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ようこそ摩訶不思議堂へ 大阪編 置き忘れた声
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摩訶不思議堂 ――「置き忘れた声」
大阪・天満の商店街。
夕方になると、人の声と油の匂いが混ざる。
古本屋の二階で、春子(はるこ)は電話を握りしめていた。
スマホの画面には、母の名前。
……出られへん。
もう三日、同じや。
用件は分かってる。
実家に戻る話。
結婚のこと。
仕事を「いつまで遊びみたいに続けるんや」という話。
電話は、切れた。
階段を降りると、
商店街の端に、見覚えのない店があった。
「摩訶不思議堂」
ショーケースには、何も置いてへん。
ただ、小さな木の箱が一つ。
「開けてみ」
奥から声がした。
中には、古いカセットテープと、小さな再生機。
「これ、何ですか」
「“言わんまま消えた声”」
再生ボタンを押すと、
雑音の向こうから、かすれた声が聞こえた。
『……無理せんでええんやで』
喉が、詰まった。
それは、亡くなった父の声やった。
『春子は、よう頑張っとる』
『失敗してもええ。戻ってきてもええ』
涙が、止まらん。
「なんで……今さら……」
「今やからや」
店の奥から、あのおばあさんが出てきた。
「声ちゅうのはな、
聞く準備ができたときに、戻ってくる」
春子はテープを抱きしめた。
「これ、持って帰ってええんですか」
「もう箱はいらん」
「声は、あんたの中に入った」
外に出ると、商店街はいつも通りやった。
たこ焼き屋の呼び込み。
子どもの笑い声。
けど、春子はスマホを取り出し、
もう一度、母の番号を押した。
🌱
その夜、どこかで、
あのおばあさんが言う。
「摩訶不思議堂はな、
置き忘れたもんを返す店やない。
もう一回、
持って歩けるようにする店や。」
大阪・天満の商店街。
夕方になると、人の声と油の匂いが混ざる。
古本屋の二階で、春子(はるこ)は電話を握りしめていた。
スマホの画面には、母の名前。
……出られへん。
もう三日、同じや。
用件は分かってる。
実家に戻る話。
結婚のこと。
仕事を「いつまで遊びみたいに続けるんや」という話。
電話は、切れた。
階段を降りると、
商店街の端に、見覚えのない店があった。
「摩訶不思議堂」
ショーケースには、何も置いてへん。
ただ、小さな木の箱が一つ。
「開けてみ」
奥から声がした。
中には、古いカセットテープと、小さな再生機。
「これ、何ですか」
「“言わんまま消えた声”」
再生ボタンを押すと、
雑音の向こうから、かすれた声が聞こえた。
『……無理せんでええんやで』
喉が、詰まった。
それは、亡くなった父の声やった。
『春子は、よう頑張っとる』
『失敗してもええ。戻ってきてもええ』
涙が、止まらん。
「なんで……今さら……」
「今やからや」
店の奥から、あのおばあさんが出てきた。
「声ちゅうのはな、
聞く準備ができたときに、戻ってくる」
春子はテープを抱きしめた。
「これ、持って帰ってええんですか」
「もう箱はいらん」
「声は、あんたの中に入った」
外に出ると、商店街はいつも通りやった。
たこ焼き屋の呼び込み。
子どもの笑い声。
けど、春子はスマホを取り出し、
もう一度、母の番号を押した。
🌱
その夜、どこかで、
あのおばあさんが言う。
「摩訶不思議堂はな、
置き忘れたもんを返す店やない。
もう一回、
持って歩けるようにする店や。」
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