悪役令嬢の新しい復讐!婚約破棄、感謝いたします! 

桃瀬ももな

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青空を突き刺すような大聖堂の鐘の音が、新生王国の都に鳴り響いている。
 
 かつてどん底の赤字だったこの国は、現在、大公領との共同管理のもと、劇的なV字回復を遂げつつあった。
 
 鏡の中に映る私は、レオナード閣下がこだわった「ダイヤモンド八十個付き」のドレスを纏っている。
 
「……。……。……重いわね。資産価値としては申し分ないけれど、移動効率が極端に悪いわ」
 
 私が肩を回しながらぼやくと、背後の扉が開き、正装したレオナード閣下が現れた。
 
 能面のような無表情は相変わらずだが、その瞳は今日という日を祝うように、穏やかに光っている。
 
「……似合っている、カタリア。そのドレスの重量は、私が君に寄せる期待と信頼の重さだと思って耐えてくれ」
 
「閣下、言葉のレバレッジをかけすぎですわよ。……それで? 北部の『更生施設』から最新のレポートが届いているそうね」
 
「ああ。ハンスから報告があった。……セドリック殿下は、石運びの作業でようやく自分の筋肉の効率的な使い方を覚えたらしい。リリア嬢も、害虫駆除の成果に応じて配給されるパンのありがたみに涙し、以前よりは随分と謙虚な性格になったそうだ」
 
「あら、素晴らしいわ。労働による人間性の再開発……まさに、最も成功した社会貢献事業(CSR)ね」
 
 私は手帳に「負債の清算、順調」と書き込んだ。
 
 彼らには一生、汗水垂らして働いてもらう。それが、この国を崩壊させた代償であり、私からの最後の教育的配慮なのだから。
 
「……さあ、行こうか。広場では国民たちが君を待っている。……かつての『悪役令嬢』ではなく、この国を救った『勝利の女神』としてな」
 
 閣下が差し出した手に、私は自分の手を重ねた。
 
 バルコニーに出ると、地平線まで埋め尽くした国民たちから、割れんばかりの歓声が上がった。
 
 かつて私を冷徹だと指差した人々が、今は涙を流して私の名前を呼んでいる。
 
「……。……。……閣下。これだけの人間を動員するコストを考えれば、やはりこのパレードは成功だったようですわね。我が国のブランドイメージは、今日この瞬間に過去最高値を更新しましたわ」
 
「……君という人は、この瞬間まで数字の話か」
 
 レオナード閣下は苦笑いしながら、そっと私の腰を抱き寄せた。
 
「だが、そんな君だからこそ、私は私のすべてを預けられる。……カタリア、これが私の提案する『最終決算書』だ」
 
 彼は懐から、一冊の小さな、しかし上質な革表紙の手帳を取り出し、私に手渡した。
 
 ページをめくると、そこには彼が手書きした「将来の家庭運営計画」が記されていた。
 
『資産:揺るぎない信頼、永続的な愛情、共に歩む知性』
『負債:なし(過去の因縁はすべて清算済み)』
『資本:二人の無限の可能性』
 
 そして、最後の一行にはこう書かれていた。
 
『純利益:カタリアの笑顔』
 
 ……。
 
 ……。
 
 ……全く。
 
 私は、込み上げてくる熱いものを誤魔化すように、わざとらしく大きくため息をついた。
 
「……閣下。この計上項目、あまりにも主観的すぎて監査を通せませんわ。……でも、いいわ。特別損失としてではなく、生涯の『含み益』として受領してあげますわよ」
 
「……ふ。……承知した。一生かけて、その価値を高めていくと誓おう」
 
 私はレオナード閣下の肩に頭を預け、目の前に広がる豊かな街並みを眺めた。
 
 婚約破棄から始まった私の新しい人生。
 
 どん底の赤字から、今、最高の「幸せ」という名の利益を叩き出している。
 
 愛だの恋だの、そんな不確かなものも、適切なパートナーと正しく運用すれば、これほどまでに豊かなリターンをもたらしてくれるのだ。
 
「……さて、旦那様。式のあとは早速、新婚旅行という名の『隣国の市場調査』に出かけますわよ? 時間は金(カネ)ですもの。一秒も無駄にはさせませんわ」
 
「……ああ。君のコンサルティングには、一生付き合わされる覚悟ができているよ」
 
 私たちは、祝福の嵐の中で、深く、長い口付けを交わした。
 
 私の人生の貸借対照表は、今日、最高のバランスで完璧に整った。
 
 ――カタリア・フォン・アステリアの経営コンサルティング、これにて大団円。
 
 ……さて、次の案件は、どこかしら?
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