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「……モルニャ。屋敷に着いたら、まずはお風呂にするか? それとも、先ほど買い占めた最高級のみりん干しを焼かせようか?」
揺れる馬車の中。
カイル様は私の手を握ったまま、どこか落ち着かない様子で尋ねてきました。
その手のひらは、少しだけ汗ばんでいるような気がいたします。
「そうですね……。お魚も捨てがたいですが、まずはカイル様の膝の上でひと眠りしたい気分ですわ。あの倉庫、少しだけ寒かったですもの」
私がカイル様の肩に頭を預けると、彼は「っ……!」と短く息を呑みました。
いつもなら「よし、いい子だ」とガシガシ頭を撫でてくるはずなのに、今日に限っては、指先が私の髪の表面を迷うように彷徨っています。
「……どうなさいましたの? カイル様。もしかして、私に飽きてしまいました?」
「馬鹿を言うな。飽きるどころか……私の心臓が、お前の隣にいるだけで壊れそうなのだ」
公爵邸に戻り、いつもの特製サンルームに到着すると、カイル様は私をクッションに座らせるのではなく、立ったまま私の両肩を掴みました。
月明かりが差し込む夜のサンルーム。
カイル様の青い瞳が、これまで見たこともないほど真剣に、そして熱く私を射抜いています。
「……モルニャ。私はずっと、悩んでいた。お前の名前が好きで、お前の仕草が好きで……お前を甘やかすことに、この上ない悦びを感じていた」
「ええ。存じておりますわ。カイル様の『猫可愛がり』は、帝都一ですもの」
私が冗談めかして笑うと、カイル様は首を横に振りました。
「いいや、違うんだ。……私は、お前をただの『愛らしい生き物』として愛でたかったのではない。……否、最初はそうだったのかもしれん。だが、今はもう……」
カイル様は一歩、私に近づきました。
その体温が、ドレス越しにも伝わってきます。
「お前が他の男(アトラス)と笑っているのを見て、私は正気でいられなかった。お前の喉元を撫でる時、私の指先が震えるのは、それが『ペット』への愛情ではないからだ」
「カイル、様……?」
「私は、お前を猫として側に置いておきたいのではない。……一人の女性として、私の生涯をかけて守り、慈しみ、愛し抜きたいのだ」
カイル様は私の手をとり、指先の一本一本に熱い口づけを落としました。
その所作は驚くほど優雅で、けれどもしがみつくような切実さが籠もっています。
「猫としてではなく、私の妻として側にいてほしい。……モルニャ。お前のその不思議な名前を、正式にルードルフ公爵家の家名に刻ませてくれないか」
「…………」
私は、あまりの直球な言葉に、まばたきを繰り返しました。
カイル様の顔は、これまでに見たことがないほど真っ赤に染まっています。
「……カイル様。私、元悪役令嬢ですのよ? それに、ご覧の通りわがままで、お魚のことばかり考えていて、隙あらばお昼寝をしようとする……そんな女で、よろしいのですか?」
「お前以外の女など、今の私には石ころも同然だ。……お前が望むなら、毎日お前を抱きかかえて縁側まで運び、世界中の魚を私の手で焼いてやる。だから……」
カイル様は、縋るような瞳で私を見つめました。
「……返事を聞かせてくれ。モルニャ」
私は、ふっと口角を上げました。
この、不器用で、独占欲が強くて、私を世界で一番甘やかしてくれる「飼い主様」。
いえ、一人の男性。
彼が差し出した手の上に、私は自分の手をそっと重ねました。
「……にゃあ」
「……モルニャ?」
「……聞こえませんでした? 『よろしくお願いします』と申し上げたのですわよ」
カイル様は一瞬、呆然とした顔をしましたが、次の瞬間。
彼は私を壊れ物のように、けれどもしっかりと、その力強い腕の中に抱きしめました。
「……っ! あぁ、モルニャ……! 愛している。世界中の何よりも、お前を愛している……!」
「……苦しいですわ、カイル様。……でも、温かいですわね」
私は、カイル様の胸に顔を埋め、その心臓の音を聴きながら目を閉じました。
婚約破棄から始まった私の「野良猫生活」。
どうやら、これ以上ないほど豪華で、甘い「安住の地」を見つけてしまったようです。
揺れる馬車の中。
カイル様は私の手を握ったまま、どこか落ち着かない様子で尋ねてきました。
その手のひらは、少しだけ汗ばんでいるような気がいたします。
「そうですね……。お魚も捨てがたいですが、まずはカイル様の膝の上でひと眠りしたい気分ですわ。あの倉庫、少しだけ寒かったですもの」
私がカイル様の肩に頭を預けると、彼は「っ……!」と短く息を呑みました。
いつもなら「よし、いい子だ」とガシガシ頭を撫でてくるはずなのに、今日に限っては、指先が私の髪の表面を迷うように彷徨っています。
「……どうなさいましたの? カイル様。もしかして、私に飽きてしまいました?」
「馬鹿を言うな。飽きるどころか……私の心臓が、お前の隣にいるだけで壊れそうなのだ」
公爵邸に戻り、いつもの特製サンルームに到着すると、カイル様は私をクッションに座らせるのではなく、立ったまま私の両肩を掴みました。
月明かりが差し込む夜のサンルーム。
カイル様の青い瞳が、これまで見たこともないほど真剣に、そして熱く私を射抜いています。
「……モルニャ。私はずっと、悩んでいた。お前の名前が好きで、お前の仕草が好きで……お前を甘やかすことに、この上ない悦びを感じていた」
「ええ。存じておりますわ。カイル様の『猫可愛がり』は、帝都一ですもの」
私が冗談めかして笑うと、カイル様は首を横に振りました。
「いいや、違うんだ。……私は、お前をただの『愛らしい生き物』として愛でたかったのではない。……否、最初はそうだったのかもしれん。だが、今はもう……」
カイル様は一歩、私に近づきました。
その体温が、ドレス越しにも伝わってきます。
「お前が他の男(アトラス)と笑っているのを見て、私は正気でいられなかった。お前の喉元を撫でる時、私の指先が震えるのは、それが『ペット』への愛情ではないからだ」
「カイル、様……?」
「私は、お前を猫として側に置いておきたいのではない。……一人の女性として、私の生涯をかけて守り、慈しみ、愛し抜きたいのだ」
カイル様は私の手をとり、指先の一本一本に熱い口づけを落としました。
その所作は驚くほど優雅で、けれどもしがみつくような切実さが籠もっています。
「猫としてではなく、私の妻として側にいてほしい。……モルニャ。お前のその不思議な名前を、正式にルードルフ公爵家の家名に刻ませてくれないか」
「…………」
私は、あまりの直球な言葉に、まばたきを繰り返しました。
カイル様の顔は、これまでに見たことがないほど真っ赤に染まっています。
「……カイル様。私、元悪役令嬢ですのよ? それに、ご覧の通りわがままで、お魚のことばかり考えていて、隙あらばお昼寝をしようとする……そんな女で、よろしいのですか?」
「お前以外の女など、今の私には石ころも同然だ。……お前が望むなら、毎日お前を抱きかかえて縁側まで運び、世界中の魚を私の手で焼いてやる。だから……」
カイル様は、縋るような瞳で私を見つめました。
「……返事を聞かせてくれ。モルニャ」
私は、ふっと口角を上げました。
この、不器用で、独占欲が強くて、私を世界で一番甘やかしてくれる「飼い主様」。
いえ、一人の男性。
彼が差し出した手の上に、私は自分の手をそっと重ねました。
「……にゃあ」
「……モルニャ?」
「……聞こえませんでした? 『よろしくお願いします』と申し上げたのですわよ」
カイル様は一瞬、呆然とした顔をしましたが、次の瞬間。
彼は私を壊れ物のように、けれどもしっかりと、その力強い腕の中に抱きしめました。
「……っ! あぁ、モルニャ……! 愛している。世界中の何よりも、お前を愛している……!」
「……苦しいですわ、カイル様。……でも、温かいですわね」
私は、カイル様の胸に顔を埋め、その心臓の音を聴きながら目を閉じました。
婚約破棄から始まった私の「野良猫生活」。
どうやら、これ以上ないほど豪華で、甘い「安住の地」を見つけてしまったようです。
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