悪役令嬢は黙っていられない。婚約破棄されましたが、誰にも止められなくてよ?

桃瀬ももな

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「ギルバート様! 大変ですわ! 私たちの結婚式まであと三ヶ月しかありませんのに、私の作成した『完璧なる婚礼儀式のための必須要件およびリスク管理チェックリスト』が、現時点でまだ八九二項目しか埋まっておりませんの。これは公爵令嬢として、いえ、一人の表現者として末代までの恥ですわ!」

朝の爽やかな日差しを浴びながら、私は一〇メートルほどある巻紙を執務室の床にぶちまけました。

「…八九二項目、か」

「そうですわ! いいですか、ギルバート様。結婚式とは単なる形式的な契約の場ではありません。それは私という『言葉の奔流』と、あなたという『静寂の深淵』が、一つの宇宙として融合する記念碑的なイベント。全人類、いえ、全生命体に対する私たちの生存戦略の提示なのですわよ!」

私は巻紙の上を歩きながら、一番目の項目を指差しました。

「第一項目、バージンロードの摩擦係数! 私のドレスの裾が、歩行時にどのような音響効果を生むか計算したことがありますか? 『シュッ』ではなく『サァァ……』という、そよ風のような音を出すためには、床のワックスの塗り方にミリ単位の指定が必要ですわ。清掃係の皆様には、今から一二時間の技術講習を受けていただきます!」

「…ほどほどにしてやれ」

「二三項目、誓いのキスの秒数および角度! あまりに短いと観衆の知的好奇心を満足させられませんし、長すぎると私の独演会の時間が削られてしまいますわ。黄金比は七・二秒。そして角度は、会場のどの席からも私たちの顎のラインが最も美しく見える四五度が理想です。さあ、今からリハーサルを一〇〇回ほど行いましょうか!」

「それは、あとでいい」

ギルバート様がわずかに耳を赤くして視線を逸らしましたが、私は止まりませんわ!

「五六七項目、参列者への配慮! 私のスピーチは予定では三時間を超える見込みですわ。その間、皆様の集中力を維持するためには、座席のクッションの硬さを『思考を妨げない中反発』にする必要があります。さらに、喉が渇かないよう、一定の間隔でミスト状のハーブティーを散布するシステムを導入しましょう。あ、その成分表を今から読み上げますわね!」

「……ゲストが、溺れないか?」

「溺れるほど浴びせるのは、私の情熱だけにしてくださいませ! それから、これが最重要項目ですわ。一〇〇〇項目目——『新郎が誓いの言葉で、私の目を見て三語以上の形容詞を並べること』!」

私は巻紙の最後にある空欄をバシッと叩きました。

「ギルバート様。あなたの『……ああ』は究極の相槌ですが、結婚式ではそれでは足りませんわ。私の美しさと、知性と、そしてやかましさを、あなたのその低い声で、宝石を並べるように称えていただかなくては。さあ、練習ですわよ! まずは私の左耳がいかに機能美に満ちているかについて語ってみてくださる?」

ギルバート様は、私のあまりに必死な(そして楽しそうな)剣幕に、ふっと表情を緩めました。

「……ラージュ。リストも大事だが。……俺は、お前がそこにいて喋っているだけで、もう十分完璧だと思っている」

「………………っっっ!!!」

流石の私も、その一言には脳内のチェックリストが全部白紙に吹き飛ぶほどの衝撃を受けましたわ!

「あ、あなた……! 不意打ちの殺し文句(キラーフレーズ)は、一〇〇一項目目の『新婦の動悸による気絶リスク』に該当しますわよ! ああ、もう! また鼓動が四拍子を無視して独走を始めてしまいましたわ! 責任をとって、今すぐそのセリフをあと一〇回、異なるイントネーションで繰り返してくださいませ!」

「……嫌だ」

「まあ! 拒否権発動ですか!? では、私があなたのその照れ隠しがいかに非論理的であるかについて、二時間ほど説教……いえ、甘い語らいをさせていただきますわね!」

屋敷の廊下には、いつものように私の楽しげなマシンガントークが響き渡ります。

結婚式の準備は、どうやら当日まで一秒も休まる暇がなさそうですわね!
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