凍える記憶

ラプ太郎

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凍える記憶

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第一章 招待状

雪が降り始めた十二月のある日、私の元に一通の封筒が届いた。

差出人は「旧友一同」。

中には、高級ホテルのディナーパーティーへの招待状が入っていた。

『十年ぶりの同窓会。あの冬の夜を思い出しながら』

その一文を読んだ瞬間、背筋が凍った。

あの冬の夜——

私は、封筒を握りしめた。手が震えている。

十年前、私たちは何かをした。

いや、何かをしなかった。

「行くべきか......」

迷ったが、結局、私は招待状に記されたホテルへ向かうことにした。

真実を知りたかった。あの夜、本当は何が起きたのかを。

十二月二十四日、午後七時。

私は、山奥の「ホテル・ノエル」に到着した。

吹雪が激しくなっていた。

フロントには、誰もいなかった。

「こんばんは......?」

声をかけたが、返事はない。

不気味な静けさだった。

その時、エレベーターの扉が開いた。

中から出てきたのは、見覚えのある顔だった。

「......久しぶりだな、田村」

高校時代の同級生、佐藤だった。

「佐藤......来たのか」

「お前もな」

私たちは、気まずい沈黙の中、互いを見つめた。

「他の奴らは?」

「三階のホールにいる」

佐藤が、エレベーターのボタンを押した。

三階に上がると、広いホールに六人の人影が見えた。

高校時代の同級生たち——

中村、鈴木、山本、伊藤、小林、そして渡辺。

全員、十年前のあの夜にいた人間だった。

「田村、来たのね」

中村が、冷たい目で私を見た。

「なぜ、こんな集まりを......」

「それは、これから分かるわ」

その時、ホールの照明が消えた。

真っ暗闇。

誰かの悲鳴が響いた。

数秒後、照明が戻った。

だが、一人足りない。

渡辺がいなくなっていた。

「渡辺は!?」

鈴木が叫んだ。

全員が、辺りを見回した。

そして、私たちは気づいた。

ホールの中央のテーブルに、一枚のカードが置かれていた。

『一人目。あと七人』

私の心臓が、激しく鼓動した。

これは、罠だ。



第二章 消えていく仲間

「誰だ! こんな悪趣味な冗談を仕掛けたのは!」

山本が怒鳴った。

だが、誰も答えない。

「渡辺を探しましょう」

小林が、震える声で提案した。

私たちは、二人一組になってホテル内を捜索することにした。

私は、佐藤と組んだ。

「なあ、田村」

佐藤が、廊下を歩きながら言った。

「お前、覚えてるか? あの夜のこと」

「......ああ」

「俺は、ずっと後悔してる」

佐藤の声が、震えていた。

「俺たちは、見捨てたんだ。あいつを」

その時、客室の一つから、微かな音が聞こえた。

「誰かいるのか?」

佐藤が、ドアを開けた。

部屋は、真っ暗だった。

だが、ベッドの上に、何かが横たわっていた。

「渡辺......?」

私が近づくと——

それは、マネキンだった。

胸に、ナイフが刺さっていた。

そして、メッセージカードが添えられていた。

『あの夜、あなたたちは見ていた。そして、何もしなかった』

佐藤が、後ずさった。

「これは......まさか......」

その時、廊下から悲鳴が聞こえた。

私たちは、慌ててホールに戻った。

そこには、全員が集まっていた。

だが、また一人足りない。

伊藤がいなくなっていた。

「どういうことだ!?」

中村が、パニックになっていた。

「伊藤は、山本と一緒だったはずだろ!」

「ちょっと目を離した隙に......消えたんだ」

山本が、青ざめた顔で答えた。

テーブルには、また新しいカードが置かれていた。

『二人目。あと六人』

「くそっ! 誰がこんなことを!」

鈴木が、テーブルを叩いた。

その時、館内放送が流れた。

『皆さん、楽しんでいますか?』

変質された声だった。男か女か、判別できない。

『十年前、あなたたちは罪を犯しました』

『そして、その罪を忘れ、普通の生活を送っている』

『許されると思いますか?』

放送が途切れた。

沈黙が広がった。

「あの夜......」

小林が、震える声で言った。

「あいつのことか......」

全員の顔から、血の気が引いた。

私たちは、ようやく理解した。

これは、復讐なのだと。



第三章 罪の告白

「吹雪で、外に出られない」

佐藤が、窓の外を見ながら言った。

「携帯も圏外だ」

私たちは、完全に孤立していた。

「どうする......?」

中村が、怯えた目で尋ねた。

「まずは、この状況を整理しよう」

私は、冷静を装って言った。

「犯人は、あの夜のことを知っている。そして、この中にいるかもしれない」

全員が、互いに疑いの目を向けた。

「待てよ」

山本が言った。

「犯人は、あいつかもしれない」

「あいつ......?」

「高橋だ。高橋ユキ」

その名前を聞いた瞬間、私の心臓が跳ね上がった。

高橋ユキ——

十年前のあの夜、私たちが見捨てた少女。

「でも、高橋は......」

小林が言いかけて、口を閉じた。

「死んだはずだ」

鈴木が、低い声で言った。

「あの夜、雪山で凍死した」

私は、あの夜のことを思い出した。

十年前の十二月二十四日。

私たち高校の山岳部は、冬山登山の合宿をしていた。

そこに、部外者の高橋ユキが紛れ込んでいた。

高橋は、いじめられっ子だった。

特に、中村と鈴木が彼女を執拗にいじめていた。

あの夜、吹雪の中、高橋は山小屋から逃げ出した。

私たちは、それを見ていた。

だが、誰も追いかけなかった。

翌朝、高橋の遺体が見つかった。

凍死だった。

警察は、「事故」として処理した。

だが、私たちは知っていた。

あれは、事故ではなかった。

私たちが、彼女を追い詰めた。

私たちが、見殺しにした。

「もし、高橋が生きていたら......」

佐藤が、震える声で言った。

その時、また照明が消えた。

真っ暗闇の中、誰かの足音が聞こえた。

そして、何かが倒れる音。

照明が戻った時、山本が床に倒れていた。

首には、赤い痣がついていた。

「山本!」

私たちが駆け寄ったが、山本はもう息をしていなかった。

絞殺されていた。

「誰が......誰がやった!?」

中村が叫んだ。

だが、誰も答えない。

暗闇の中、誰かが山本を殺した。

そして、その誰かは、この中にいる。

テーブルには、血文字でメッセージが書かれていた。

『三人目。真実を語る時間です』



第四章 狂気の連鎖

「全員、正直に話せ!」

鈴木が、ヒステリックに叫んだ。

「誰が犯人なんだ!」

「落ち着け」

佐藤が、鈴木を抑えようとした。

だが、鈴木は振り払った。

「落ち着けるか! 俺たちは殺されるんだぞ!」

その時、小林が突然笑い出した。

「アハハ......おかしいわね」

「小林......?」

「私たち、因果応報ってやつね。高橋を殺したんだから」

「殺してない! あれは事故だ!」

中村が反論した。

「嘘つき」

小林の目が、異様に光った。

「あなたが高橋を山小屋から追い出したのよ。『出て行け、お前なんかいらない』って」

「それは......」

「そして、私たちは見てた。誰も止めなかった。誰も、助けに行かなかった」

小林の声が、段々と大きくなった。

「私たちは、全員、殺人者なのよ!」

その言葉に、全員が沈黙した。

私も、反論できなかった。

なぜなら、それは真実だったから。

「でも、待って」

私は、ある疑問に気づいた。

「高橋の遺体は、確かに見つかった。DNA鑑定もされた」

「......そうだな」

佐藤が頷いた。

「じゃあ、犯人は誰なんだ?」

その時、館内放送が流れた。

『正解です』

『高橋ユキは、確かに死にました』

『でも、忘れていませんか?』

『もう一人、あの夜にいた人間を』

私の脳裏に、ある顔が浮かんだ。

「まさか......」

「田中......!」

佐藤が叫んだ。

田中ケンジ——

高橋ユキの幼馴染で、彼女に密かに想いを寄せていた男。

あの夜、山小屋にはいなかったが、翌朝、遺体発見現場にいた。

そして、それ以来、姿を消した。

「田中が、復讐を......」

その瞬間、ホールのドアが開いた。

そこに立っていたのは——

見覚えのない、フードを被った人影だった。

「久しぶりだな、殺人者たち」

低い、憎悪に満ちた声。

フードが取られた。

そこには、三十代の男の顔があった。

面影はあったが、十年の歳月で変わり果てていた。

「田中......お前、生きていたのか」

「ああ、ユキのためにな」

田中の目は、狂気に満ちていた。

「お前たちを、一人残らず、地獄に送るために」

彼の手には、ナイフが握られていた。



第五章 凍える真実

「待て、田中!」

私は、必死に叫んだ。

「俺たちが悪かった! でも、殺人は違う!」

「違う?」

田中が、笑った。

狂気の笑いだった。

「お前たちは、ユキを殺した。なのに、何の罰も受けずに生きている」

「それは......」

「俺は、十年間、ずっと考えていた。どうやって、お前たちに復讐するかを」

田中が一歩、近づいた。

「そして、気づいたんだ。お前たちを殺すだけじゃ足りないって」

「何を......」

「お前たちに、恐怖を味わわせる。絶望を味わわせる。ユキが感じたように」

その時、中村が叫んだ。

「違う! 私は悪くない! 高橋が勝手に出て行ったのよ!」

「黙れ!」

田中が、中村に飛びかかった。

私と佐藤が、慌てて田中を押さえつけた。

「やめろ!」

もみ合いの中、ナイフが床に落ちた。

その瞬間、鈴木がナイフを拾った。

「鈴木、何を......」

鈴木の目が、異様に光っていた。

「俺は、死にたくない......」

鈴木は、震える手でナイフを握りしめた。

「誰か、一人犠牲になれば......」

「鈴木! 正気か!」

だが、鈴木は聞いていなかった。

彼は、小林に向かって突進した。

「鈴木、やめろ!」

佐藤が叫んだ。

その時——

銃声が響いた。

鈴木が、その場に崩れ落ちた。

背後には、拳銃を持った中村が立っていた。

「中村......お前......」

「護身用よ。いつも持ってるの」

中村の声は、震えていた。

「でも、これで......これで私は......」

中村は、その場に座り込んだ。

静寂が、ホールを包んだ。

私は、状況を理解しようとした。

だが、もう何が正しいのか分からなくなっていた。

「終わりだ」

田中が、力なく言った。

「俺の復讐も、お前たちの罪も、全て終わりだ」

「田中......」

「でも、一つだけ言っておく」

田中は、私たちを見渡した。

「ユキは、最期まで、お前たちを恨んでいなかった」

「......え?」

「『きっと、みんな後悔してる。許してあげて』って、俺に言ったんだ」

その言葉に、私の目から涙が溢れた。

「俺は、その言葉を無視して、復讐に走った。でも......」

田中は、床に座り込んだ。

「俺が一番の罪人だ。ユキの想いを、踏みにじった」

その時、サイレンの音が聞こえた。

警察だ。

誰かが、事前に通報していたのだろう。

私は、窓の外を見た。

吹雪は止んでいた。

そして、朝日が昇り始めていた。

長い、長い夜が終わろうとしていた。



エピローグ 凍える記憶

それから一年が経った。

裁判は、大きく報道された。

田中は、殺人罪で懲役二十年。

中村は、正当防衛が認められ、執行猶予付きの判決。

そして、残された私たち——

佐藤、小林、そして私は、高橋ユキの墓前に立っていた。

「ごめんなさい、ユキ」

小林が、涙を流しながら言った。

「私たち、本当に......」

私も、黙って頭を下げた。

十年間、逃げ続けてきた罪。

ようやく、向き合う勇気が持てた。

だが、それは遅すぎた。

雪が、静かに降り始めた。

あの夜と同じ、白い雪。

私は、雪の中に、高橋ユキの笑顔を見た気がした。

「許してくれるかな......」

佐藤が、呟いた。

「分からない」

私は、正直に答えた。

「でも、俺たちは、生きていく。この罪を背負って」

三人は、しばらく墓前に立っていた。

凍える記憶を抱えて。

決して消えることのない、罪と後悔を抱えて。

雪は、降り続けていた。

全てを白く染めながら。

だが、私たちの心の傷は、決して白くは染まらない。

それが、私たちの罰なのだ。

永遠に続く、凍える記憶という罰——
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