これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな

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クローゼットごと撤去されていったはずの殿下が、五分もしないうちに窓から戻ってきた。

「……殿下。ここは公爵邸の三階ですわよ? 正規のルートで入っていただけませんか」

「そんな悠長なことはしていられない。君の『悪役修行』があまりに尊すぎて、私の魂が浄化されそうなんだ」

アルフォンス殿下は窓枠に腰掛けたまま、うっとりと鏡に映る私を見つめている。

私は無視を決め込み、再び鏡に向き直った。

「いいですか、殿下。私は本気なのです。昨夜の断罪劇は、あなたの横槍のせいで茶番に終わりました。ですが、世間はまだ私を『悪役令嬢』として見ているはず……」

私はぐっと顔を鏡に近づけ、目元に力を込める。

「この鋭い三白眼! これこそが、人々を震え上がらせる恐怖の象徴……!」

「いや、それは単に視力が悪くてピントを合わせようとしている子猫の目だよ、カタリーナ」

「……。……視力は両目とも一・五ですわよ」

殿下の身も蓋もないツッコミに、私は肩を落とした。

「いいかい。君は大きな勘違いをしている。君が無理に作った『悪女の顔』よりも、今のように図星を突かれて唇を噛み締める『屈辱の顔』の方が、よっぽど悪役としての格が高い」

殿下はひらりと窓から降り、私の背後に立った。

鏡の中で、私たちの視線が重なる。

「本物の悪女はね、自分が悪だなんて思っていないものだよ。ただ自分の望みに忠実で、そのためなら世界を敵に回しても平気な顔をしている……。今の君のようにね」

「……私が、いつ世界を敵に回しましたの?」

「今朝、私からのプレゼントである『黄金の朝食セット』を『眩しすぎて目が痛い』という理由で突き返しただろう? あれは王家に対する立派な反逆だよ。最高だった」

「それは単に実用性の問題ですわ! 金のスプーンは重すぎて腱鞘炎になりますもの!」

私は鏡の中の殿下を、精一杯の力で睨みつけた。

すると殿下は、ゾクッとしたように肩を震わせ、私の肩に手を置いた。

「ああ、それだ! その『理屈じゃない、ただ生理的に受け付けない』と言わんばかりの拒絶の眼差し!」

殿下は鏡に映る私の顔を指でなぞる。

「君は無理に悪女を演じる必要はないんだ。君が君らしく、私を嫌い、私を罵り、私を軽蔑する……。その積み重ねこそが、君を唯一無二の『至高の悪役令嬢』へと昇華させるのだから」

「……つまり、私があなたに冷たくすればするほど、あなたの望み通りになるということですの?」

「その通りだ! さあ、もっと私を蔑んでくれ! 鏡越しに、その氷のような視線で私を射抜いておくれ!」

……。

私は静かに立ち上がり、鏡にカバーをかけた。

「殿下」

「何かな、私の女神(ヴィラン)」

「……お帰りください。今すぐに。さもなくば、お父様を呼んで、あなたの恥ずかしいポエムを王都中にバラしますわよ」

「っ……! 脅迫! 実権を握る公爵家の力を背景にした、卑劣な脅迫だね! 素晴らしいよ、カタリーナ!」

殿下は満足げに、今度こそ玄関から(スキップしながら)去っていった。

一人残された部屋で、私は覆われた鏡を見つめる。

悪役令嬢になろうとすればするほど、この変態王子の「推し活」の養分にされるだけだという事実に、私は今更ながら気づき始めていた。
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