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「……却下です。閣下、正気ですか? この披露宴の予算案、ゼロが二つも多いですわよ」
私は王宮の私室で、レオナード閣下が提示してきた『世紀の成婚パレード実施計画書』を突き返した。
そこには、隣国から取り寄せた最高級の絹、街中に振る舞われる酒と肉、さらには魔導師たちを総動員した空中庭園の設営など、非合理の極致とも言える支出が並んでいた。
「カタリア。これは無駄遣いではない。投資だ」
閣下は能面のような顔のまま、しかし確固たる意志を込めて言い切った。
「投資? ただ一日、贅沢な食事をして着飾るだけのイベントに、何のリターン(見返り)があるとお仰るの?」
「広報戦略だ。……いいか、この国は一度破綻した。国民は未来に絶望し、近隣諸国はハイエナのように領土を狙っている。そこで、私が君を『最大級の礼遇』で迎える姿を見せつける。それは即ち、我が大公領の圧倒的な財力と、新体制の安定を世界に知らしめるデモンストレーション(示威行為)になる」
……。
……。
私は、ぐうの音も出なかった。
「……。……。なるほど。『ヴェブレン効果(見せびらかしの消費)』を逆手に取った、国際的な信用補完というわけね」
「そうだ。カタリア。君という『唯一無二の国益』を手に入れた私が、ケチな式を挙げてみろ。市場は『大公領も実は資金繰りが苦しいのではないか』と勘繰り、株価も通貨価値も暴落するだろう。それは君の望むところか?」
「……。……。……いいえ。私の資産価値が下がるような真似は、プロとして許容できませんわ」
私は悔しいことに、彼の論理に納得せざるを得なかった。
「よし。理解してくれたようで何よりだ。……では、このダイヤモンド百個付きの特注ウェディングドレスも、必要経費として承認してもらえるな?」
「……。……。それに関しては、まだ議論の余地がありますわ。ダイヤモンドは資産としての流動性は高いですが、ドレスに縫い付けてしまったら加工賃の分だけ目減りします。せめて取り外し可能な装飾にして、式が終わったら金庫に保管すべき……」
「カタリア」
レオナード閣下は、私の言葉を遮り、不意に私の腰を引き寄せた。
至近距離で見つめられる氷の瞳。そこには、経営学的な合理性とは全く別の「熱」が宿っている。
「……。……。な、なんですの」
「戦略だの広報だのと並べ立てたが……。……本当は、ただ君を、世界で一番美しく飾り立てたいだけなんだ」
「……。……。……は?」
「私はこれまで、自分自身の感情に一銭の価値もつけてこなかった。だが、君を笑顔にするためなら、大公領の国家予算を半分溶かしても惜しくないと思っている。……これは、私の人生で初めての『非合理な浪費』だ。許してくれないか?」
……。
……。
……反則だわ。
冷徹な合理主義者が、こんなに切なそうな顔で「贅沢をさせてくれ」と頼んでくるなんて。
「……。……。……。閣下。貴方は、本当にとんでもない不良債権(ひと)ね」
私は彼の胸に顔を埋め、小さくため息をついた。
「いいでしょう。その『非合理な浪費』、私が最高に効率よく演出して差し上げますわ。……ただし、ダイヤモンドは八十個に減らして。その分、余った予算で国民に『再建記念のパン』を配ります。その方が、将来的な支持率向上(バリューアップ)に繋がりますから」
「……。……ふ。妥協案としては完璧だ。……愛しているよ、カタリア」
「……。……。私も、その……貴方の『判断力』だけは、高く評価していますわ」
私が顔を真っ赤にして答えると、閣下は満足げに私の額に口付けた。
かつて、セドリック殿下から「可愛げのない女」と切り捨てられた私は、今、世界で最も高く、そして最も深く、一人の男に「査定」されている。
愛という名の最大予算(ビッグバジェット)。
それをどう運用していくか。
私たちの「共同事業」は、いよいよ最高潮の式典へと向かおうとしていた。
私は王宮の私室で、レオナード閣下が提示してきた『世紀の成婚パレード実施計画書』を突き返した。
そこには、隣国から取り寄せた最高級の絹、街中に振る舞われる酒と肉、さらには魔導師たちを総動員した空中庭園の設営など、非合理の極致とも言える支出が並んでいた。
「カタリア。これは無駄遣いではない。投資だ」
閣下は能面のような顔のまま、しかし確固たる意志を込めて言い切った。
「投資? ただ一日、贅沢な食事をして着飾るだけのイベントに、何のリターン(見返り)があるとお仰るの?」
「広報戦略だ。……いいか、この国は一度破綻した。国民は未来に絶望し、近隣諸国はハイエナのように領土を狙っている。そこで、私が君を『最大級の礼遇』で迎える姿を見せつける。それは即ち、我が大公領の圧倒的な財力と、新体制の安定を世界に知らしめるデモンストレーション(示威行為)になる」
……。
……。
私は、ぐうの音も出なかった。
「……。……。なるほど。『ヴェブレン効果(見せびらかしの消費)』を逆手に取った、国際的な信用補完というわけね」
「そうだ。カタリア。君という『唯一無二の国益』を手に入れた私が、ケチな式を挙げてみろ。市場は『大公領も実は資金繰りが苦しいのではないか』と勘繰り、株価も通貨価値も暴落するだろう。それは君の望むところか?」
「……。……。……いいえ。私の資産価値が下がるような真似は、プロとして許容できませんわ」
私は悔しいことに、彼の論理に納得せざるを得なかった。
「よし。理解してくれたようで何よりだ。……では、このダイヤモンド百個付きの特注ウェディングドレスも、必要経費として承認してもらえるな?」
「……。……。それに関しては、まだ議論の余地がありますわ。ダイヤモンドは資産としての流動性は高いですが、ドレスに縫い付けてしまったら加工賃の分だけ目減りします。せめて取り外し可能な装飾にして、式が終わったら金庫に保管すべき……」
「カタリア」
レオナード閣下は、私の言葉を遮り、不意に私の腰を引き寄せた。
至近距離で見つめられる氷の瞳。そこには、経営学的な合理性とは全く別の「熱」が宿っている。
「……。……。な、なんですの」
「戦略だの広報だのと並べ立てたが……。……本当は、ただ君を、世界で一番美しく飾り立てたいだけなんだ」
「……。……。……は?」
「私はこれまで、自分自身の感情に一銭の価値もつけてこなかった。だが、君を笑顔にするためなら、大公領の国家予算を半分溶かしても惜しくないと思っている。……これは、私の人生で初めての『非合理な浪費』だ。許してくれないか?」
……。
……。
……反則だわ。
冷徹な合理主義者が、こんなに切なそうな顔で「贅沢をさせてくれ」と頼んでくるなんて。
「……。……。……。閣下。貴方は、本当にとんでもない不良債権(ひと)ね」
私は彼の胸に顔を埋め、小さくため息をついた。
「いいでしょう。その『非合理な浪費』、私が最高に効率よく演出して差し上げますわ。……ただし、ダイヤモンドは八十個に減らして。その分、余った予算で国民に『再建記念のパン』を配ります。その方が、将来的な支持率向上(バリューアップ)に繋がりますから」
「……。……ふ。妥協案としては完璧だ。……愛しているよ、カタリア」
「……。……。私も、その……貴方の『判断力』だけは、高く評価していますわ」
私が顔を真っ赤にして答えると、閣下は満足げに私の額に口付けた。
かつて、セドリック殿下から「可愛げのない女」と切り捨てられた私は、今、世界で最も高く、そして最も深く、一人の男に「査定」されている。
愛という名の最大予算(ビッグバジェット)。
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