灰色の街灯り ギターを抱えて シリーズ

新雪小太郎

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第六話 テレポーテーション

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次の瞬間 極楽鳥が甲高い声でひと声すると、あたりは眩い光りに包まれた。
そっと目を開ける小太郎。

老子小太郎は、気がついたら南インドにおった。

ただ、歩いた先に海があり、

海の向こうに、赤い土の匂いがあっただけや。

太陽は容赦なく照りつける。

灰色しか知らん目には、
この土地の色は強すぎた。

空は割れるほど青く、
人の服も、寺の壁も、
最初から極彩色で生まれたみたいに立っている。

強烈な太陽と空気
どこからともなくタブラバヤンの音がする
人々のざわめきが遠くで聞こえている。

その街の外れで、
小太郎は巨大な彫像と出逢う。
人や。

いや、人を超えた大きさの、人。

岩を削り出したその像は、
立っているのか、
座っているのか、
時間の途中で止まってしまったみたいやった。


目は閉じられている。

怒りも、慈悲も、
どちらとも取れる顔。

小太郎は、
無意識のうちに、ギターを下ろす。

「……あんたも、
ずっと聞いとる側か」

彫像は答えへん。
せやけど、
その沈黙は、橋の下の沈黙と同じ質を持っていた。
そのときや。


――ここまで、よう来たな。


声は、頭の中やない。
胸でもない。
大地そのものから、
振動みたいに伝わってくる。


老子小太郎は、
極楽鳥のことを思い出す。
「……あんたか?」
――違う。
――だが、
――同じ流れの中におる。


彫像の足元には、
祈りの跡が何層にも積もっている。
名もなき人間の願い、
怒り、感謝、呪い、後悔。
それらが、石に染み込んで、
この形を保っている。


――わたしは、語られすぎた存在や。
――せやから、
――もう語らん。


小太郎は、思わず笑う。
「それ、
一番ずるいやつやな」
沈黙が、
少しだけ、あたたかくなる。


――おまえは、
――まだ語るな。
――ここでは、黙れ。


小太郎は、その場に座り込む。

ギターにも触れへん。
言葉も探さへん。

ビーナが響いている。北インドのシタールではない。

南インドの風が吹き、

遠くで鐘の音が鳴る。


牛が歩き、
子どもが笑い、
祈りが日常の延長として流れていく。


老子小太郎は、初めて知る。
語り部にも、
黙る修行があることを。


巨大な彫像は、
何も教えへん。


せやけど、
すべてを預かっている。


その影の中で、
小太郎は静かに目を閉じる。
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