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王宮の騒がしい二人組が去って数日。ヴォルフレード領に、またしても一台の馬車が到着しましたわ。
ですが、今度は先日の「情緒不安定な王子」とは格が違いますの。静寂を纏い、洗練された動きで降り立ったのは、隣国の第一公女、シビラ様。
彼女は、雪のように白い肌と、一切の無駄を削ぎ落としたような冷徹なまでの美貌を誇る、「氷の賢女」と名高いお方ですわ。
「……ギルバート卿。お久しぶりですわね。あなたの沈黙に相応しい、静かな縁談を持って参りましたの」
シビラ様が発した言葉は、まるで冬の湖面に落ちた一滴の雫(しずく)のように、透き通って、そして……あまりにも短いものでした。
私は、その場に控えていた給仕用のワゴンを、まるで戦車のように押し出して、彼女とギルバート様の間に割り込みましたわ!
「ちょっとお待ちくださいませ、シビラ様! 初めまして、私はこの屋敷の『全力疾走型・経営顧問』兼『二十四時間営業・対話型セラピスト』のラージュ・アルカディアですわ! 今、あなたの挨拶にかかった時間はわずか十秒。情報量は一〇ビットにも満たない不十分なものですわよ!」
シビラ様は、氷のような瞳で私を射抜きました。ですが、私はその冷気さえも熱量に変換して喋り続けますわ!
「いいですか、シビラ様。ギルバート様という『沈黙のブラックホール』を相手にするには、こちらが無限のエネルギーを放出し続ける、いわば恒星のような存在でなければならないのですわ。あなたのその、効率を追求しただけの短い言葉では、この屋敷の静寂に飲み込まれて、共倒れになるのが目に見えていますわよ!」
「……。沈黙こそが、崇高な魂の対話。無駄な言葉を削ぎ落とすことこそが、知性の証ではありませんか、ラージュ公爵令嬢」
「逆ですわ! 逆転の発想をしなさいな! 知性とは、一つの事象に対してどれほど多角的な表現を提示できるかという、出力の多様性のこと。たとえば、この一杯の紅茶! あなたは『美味しい』、あるいは沈黙で済ませるのでしょうけれど、私はこの水質、茶葉の産地の標高、そして抽出時の気圧が味覚受容器に与える影響について、三千字の論文を即興で口述できますわよ!」
私はワゴンの上の紅茶を掲げ、まるで勝利の旗のように振りました。
「ギルバート様。あなたに相応しいのは、その静寂を奪う私のような賑やかな太陽か、それともあなたの沈黙を助長し、世界を氷河期に変えてしまうこの公女様か。どちらがあなたの人生に『知的な彩り』を与えるか、冷静に判断なさって!」
ギルバート様は、シビラ様の冷徹な美しさと、私の(自称)情熱的なマシンガントークを、交互に見つめました。
「…シビラ、すまない。お前の提案する『静寂の王国』は、確かに理想的かもしれないが」
ギルバート様は、私の頭を乱暴に、しかし愛おしそうに撫で回しました。
「俺には、この、耳が痛くなるほどの『音楽』が必要なようだ」
「ま、まあ! ギルバート様、今、私の声を『音楽』とおっしゃいました!? それはつまり、私の弾丸トークが、あなたの心の中でバッハやベートーヴェンの名曲にも勝る、至高の芸術として響いているという告白と受け取ってよろしいのかしら!」
「……ああ。お前が黙っていると、俺の鼓動まで止まってしまいそうで不安になるからな」
「………………っっっ!!!」
流石の私も、その不意打ちの「究極の肯定(ラブコール)」には、肺の中の空気が全部入れ替わるほどの衝撃を受けましたわ!
シビラ様は、微かに溜息をつき、氷のような瞳に少しだけ人間味のある困惑を滲ませました。
「……理解に苦しみますわ。ギルバート卿、あなたはこれほどの『音響汚染』を、心地よいと感じるほどに変質してしまったのですね……」
「あら、シビラ様! 音響汚染だなんて、失礼しちゃいますわ! これは『多次元的情報伝達(マルチ・ディメンショナル・チャット)』と呼びなさいな! さあ、お帰りになる前に、私のこの喜びを、三〇分間の即興ポエムとして披露して差し上げますわ。題して『沈黙の壁を穿(うが)つ、愛の拡声器』! 第一連!」
「……辞退いたしますわ。今すぐ、耳の安らぎを求めて自国へ帰らせていただきます」
シビラ様は、私のポエムの序章が始まる前に、風のように馬車へと戻っていきました。その去り際の速さ、まさに脱兎のごとき効率の良さでしたわね!
「行っちゃいましたわね、シビラ様。彼女、私の『言葉のシャワーによる美容効果』についての自説を聞いていけば、もっと美しくなれたでしょうに」
「……ラージュ。……お前は、本当に、俺を飽きさせないな」
ギルバート様が私の肩を抱き寄せ、その胸の鼓動を私に伝えてきました。
「もちろんですわ! 飽きさせるなんて、私の辞書には死と同義の言葉として載っていますもの。さあ、ギルバート様! 今の勝利を祝して、これから夕食までの三時間、私の『愛の定義・辺境伯専用バージョン』について、改訂版を朗読いたしますわね!」
「ああ。……一生、聞いてやる」
ギルバート様のその、短すぎるけれど重すぎる一言に、私はさらなる語彙の翼を広げ、いつまでも、いつまでも喋り続けるのでした。
ですが、今度は先日の「情緒不安定な王子」とは格が違いますの。静寂を纏い、洗練された動きで降り立ったのは、隣国の第一公女、シビラ様。
彼女は、雪のように白い肌と、一切の無駄を削ぎ落としたような冷徹なまでの美貌を誇る、「氷の賢女」と名高いお方ですわ。
「……ギルバート卿。お久しぶりですわね。あなたの沈黙に相応しい、静かな縁談を持って参りましたの」
シビラ様が発した言葉は、まるで冬の湖面に落ちた一滴の雫(しずく)のように、透き通って、そして……あまりにも短いものでした。
私は、その場に控えていた給仕用のワゴンを、まるで戦車のように押し出して、彼女とギルバート様の間に割り込みましたわ!
「ちょっとお待ちくださいませ、シビラ様! 初めまして、私はこの屋敷の『全力疾走型・経営顧問』兼『二十四時間営業・対話型セラピスト』のラージュ・アルカディアですわ! 今、あなたの挨拶にかかった時間はわずか十秒。情報量は一〇ビットにも満たない不十分なものですわよ!」
シビラ様は、氷のような瞳で私を射抜きました。ですが、私はその冷気さえも熱量に変換して喋り続けますわ!
「いいですか、シビラ様。ギルバート様という『沈黙のブラックホール』を相手にするには、こちらが無限のエネルギーを放出し続ける、いわば恒星のような存在でなければならないのですわ。あなたのその、効率を追求しただけの短い言葉では、この屋敷の静寂に飲み込まれて、共倒れになるのが目に見えていますわよ!」
「……。沈黙こそが、崇高な魂の対話。無駄な言葉を削ぎ落とすことこそが、知性の証ではありませんか、ラージュ公爵令嬢」
「逆ですわ! 逆転の発想をしなさいな! 知性とは、一つの事象に対してどれほど多角的な表現を提示できるかという、出力の多様性のこと。たとえば、この一杯の紅茶! あなたは『美味しい』、あるいは沈黙で済ませるのでしょうけれど、私はこの水質、茶葉の産地の標高、そして抽出時の気圧が味覚受容器に与える影響について、三千字の論文を即興で口述できますわよ!」
私はワゴンの上の紅茶を掲げ、まるで勝利の旗のように振りました。
「ギルバート様。あなたに相応しいのは、その静寂を奪う私のような賑やかな太陽か、それともあなたの沈黙を助長し、世界を氷河期に変えてしまうこの公女様か。どちらがあなたの人生に『知的な彩り』を与えるか、冷静に判断なさって!」
ギルバート様は、シビラ様の冷徹な美しさと、私の(自称)情熱的なマシンガントークを、交互に見つめました。
「…シビラ、すまない。お前の提案する『静寂の王国』は、確かに理想的かもしれないが」
ギルバート様は、私の頭を乱暴に、しかし愛おしそうに撫で回しました。
「俺には、この、耳が痛くなるほどの『音楽』が必要なようだ」
「ま、まあ! ギルバート様、今、私の声を『音楽』とおっしゃいました!? それはつまり、私の弾丸トークが、あなたの心の中でバッハやベートーヴェンの名曲にも勝る、至高の芸術として響いているという告白と受け取ってよろしいのかしら!」
「……ああ。お前が黙っていると、俺の鼓動まで止まってしまいそうで不安になるからな」
「………………っっっ!!!」
流石の私も、その不意打ちの「究極の肯定(ラブコール)」には、肺の中の空気が全部入れ替わるほどの衝撃を受けましたわ!
シビラ様は、微かに溜息をつき、氷のような瞳に少しだけ人間味のある困惑を滲ませました。
「……理解に苦しみますわ。ギルバート卿、あなたはこれほどの『音響汚染』を、心地よいと感じるほどに変質してしまったのですね……」
「あら、シビラ様! 音響汚染だなんて、失礼しちゃいますわ! これは『多次元的情報伝達(マルチ・ディメンショナル・チャット)』と呼びなさいな! さあ、お帰りになる前に、私のこの喜びを、三〇分間の即興ポエムとして披露して差し上げますわ。題して『沈黙の壁を穿(うが)つ、愛の拡声器』! 第一連!」
「……辞退いたしますわ。今すぐ、耳の安らぎを求めて自国へ帰らせていただきます」
シビラ様は、私のポエムの序章が始まる前に、風のように馬車へと戻っていきました。その去り際の速さ、まさに脱兎のごとき効率の良さでしたわね!
「行っちゃいましたわね、シビラ様。彼女、私の『言葉のシャワーによる美容効果』についての自説を聞いていけば、もっと美しくなれたでしょうに」
「……ラージュ。……お前は、本当に、俺を飽きさせないな」
ギルバート様が私の肩を抱き寄せ、その胸の鼓動を私に伝えてきました。
「もちろんですわ! 飽きさせるなんて、私の辞書には死と同義の言葉として載っていますもの。さあ、ギルバート様! 今の勝利を祝して、これから夕食までの三時間、私の『愛の定義・辺境伯専用バージョン』について、改訂版を朗読いたしますわね!」
「ああ。……一生、聞いてやる」
ギルバート様のその、短すぎるけれど重すぎる一言に、私はさらなる語彙の翼を広げ、いつまでも、いつまでも喋り続けるのでした。
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