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ロウシマツと名を与える
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「幸も不幸もない世界ほどつまらないものはない
――ロウシマツ」
ロウシマツは、湯気の立つ茶碗を手にしながら、
ぽつりと続けた。
「幸せばっかりの世界は、
まるで味のない粥みたいや。
不幸ばっかりの世界は、
苦すぎる薬みたいや。
せやけどな、
ほんまに人を育てるんは、
その“あいだ”にある出来事や。」
勇作が眉をひそめた。
「“あいだ”って、どんな?」
ロウシマツは茶碗を置き、指で空気に波を描くように言った。
「成功と失敗のあいだで揺れとる時間。
喜びと悔しさのあいだで立ち止まる瞬間。
前に進むか後ろに下がるか迷う分岐点。
そこにしか、人間の“味”は生まれへん。」
勇作は少し黙りこんだ。
自分のこれまでの道を思い返しながら、
ゆっくり言葉を紡ぐ。
「……確かに、楽なときより、
しんどいときのほうが、
思い出には残っとる気がするわ。」
ロウシマツは優しく笑った。
「せやろ?
幸も不幸も、そもそも“ひとつの物語”や。
それをどう読み解くかだけが、
あんたに任された仕事やで。」
勇作はその言葉に、
胸の奥にほのかな火が灯るような気がした。
湯気の奥に現れた“影”
ロウシマツが語り終えたその瞬間、
屋台の奥の鍋が——
ゴトッ……!
と、不気味な音を立てた。
勇作「……今、誰か触ったか?」
屋台の周りには、客のあんた(読者)と勇作、
それにロウシマツしかおらん。
けど音は確かに“奥”で鳴った。
ロウシマツは眉ひとつ動かさんと、
鍋のほうへ歩いていく。
湯気がふわり、白く立ちのぼる。
勇作は喉をゴクリと鳴らした。
「ロ、ロウシマツさん……気ぃつけてや……」
ロウシマツは鍋の蓋にそっと手をかける。
そして、ゆっくり、ゆっくり持ち上げた。
すると——
◆鍋の底に、ありえへん“印”
鍋の底に、何者かが書いたような黒い字。
油で滲んで読みにくいけれど、
ぎり見える。
それは——
「マツへ オマエノ“過去”ハ 消エヘン」
勇作「……うそやろ……!?
誰やねんコレ書いたん!?」
ロウシマツは、
まるで予想していたかのように静かに目を細めた。
「……来よったか。
“あいつ”が。」
読者(あんた)にも冷たい空気が流れ込む。
屋台を包む空気が一気に変わった。
湯気は白く、
しかしその奥から、
さっきよりはっきりとした影がひとつ現れ始めていた。
勇作「ロウシマツさん! あれ……生きもんか!?」
ロウシマツは読者のほうに一度だけ目を向ける。
「——客人。
ここから先は、
あんたも物語の“当事者”や。」
そう言いながら、
彼は湯気の向こうに向き直った。
影は近づき、
形がだんだん輪郭を持ち——
◆そこにいたのは、“ロウシマツにそっくりな男”
勇作「え……!?
なんやコレ、鏡か!?
双子か!?
まさかの……ドッペルゲンガー!?」
読者(あんた)も息を呑む。
影の正体は、
ロウシマツに瓜二つの“もうひとりのロウシマツ”。
その男はにやりと笑った。
「久しぶりやな、ロウシマツ。
“壊しに来る魔人”を忘れたとは言わせへんで?」
ロウシマツ「……お前はとうとう、表に出たか。」
勇作「なんやねんこの展開!!
めっちゃ怖いのに、ちょっとおもろい!!」
――ロウシマツ」
ロウシマツは、湯気の立つ茶碗を手にしながら、
ぽつりと続けた。
「幸せばっかりの世界は、
まるで味のない粥みたいや。
不幸ばっかりの世界は、
苦すぎる薬みたいや。
せやけどな、
ほんまに人を育てるんは、
その“あいだ”にある出来事や。」
勇作が眉をひそめた。
「“あいだ”って、どんな?」
ロウシマツは茶碗を置き、指で空気に波を描くように言った。
「成功と失敗のあいだで揺れとる時間。
喜びと悔しさのあいだで立ち止まる瞬間。
前に進むか後ろに下がるか迷う分岐点。
そこにしか、人間の“味”は生まれへん。」
勇作は少し黙りこんだ。
自分のこれまでの道を思い返しながら、
ゆっくり言葉を紡ぐ。
「……確かに、楽なときより、
しんどいときのほうが、
思い出には残っとる気がするわ。」
ロウシマツは優しく笑った。
「せやろ?
幸も不幸も、そもそも“ひとつの物語”や。
それをどう読み解くかだけが、
あんたに任された仕事やで。」
勇作はその言葉に、
胸の奥にほのかな火が灯るような気がした。
湯気の奥に現れた“影”
ロウシマツが語り終えたその瞬間、
屋台の奥の鍋が——
ゴトッ……!
と、不気味な音を立てた。
勇作「……今、誰か触ったか?」
屋台の周りには、客のあんた(読者)と勇作、
それにロウシマツしかおらん。
けど音は確かに“奥”で鳴った。
ロウシマツは眉ひとつ動かさんと、
鍋のほうへ歩いていく。
湯気がふわり、白く立ちのぼる。
勇作は喉をゴクリと鳴らした。
「ロ、ロウシマツさん……気ぃつけてや……」
ロウシマツは鍋の蓋にそっと手をかける。
そして、ゆっくり、ゆっくり持ち上げた。
すると——
◆鍋の底に、ありえへん“印”
鍋の底に、何者かが書いたような黒い字。
油で滲んで読みにくいけれど、
ぎり見える。
それは——
「マツへ オマエノ“過去”ハ 消エヘン」
勇作「……うそやろ……!?
誰やねんコレ書いたん!?」
ロウシマツは、
まるで予想していたかのように静かに目を細めた。
「……来よったか。
“あいつ”が。」
読者(あんた)にも冷たい空気が流れ込む。
屋台を包む空気が一気に変わった。
湯気は白く、
しかしその奥から、
さっきよりはっきりとした影がひとつ現れ始めていた。
勇作「ロウシマツさん! あれ……生きもんか!?」
ロウシマツは読者のほうに一度だけ目を向ける。
「——客人。
ここから先は、
あんたも物語の“当事者”や。」
そう言いながら、
彼は湯気の向こうに向き直った。
影は近づき、
形がだんだん輪郭を持ち——
◆そこにいたのは、“ロウシマツにそっくりな男”
勇作「え……!?
なんやコレ、鏡か!?
双子か!?
まさかの……ドッペルゲンガー!?」
読者(あんた)も息を呑む。
影の正体は、
ロウシマツに瓜二つの“もうひとりのロウシマツ”。
その男はにやりと笑った。
「久しぶりやな、ロウシマツ。
“壊しに来る魔人”を忘れたとは言わせへんで?」
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勇作「なんやねんこの展開!!
めっちゃ怖いのに、ちょっとおもろい!!」
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