下の番だ。
 
 私は彼の前に歩み寄り、指をパチンと鳴らした。
 
「殿下。その指輪、それからその金の刺繍が入った上着。……すべて、没収です」
 
「き、貴様……! 私を裸にするつもりか! 王族に対する侮辱だぞ!」
 
「いいえ。資産の適正な再分配ですわ。……閣下、殿下のそのマント、何かに使えそうですかしら?」
 
 レオナード閣下は、セドリックの赤いマントを一瞥し、鼻で笑った。
 
「……。……生地は悪くない。我が国の軍馬の、冬用の寝床にでも敷いてやれば丁度いいだろう」
 
「名案ですわね。馬の方が、よっぽど生産的に働いてくれますもの」
 
「……っ! 馬の寝床だと!? 私のマントを……!」
 
 セドリックは顔を真っ赤にして叫んだが、次の瞬間には執行官たちによって、上着もマントも剥ぎ取られていた。
 
 残されたのは、薄汚れた下着姿の「ただの男」だ。
 
 権威という鎧を脱がされた彼は、驚くほど小さく、そして頼りなく見えた。
 
「……さて。これで目に見える資産の回収は終わりましたわ。残るは、貴方たちの『労働力』という名の将来債権です」
 
 私は手帳を閉じ、冷たく言い放った。
 
「セドリック様。貴方には、大公領の北部、魔導鉄道の線路敷設現場での『石運び』を。リリア様には、同じく北部の開拓村での『害虫駆除』を、それぞれ命じます」
 
「い、石運び……? この私が、ドカタのような真似を……?」
 
「体を動かすことは、不健康な精神を矯正するのに最適ですわ。……安心なさい。ノルマを達成すれば、温かいスープと黒パンだけは保証してあげますわよ」
 
 かつて彼らが私に言い放った「追放」という言葉。
 
 私はそれを、より合理的で、より建設的な「更生プログラム」としてお返しした。
 
「ハンス、二人を移送車両へ。……ああ、それから広場のあの『リリア像』。あれはすぐに溶かして、公共施設の水道管の修理資材に回してちょうだい。偽物の金でも、鉛よりは役に立つでしょう」
 
「承知いたしました、カタリア様」
 
 セドリックとリリアが、情けない悲鳴を上げながら引きずられていく。
 
 扉が閉まり、静寂が戻った玉座の間で、レオナード閣下が私の隣に立った。
 
「……。……。徹底しているな。だが、あれが最も彼らのためになる処分だろう。……ところで、カタリア」
 
「何かしら、閣下」
 
「差し押さえリストの中に、一つだけ漏れがあるように思うのだが」
 
 閣下は不意に、私の手首を優しく掴んだ。
 
「……? 何が漏れていますの? 計算は完璧だったはずですが」
 
「……私の『心』だ。君に完全に独占され、差し押さえられている。……これの償還期限は、いつになるのだ?」
 
 ……。
 
 ……。
私は、思わず計算機を落としそうになった。
 
 この能面大公。資産回収の真っ只中に、何を不合理なことを言っているのかしら。
 
「……。……。償還期限などありませんわ。永久債として、私の手元で一生管理させていただきます」
 
「……。……ふ。……最高に厳しい条件だな。……気に入った」
 
 私たちは、荒れ果てた玉座の間で、不敵な笑みを交わした。
 
 王国の再建は、まだ始まったばかり。
 
 そして、私の新しい「共同事業」もまた、これからが本番なのだ。
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